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奥手な二人は脱いだら淫ら(R15版)  作者: 矢崎未紗
第三章 儚い星空

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第15話 あふれて重なる恋情(中)

「大好きだ……桃音」

「っ……」


 身動きができないほどに抱きしめられたまま、謙志から熱っぽい声で告げられて、桃音は全身の体温が急上昇していくのを感じた。背中には喜びの鳥肌が立ち、頭の中では祝福を奏でる大きな鐘の音がゴーン、ゴーンと響いているようだ。


(松浦先輩……)


 桃音も謙志の身体に両腕を回して抱きしめ返した。背が高く、筋肉もあってがっしりとしている謙志の身体は大きくて分厚くて、とてもたくましく感じる。成人しているとはいえ、自分などまだまだ子供の部類のように思えるが、二歳年上の謙志はしっかりと「大人の男」なのだと思った。

 だが、この大きくて硬い身体がえっちの時はとろとろにやわくなってしまうのだと思うと、桃音はどうしようもなく謙志のことがかわいく思えてたまらなくなった。


「あの、私も……先輩のこと、名前で呼んでも……いいですか」


 抱き合ったまま、桃音は謙志に尋ねた。謙志は一言「構わない」と答える。


「謙志……くん……」


 年上の謙志を呼び捨てにするのはさすがに気が引けたので、桃音は語尾に小さく敬称をつけた。


「私も……大好きです」


 何も言わずに立ち止まっている時間がもったいない。勇気を出して、謙志に告白しなければ。人の一生は星の命よりもうんと短く、それはもしかしたら、好きな人と十分満足に過ごすには足りないくらいなのかもしれないのだから。

 では、いつ謙志に伝えようか。さすがにこの合宿中は無理だろうか。

 つい先ほど、告白しようと決心をしたものの、タイミングを悩んでいた桃音のスマホに届いた一通のメッセージ。このロビーで謙志が待っているという。ああ、きっとこのタイミングだ――そして謙志もきっと。

 そうして心をそわそわとさせながらここへ来た桃音は、あふれにあふれた気持ちをようやく謙志に伝えられた。そして謙志も、好きだと言ってくれた。こんなに嬉しいことが人生にあるなんて、信じられない。


「あのさ、えっと……」


 謙志は桃音を解放すると、やや俯き加減で尋ねた。


「俺と付き合って……くれるか?」


 桃音はそんな謙志の両手を取り、とろけるような笑顔で謙志を見上げた。


「はいっ……! 私でよければ、喜んで」


 桃音に視線を向けた謙志は、胸の奥がぎゅんっ、と熱くなった。

 桃音に掴まれた手を片方だけそっと振りほどき、その手を桃音の頬に添える。そうして彼女の顔を固定すると、桃音の唇に自分の唇をそっと重ね合わせた。まるで誓いのキスをするように。


「っ……」


 生まれて初めてキスをされた桃音は、自分の目が自然と閉じたことを不思議に思った。自分の心臓の鼓動音がドクドクととても強く聞こえて、その音にやけに冷静になる自分もいる。


「っ……はぁっ」


 謙志の唇が離れると、桃音は大きく息を吸い込んだ。謙志の顔を見ることができなくて、視線が自然と床に向いてしまう。


「嬉しい……」

「えっ?」

「やっと好きだって言えた……。それに、桃音と……付き合えるから……」


 桃音と同じように俯き加減の謙志は、気恥ずかしさを覚えながらも正直な気持ちを吐露した。


「あ、えっと……あのっ……私も……嬉しい……です」


 主犯は自分ではあるが、告白する前にえっちな行為に及んでしまい、好きなのに好きだと言えない期間がずいぶん長かったように思う。けれども、曖昧な関係だと、もう悩む必要はない。自分たちは今日から、相思相愛の恋人同士なのだ。


「…………」

「…………」


 片手同士をつないだまま、謙志と桃音は黙りこくってしまった。とても嬉しいのだが、嬉しすぎて感無量で、次にすべき会話が見つからない。自分の心が、どこか遠くの空へ飛ばされてしまったようだ。


(空……)


 謙志はふと、外を見る。桃音と一緒に見たいと思っていた、美しい満天の星だ。


「桃音」

「はい」


 謙志は桃音の名を呼んだが、特に何かを言うことはない。代わりに、桃音の身体を窓ガラスのほうに向けさせた。そして自分は桃音の背後に立ち、桃音の細い腰に両腕を回して彼女の身体を抱きしめる。


「星が……きれいだな」

「はい……」

「外での観察は、寒くなかったか?」

「あ、はい。インナーもしっかり冬物を持ってきて着てましたし、あのウィンドブレーカーがやっぱり、とても暖かかったです」

「そうか、よかった」


 思えば、新歓合宿で桃音に自分のウィンドブレーカーを貸した時。あの時すでに自分は、桃音を好きだったのだろう。将樹から指摘されていたが、好きでもない女子にそこまで親切にする自分ではない。あの雨の日、下着が透けていた桃音をほかの男の視線にさらしたくないと焦るほどに強く思ったのも、桃音という女の子をとても特別に想っていたからだ。


「謙志、くん……も……観察は楽しめましたか」


 ややぎこちなく、桃音も謙志に話しかけた。


「ああ。昨日も今日も、よく晴れたから」

「お天気は、ほんとラッキーでしたね」

「会長が晴れ女なのかもしれないな。嘘かほんとか知らないが、年四回の合宿の日程全部が雨だったことがあって、その時の会長が雨男だったんじゃないかって言われているらしい」

「ふふっ、そうなんですか? それは雨男の会長さんも、とても残念だったでしょうね」


 せっかく安くない参加費を貯めて、遠くまで来て、さあ星空観察を――と意気込んでいるのに全日雨では、とてもがっかりしてしまうだろう。今年の天文研究会会長の素子が晴れ女であるならば、しっかりと感謝しておこう。


「桃音は、秋合宿は不参加なんだよな。来月は忙しくするのか?」

「いえ、特にそういう予定はないですよ。九月は大学の図書館も二週間は閉館しているので……アルバイトをもう少し増やせるかな、と考えてはいますが」

「そうか。じゃあ……あまりお金がかからないようにしながら……また、どこかに一緒に行こう」

「っ……はい」


 桃音は自分の腹にある謙志の腕に自分の腕を重ねて、少しだけ興奮気味に頷いた。


「それに……」


 桃音は謙志のその腕をほどき、彼と向かい合う。そして謙志の半纏を引っ張って少しかがんでもらうと、謙志の耳元でささやいた。


「えっちなことも……しましょうね」

「っ……!」


 謙志は驚き、慌てて背筋を伸ばして戸惑いの表情を浮かべる。そんな謙志の困惑っぷりがとてもかわいくて、桃音はくすりとほほ笑んだ。


「謙志くんが嫌がるなら……しないけど」

「い、やっ……じゃ……ない……けど……その……あまり、外で言わないでくれ……」


 下半身が反応してしまうから――と続けることはできなかったが、桃音は謙志が何に困っているのかはお見通しのようで、「ふふっ」とやわらかく笑うだけだった。

 時間はかかったものの、こうしてこの日、二人はようやく恋人同士になったのだった。



   ◆◇◆◇◆



 謙志に告白できて無事に恋人同士になれた――結美と、そして姉の光希に桃音がそう報告すると、二人は自分のことのように喜んでくれた。結美も光希も、片思いをこじらせる桃音の話を根気強く聞いてくれていたので、二人が喜んでくれるところに着地できてよかったと、桃音は心底思った。

 謙志のほうも、事の仔細をすべて話したわけではないが、桃音と付き合うことになったと将樹に報告した。すると、将樹は喜ぶと同時に、一つ真面目な相談を謙志にした。

 その数日後――。


「こんにちは。あの、お待たせしました」

「やっほー、舟形ちゃん。時間前だし、そんなに待ってないから大丈夫だよー。ごめんね、せっかく付き合い始めたばかりのラブラブの時間を少し奪っちゃって」

「あ、いえ……そんな……」

「ふざけるなら帰るぞ」

「えっ、帰らないで! 俺は大真面目!」


 謙志と将樹がいたのは、大学があるレンテバー駅にあるチェーン店のカフェだった。そこに少し遅れてやってきた桃音が座り、謙志は将樹に呆れた表情を向ける。

 将樹が謙志にした相談は、桃音と話せないかということだった。

 謙志に構わず直接桃音にコンタクトをとってもよかったのだが、親友が片思いをしている女の子と二人で話すというのはさすがに気が引けたので、二人が付き合いだすまで密かに待っていたのだ。


「もしかして、結美ちゃんのことですか」


 二人のやり取りを見つつ、桃音は将樹に尋ねた。


「えっ、えっと……まあ……そうなんだけど……なんか、そんなにわかりやすいかな、俺」

「野中先輩がわかりやすいわけではないですよ。ただ、結美ちゃんのいない場所で私に用がある人って、だいたい結美ちゃんのことなので」


 大学に入ってからのここ数カ月、ずっとそうだった。

 桃音と結美では一緒に受ける講義は少ないし、時間割もだいぶ違う。朝、一緒に大学へ行ける日や帰りが一緒になる日は、週に半分あるかないかだ。それでも、昼ご飯はほぼ毎日結美と一緒に食べていたし、空き時間も結美と一緒に過ごすことが多かった。

 そんな桃音が、あえて結美のいないタイミングで男子から話しかけられるときというのは、だいたいが結美について尋ねられるときだった。


「うーん、じゃあ、直球で訊くんだけど……俺じゃまったく脈なしかな?」


 将樹はまっすぐに桃音を見つめて尋ねた。

 桃音はどうしたものかと考える。これが初対面の知らない先輩だったら、「本人のいないところで細かにあれこれと話すのはよくないので」と言って、お茶を濁すことができる。桃音自身も多少面識のある同学年の学生なら、「遠回しに私から何かを聞くよりも、結美ちゃん本人と話したほうが好感が持たれるのでは」と、それとなく誘導することができる。

 だが、将樹はそのどちらのパターンとも違う。それに、この場には謙志もいる。

 迷った桃音は、ちらりと謙志を見た。将樹にどう対応するべきなのか、ヒントが欲しいと思ったのだ。すると思いのほか、謙志は的確なことを言ってくれた。

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