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奥手な二人は脱いだら淫ら(R15版)  作者: 矢崎未紗
第二章 破廉恥な関係

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第09話 悩んで固める思い(上)

「光希お姉ちゃんは、自分から好きですって言って告白したこと……ある?」

「えぇ~?」


 週末、アルバイトを終えて帰宅した桃音は就寝前に姉の光希に尋ねた。


「うーん……二回はある……かなあ」

「その時って、すごく勇気が必要じゃなかった?」

「そりゃ、まあ……言おうって決めてから言うまではすごく緊張したし、かなり勇気を出したよ。なーにー? 例のかわいいって思う男の子のこと、やっぱり好きだって自覚したの?」

「そっ……それは……えっと……」


 二段ベッドの下にいる光希がひょこっと顔を出し、上段にいる桃音の様子をにやにやとした表情でうかがう。


「好きになったのに、言えないんだ?」

「う……うん……」


 桃音がしょげた顔で頷くと、光希は「よいしょ」と言いながら階段を上り、桃音がいる上段のベッドに座り込んだ。


「中高は女子校だったし、桃音にとっては初恋かな?」

「そう……かも……」

「かわいい男の子?」

「あ、えっと、ううん……かわいいっていうのは私がへんにそう思ってるだけで……見た目はえっと……どちらかというといかつい……のかな?」

「いかついの? え、ヤクザとかヤンキーみたいな?」

「そ、そうじゃなくて……あ、えっと、スポーツ科学部の先輩で、空手をしてる人だから……」

「スポーツマンかあ! ちょっと意外だけど、でも桃音が行った大学、偏差値高いんだもんね? 勉強ができるスポーツマンが、桃音の好きな人なんだ? 名前は?」

「えっと……松浦先輩」

「その松浦先輩に告白しても、桃音は振られちゃいそうなの? 脈なしだから、告白はできないの?」

「脈は……」


 相手が自分をどう思っているか。告白したら成功するのか、それとも失敗するのか。彼と付き合える脈はあるのかないのか。

 恋愛の駆け引きの経験がない桃音には、推し量りかねる。いったい何を根拠に、そうした点を推測すればいいのだろうか。


「わからない……けど……ほかの女の子よりは少しだけ特別に……接してもらっているかも……しれない」


 新歓合宿ではウィンドブレーカーを貸してくれた。変質者から助けてもくれた。部室で話しかければ、リズミカルに弾む感じではないものの、会話をしてくれる。それに何より、桃音に家に来てほしいと言った。そんなことを言ってあんな破廉恥なことをしたいと謙志が望むのは、たぶん自分だけのはずだ。少なくとも、天文研究会のメンバーで、自分以上に謙志と個人的に親しくしている女の子はいないと思う。


「でも、好かれてるとは……」

「思えないんだ? それは松浦先輩の言動的にそう思えないの? それとも、自分に自信がなくてそう思えないの?」

「えっ、う……うーん……」

「なんとなく、後者な気がするなあ。言うだけ言ってみればいいのに……って、あたしは外野だから軽くそう思っちゃうけどさ。桃音の中では、何かが心に引っかかって言えないんだね」

「うん……」


 何かが心に引っかかって――それがいったい何なのかはわからない。

 恥ずかしくて光希にはっきりとは言えないが、自分たちは、どちらかが好きだと言ったわけでもないのに、卑猥な行為をする関係になぜか一気に進んでしまった。その関係を少し前に戻してもう一度道を進み直すことを、必要以上に難しく感じてしまっている――その意識が、告白の妨げになっているのかもしれない。


「でも好きなんだよね? 松浦先輩と付き合いたいんだよね?」

「それは……うん……そう思ってると……思う……」

「だよね。付き合ったら何がいいってさ、お互いを特別な存在として独占したりされたり、そういう関係になれるっていうのがいいよね。手をつないでデートしてさ、そのうちキスもしてえっちもしてさ」

(えっちは……ちょっとだけ……もう……したけど……)


 姉にも兄にもわりとなんでも話せるが、性的なことを家族に話すのはさすがに恥ずかしくて、桃音は細かいところは何も言わなかった。友人の結美になら、その点もかなりさらけ出せるのだが。


「それでいつか結婚したらさ、死ぬまでずっと一緒で」

「け、結婚はさすがに……まだまだ先のことだよ」

「そう? あたしの高校の友達、すでに結婚した子が何人かいるよ? 今はいろんな生き方がある時代だからさ、もちろん、なかなか結婚しないで年を重ねていく人もいるだろうけど、結構早めに結婚する人だって珍しくないよ? あ、桃音は大学に入ったから、少なくともあと四年くらいはさすがに考えられないか」

「そうだね……結婚なんて、想像もできないよ」

「でも、すごく好きな人ですごくいい人なら、結婚するかも、って考えるのは普通じゃない? まあ、話が進みすぎか。告白もできてないのに」

「うん……」

「でも、できれば付き合いたいし、そのために告白したいって思ってるんだよね?」

「そうなんだけど……でも……どうしても勇気が……」


 好きです、と一言告げること。

 未経験のその行為は、桃音にとってとてもハードルが高い。


「告白する勇気が出ないっていうのは、言い換えればきっと、告白するのが怖いってことだよね。じゃあ、どうして怖いのかな? そこを考えてみるのはどう?」

「告白するのが怖い理由……?」

「そう。たとえば、『好きです』って伝えても、『自分も好きです』って返してはもらえない……そんな感じがするなら、告白するのは怖いよね。だったら、相手もきっと『好きです』って返してくれる……そう自信を持って思えるようになるまで、もっと松浦先輩に自分をアピールするとか、話すとか。それでいつかそう思えたら、もう怖くなくなって、自分から伝える勇気が出るんじゃないかな」

「とにかくアピールする……ってこと?」

「うーん、アピールもなんだけど……なんていうのかな。友達以上恋人未満みたいな、そう言えるくらい、もう少し親しい関係になるというか……」

(あんなえっちなことをしてる関係は……そういう関係って言えないのかな)

「ああ、でも……意外と、あふれて言っちゃうかもね」

「え?」


 光希はやさしくほほ笑みながら、桃音の頭をなでた。


「好きで、好きで、その人のことがすごく好きでたまらなくて、その気持ちがもう心からあふれそう……ってなったら、意外と自然に言えちゃうかもしれないよ。好きですって」

「そ、そんなこと……あるかなあ……」

「うーん、ないかもしれない! わかんない! 可能性の話!」


 光希はそう言うと、階段を伝ってベッドから降りていく。


「いいんじゃない、桃音。言えなくてもさ。松浦先輩を好きなその気持ち、のんびりあたためておけば」

「えぇ~……それでいいのかなあ」

「いいよー。だってきっと、無理をするより自然に言うほうが、桃音には合ってそうだもん。いつか自然にふっと言える日が来ると信じてさ、甘酸っぱい片思い期間を楽しみなよ」


 じゃ、おやすみ。そう言って光希は静かになった。

 桃音はプルスイッチの紐を引っ張り、部屋の明かりを消す。そして謙志の、破廉恥だが情けなくてかわいい表情を思い出しながら眠りにつくのだった。



   ◆◇◆◇◆



「で、舟形ちゃんに告白できたのか?」


 それぞれ二時限の授業が終わったので、謙志と将樹は主にスポーツ科学部の学生が利用する食堂「みさか」で昼食を共にしていた。

 桃音とのことで謙志にお節介を焼いてから一週間と少し。話す機会は何度かあったのに謙志が何も言わないので、しびれを切らした将樹は桃音の名前を出して尋ねたのだった。


「いや……」

「してないのかよ! え、じゃあ、先週二人で何を話したんだ?」

「いや……」

「おいおい、『いや……』じゃなくてさ」

「特に……何も……」


 謙志は俯いてカツカレーをスプーンですくう。

 桃音と破廉恥な行為をしたことはすでに一度話してあるので、続きを将樹に話しても構わないとは思う。だが、「告白はしていないけど、えっちなことをする関係にはなった」とは、とてもではないが素直に言えなくて、謙志は黙りこくった。


「舟形ちゃんに好きだって言えばいいじゃんか。舟形ちゃんもきっと、お前のことが好きだって」

(そんな……都合のいい話……)


 桃音の声が、ずっと欲していた理想の声だった。理想の声の持ち主である桃音は、さらに理想の責め方をしてくれた。謙志のことをかわいいと言って、上位に立って謙志を好き勝手にして、でも時々じらして我慢もさせてくれて、彼女と過ごした時間は、言葉では言い表せないほど甘美な時間だった。

 桃音がしてくれるえっちなことは、謙志にとってあまりにも理想的すぎて、これ以上都合のいいことなどあるはずがないと思ってしまう。そんな贅沢を望んだら、いま手にできている幸福が砂粒と化して、この手からこぼれてなくなってしまいそうな気がするのだ。


「よし、わかった。話すだけじゃ進まないから、舟形ちゃんをデートに誘おう!」

「なんでだよ」

「だから、デートしてたしかめればいいじゃん。もし舟形ちゃんがお前のことを好きじゃなかったら、たぶん誘っても断るだろうし、逆に、一緒に出かけて楽しんでくれたら、お前のことを好きな可能性が高くなるだろ?」

「そうか?」

「そうだって! 世の男女が二人で出かけるのは、そうやって相手の感情を見極めるためなんだよ!」

「そういうものか……」


 謙志は低い声でぼそりと呟いた。

 大学に入ってから付き合った元カノ二人とも、たしかにデートをした。だがそれは謙志にとって、「相手が行きたいと言ったから一緒に行ったもの」であって、相手を見極めるためにしたものではなかった。


「見極めることだけが目的じゃなくてもさ、舟形ちゃんと一緒にいたいって思わないか? 部室とか、大学の教室とかこういう食堂とかじゃなくてさ……別の場所に二人で行ってみたいって」

「まあ……」


 一人暮らしのあの部屋に桃音を呼んで、二人きりになりたい。それは強く思った。だが将樹の言うように、大学やマンションのあの部屋だけでなく、別の場所でも桃音と一緒にいたいかもしれない。たとえば桃音と肩を並べて美しい星空を一緒に見上げられたら、とても嬉しいと思うかもしれない。

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