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奥手な二人は脱いだら淫ら(R15版)  作者: 矢崎未紗
第二章 破廉恥な関係

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第07話 話してためらう青臭さ(中)

「え、あ、そ、そうなのか。そりゃまあ……むしろ健康で何より……か? なんかイイ動画でも見つけたのかよ」


 堅物な謙志は、同性同士であってもあまり積極的に下ネタを話さない。どんなプレイに興味があるとか、大人向けの動画に出ている女優の声はどこまでが作り物でどこからが本物なのかとか、男だけで行われたそうした雑談に謙志が参加したことは、ほとんどない。嫌いというわけではないようなのでその場を離れることもなく耳はかたむけていたが、こんなふうに素直に下ネタを口にする謙志は珍しいと将樹は思った。


「動画じゃない……」


 謙志はぼそりと答える。

 先週の突然の土砂降りの日。下着が透けるほどに濡れていた桃音を放っておくことができなくて、一人暮らしの部屋に連れ込んだ。風呂と着替えを貸して、服が乾くのを待つ――それだけのはずだったが、とんでもない展開になってしまった。それも、謙志にものすごく都合のいい展開だ。

 あの日桃音を駅に送ったあと、謙志は予定どおりに居酒屋のアルバイトに向かった。深夜の閉店作業まで黙々と働き、家に帰る。そして桃音を思い出しながらヌいた。あの日の夜だけでなくこの土日も、家にいる時間は身体が可能な限りヌいた。とにかく桃音の表情を、息遣いを、舌遣いを、甘く苦しめてくるあの声を、あの手の感触を思い出して、なんならそこに自分の妄想も付け足して、とにかくヌきまくった。罪悪感はあったが、謙志の身体はとんでもない勢いで子種を生産し続けていて、出しても出しても出し足りないほどに身体が疼いていたのだ。


「動画じゃない?」

「いや、その……先週、実は……その……」


 謙志は言葉を濁してとてもためらった。

 同じ高校の空手部だった将樹は親友だ。一番なんでも話せるし、信頼している。だが、謙志はおしゃべりな性格ではない。悩み事は基本的に、誰かに話すということはなく、自分一人で抱え、立ち向かい、そして解決する。将樹に話すことはせいぜい、悩みのスタート地点とゴール地点くらい。つまり、行き詰まっている途中経過を共有することはほとんどなかった。

 しかしいま抱えている悩みは、そう簡単にゴールに到達して解決しない。むしろ、へたをすれば延々と続く気がする。それに、一人で抱え続けるには恥ずかしくて苦しい。だから謙志は、珍しく将樹を頼ることにしたのだが、悩みを相談し慣れていないうえに内容がとてもデリケートというかセンシティブというか破廉恥なので、どうしても言葉に詰まる。

 それでも将樹が急かすことなく待ってくれていたので、謙志は険しい表情でぽつりと語った。


「土砂降りに……降られて……」

「ああ、あの日か? 突然一気に降ってきたもんな」

「駅に着いたら……その……舟形がいて……」

「舟形ちゃん?」

「あいつも……すごく濡れてて……それで、その……家に……連れていったんだ」

「うぇえっ!? え、家って、お前の!?」

「ああ……」

「め、珍しいな? っていうか、初めてか? 女子をあの部屋に連れ込んだのって」


 大学に入って謙志にできた二人の恋人のことを知っている将樹は、驚きの表情を浮かべた。彼女らとは健全な付き合いを少ししただけで別れてしまったので、謙志の一人暮らしのあの部屋に女子が入ったことはない。将樹をはじめ、男友達が集まったことは何度かあるが、あの部屋に今の今まで女っ気というものは皆無だったはずだ。


「それで……」

「それで?」

「その……舟形と…………や、やらしい展開に……なって……」

「ほぉおぅっ!? え、え、マジで? なんで!?」


 どこか苦々しい表情の謙志と違って、将樹は驚きつつも興奮し、目を輝かせてわくわくとした表情になった。


「え、やらしい展開って……ど、どこまで?」

「どこまでって……いや……その……」


 説明をしてもいいが、それはつまり、桃音のあのかわいくて妖艶な痴態を将樹に共有するということだ。それはできない、絶対に許せない。謙志はそう思った。自分を責める桃音の、あの蠱惑的で魅力的なすべては自分だけのものだ。いくら親友の将樹とはいえ、桃音のえっちな姿を想像させたくはない。

 謙志はなるべく具体的には答えず、あくまでも言葉少なに回答した。


「イく……ところまで……」

「えええぇっ!? マジで、マジで!? え、それってつまり、ついに謙志も脱童貞ってことか! やったじゃん!」

「いや、本番行為はしてない」

「ん、んぅ~っ!? いや、でも、イったんだよな? あ、え、それってどっちが?」

「俺……」

「お、おう、そうか……えっと……えっと、まあつまり、え、その……舟形ちゃんにヌいてもらったってこと? え、セックスはしてなくて、手とかで?」


 謙志と桃音、どちらも奥手な性格の二人がやらしい展開になったというだけでもにわかには信じがたいのに、謙志はきちんとイったのだと聞いて、将樹は首をかしげた。いったい、二人の間にはどんなやり取りがあったのだろうか。


「それで……えっと、舟形ちゃんと付き合うことになりました、って話?」

「いや……」

「え、〝いや〟って……どういうことだよ。だって、やらしいことはしたんだろ?」

「好きだとか付き合おうだとかは……言ってない。俺も……舟形も……」

「いやいや、待て待て、なんでだよ! どういうことなんだよ!?」


 謙志の恋愛経験はそう多くない。それは将樹も知っている。そしてその少ない経験はすべて、同じ展開だった。

 女の子から告白されてもすべて断ったのが高校時代。そして大学時代は、同じく女の子から告白されて付き合うことは了承したものの、身体を重ねるような深い仲にはなれず、不満をつのらせたカノジョに謙志が振られるというもの。それらに比べると、桃音との関係はあまりにも奇想天外で異質すぎた。


「だから、俺も困惑してて……どういうことなんだ、これは……」

「あ、ああ……まあ、そうだよな。え、舟形ちゃんは何も言わなかったのか?」

「言ってない……ただ……」

 ――でもね……こうしたいんです……松浦先輩が……かわいいから。


 桃音はそう言った。謙志のことがかわいく見えて仕方ないから、さわりたいのだと。

 その言葉を謙志は嬉しく思い、桃音にさわってほしいと思った。桃音の好きにしてほしいと間違いなく自分自身が望み、そして彼女の破廉恥な行為すべてを喜んで享受したのだ。


「俺のことが嫌いだったら……しないよな?」

「ん~ああ、まあ……そうだろうな。舟形ちゃんの性格的にも、身体だけの関係を持ちたいってことはないと思うし……何も言ってないとしてもまあ……お前のことが好きなんじゃねぇの」


 謙志が桃音の言動について具体的には教えてくれず、情報が少ないので将樹としては判断が難しい。しかし、結美と同じく異性に対して一定程度の警戒心を保っている桃音が、たとえば謙志以外の別の男性に同じ行為に出るかというと、それは想像できない。おそらくだが、相手が謙志だからこそ、桃音はいろいろと踏み込んだのではないだろうか。そしてそれは、桃音が謙志に惚れているということではないだろうか。


「で、謙志も舟形ちゃんのことが好きなんだよな?」

「それは……」

「おいおい、いつまでごまかすんだよ。好きなんだろ?」

「いや、えっと……好き……だと…………思う」


 謙志は右手で自分の口元を隠し、小声で肯定した。

 あんな破廉恥なことをしてしまう前から、桃音のことは好きだと思い始めていた。だからこそ桃音にさわられて、舞い上がるほどに嬉しかったのだ。自分のその恋心は、もう完全に認めなければならない。


「じゃあ一刻も早く、それを舟形ちゃんに伝えようぜ。で、堂々と付き合えばいいじゃん。それだけのことだよな?」

「それ、だけ……?」

「どういう流れでいやらしい展開になってお前がイったのかはわかんないけどさ、お前も舟形ちゃんも、相手のことが好きだからその行為をしたんだろ? 両思いなのは間違いないんだから、さっさと確定させればいいじゃん。そしたらそんな悩むことなく、もっとエロいことができるんじゃねぇの」

(もっと……エロいこと……)


 あの日、謙志も桃音も服は脱がなかった。桃音は謙志が貸したトレーナー一枚だったので若干普通の格好ではなかったが、それでも着衣状態ではあった。

 もしも告白して桃音と付き合うことができたら、お互いに服を脱いで、もっといやらしいことができるのか。それを想像しただけで、謙志は股間のブツが準備運動を始めそうな気配を感じ、慌てて午後の講義の内容に思いを馳せた。


「部室に行けば会えるかもしれないけど、ほかのメンバーもいそうだよな……。どうにか舟形ちゃんと二人きりになって告白すればいいと思うけど……って謙志、聞いてるか?」


 将樹は腕を組んで告白タイミングを考えてみたが、ふと見た謙志がまるで講義中かのようなしかめっ面になっていたので、「聞けよ! お前の話なんだよ!」と思わず頭をはたきたくなった。


「えっ……」

「えっ、じゃねぇよ。いつ告白するんだよ」

「いつ……いや……え、いつ……?」

「そういや、舟形ちゃんと連絡先交換はしてるのか?」

「し……してない……」

「はあ? 家に連れ込んでおきながら? それじゃ連絡できないから、偶然舟形ちゃんと会うしかチャンスがないじゃんか。ん~……お前はあまり望んでなさそうだけど、俺がお節介するしかないのか」

(告白……するのか……?)


 たしかに、桃音のことは好きだ。それはもう、認めるしかない。

 だがあんなふうに情けない姿をさらしたいま、桃音に告白したところで、彼女はそれを受け入れてくれるだろうか。あの日は桃音のほうからふれてくれたが、あの日の気持ちはもうすっかり冷めてしまっていないだろうか。ただおとなしく、桃音にされるがままだった弱々しい自分に、彼女はがっかりしたのではないだろうか。あんなにもみっともない姿を見せた自分を、果たして一人の男として桃音が好いてくれるだろうか。桃音が好いてくれるような魅力が、こんな自分にあるだろうか。

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