第8話 我思う故に我在り
それから約1週間が経った。
ギルドの依頼はむなしいほど効果がなく、サキナは見つかっていない。
その間、俺はギルドでFランクの依頼を細々こなして生計を立てていた。ただ、寝床や食事などは完全にアーベントロート家頼りなのが情けないけど。
甲斐性のないヒモ男だな、今の俺は。
だが、今はそんなことよりも、この間浮かんだ疑問だ。
『俺ははたして人間か?』
哲学的な問いだと言われればそれまで。だけど、ひとつひとつのピースを嵌めていったパズルが、ただの哲学ではないと答えている気がする。
典型的な世界。
住人の反応。
俺のスキル。
それぞれの点と点を結ぶと、見えない面が見えてくる。
俺は酒場で働きながら思考を整理する。
まず、この世界。前世で見たことあるような世界観だ。
中世ヨーロッパ風。冒険者ギルド。封建制度風の王政。どちらかというとRPGのような、ゲームのような世界観。
ドラクエとか、FFとか、そういつやつだ。
魔法があって、スキルがあって、ステータスもある。俺の鑑定スキルは普通のステータスを見られるものじゃないから、ステータスとやらをお目にかかったことはないけど。
そう考えると、そのステータスも形だけのものじゃないかと疑いが出てくる。多くの小説では、ステータスは形骸化している。
次にこの世界の住人だ。明らかにおかしい反応を示していた。
ここのマスターがいい例で、「人手不足」と言っておいて、次の瞬間には「もう雇えないよ」と言われた。
そのふたつは両立するかもしれないけど、直前には「雇う」とはっきり言っていた。
サキナのことを聞いた受け付け嬢の反応もおかしかった。サキナを知っていたはずなのに、その次の言葉は知らない、いない、人違い。
確かに毎日たくさんの人と関わるギルドの人なら勘違いもするかもしれない。
だけど、あの瞬間にサキナの存在を消されたかのような違和感が、そこにはあった。
この場合、受け付け嬢というよりサキナが特別な感じはする。今の今まで見つからないというのも、それを強める。
彼女はAランク冒険者として受け付け嬢に知られていた。なのに、他のギルドにも捜索依頼を出しても尻尾も掴めない。
これでは彼女が特別だと言っているようなものだ。
やっぱり鍵はサキナにある。ような気がする。さらに彼女の死因が見えない。これもある。
これは俺のスキルにも関係してくる。
俺の鑑定は人の「死」までの時間と死因が見えるスキルだ。
鑑定して今までおかしかったのは、俺とサキナのふたりだけ。俺たちだけがおかしかった。俺とサキナに一体なんの関係があるんだ?
俺の死因は「機能停止」。これは一般的に人に向かって使う言葉じゃない。機械や臓器など、物やシステムに向かって使う言葉だ。
「俺は人間じゃないのかもしれない」……そう思うのも無理はないだろう。
そうなると、サキナも人間じゃない可能性が……? となると、住民たちとの矛盾が出る。
むしろ、この世界の住人たちの方が人間っぽくない。なんか……どこか作り物っぽいというか、NPCっぽいというか……
なら俺はどうなんだ? NPCじゃないのか? 確証は?
昔、地球の偉い人が言った。「人は考える葦である」。「我思う。故に我在り」。
俺はこうして思考できている。人間じゃないとは思いたくない。
なら結局、俺はなんなんだ? 考えれば考えるほどわからなくなる。
今日の仕事はあまり手につかなかった。少し考えすぎたかもしれない。
仕事を終え、酒場の外で伸びをする。高い位置で輝く太陽がとても温かい。
……これが作り物だったらとゾッとする。
――ふと、なにかに惹かれるように路地裏を見た。
そこにいた人物に驚愕する。
「サキナ!」




