第7話 ある疑惑
酒場に足を踏み入れると、ギルドとはまた違った熱気が俺を包み込む。昼間から飲んでいる人もいれば、食事をしに来た人もいて、ウェイトレスさんが忙しなく駆け回っている。
俺はカウンターに向かって行って、バーテンダーに話しかける。
「あの……」
「注文かい?」
厳ついバーテンダーが俺を見下ろす。少し気後れしてしまった。
「い、いえ……人手いりませんか? 働き口を探してて」
「仕事を探してるなら冒険者ギルドに行った方がいいんじゃないか?」
「え? い、いや……俺のスキル、戦闘に向いてなくて……」
「ほう、そうだったのか! それでもギルドじゃなくて、こっちに来るのは珍しいな」
「え、そうなんですか?」
言われてみれば小説の主人公も、何故か取り敢えずギルドに行く印象がある。この世界の人の行動パターンって、そんな感じなのだろうか?
「ああ、だから冒険者ギルドに行った方がいい。悪いがうちでは新人は募集してないんだ」
「そ、そうですか……ありがとうございます」
俺は酒場を後にして別の酒場に向かった。が、同じことを言われてしまった。
「忙しそうですけど……人手はいいんですか?」
「すまんねえ」
酒場はダメか? 俺は今度は宿屋に行ってみる。だが、やはり同じことを言われてしまった。
「仕事……」
「うちではもう雇えないよ」
俺はとにかく色々回ってみた。
大工。
「体力には自信があります」
「うちではもう雇えないよ」
商会。
「読み書きと計算ができます」
「うちではもう雇えないよ」
猟師。
「弓の扱いは心得てます」
「うちではもう雇えないよ」
農家。
「体力には自信があります! 馬の扱いも上手いです!」
「うちではもう雇えないよ」
「どこなら雇ってんだよ!」
俺は町の中心で叫んでしまった。こうも職が見つからないとは……でも考えてみれば、ただの無職がいきなり面接に行って採用される方が変か? デメリットの方が大きそうだもんな……なんか世界が現代風だから募集さえしてればいけると勘違いしてしまったけど。
「冒険者するしかないのか? これ」
小説の主人公たちがギルドに行く理由がわかった気がする。しかしそうは言ってもこれはおかしいだろう。この町じゃ人が飽和してるのか?
そこまで大きい町ではないんだけど。
くよくよしてても仕方ない。とにかくお金を稼がないと。自分の食い扶持くらい、自分でなんとかしたい。それに、依頼料を払わないと。
俺は再び冒険者ギルドを訪れていた。掲示板に行き、Fランクの仕事を探す。
って、酒場での荷運びとか、家畜小屋の掃除とか色々出てるじゃないか! なんで仕事がないなんて言ったんだ?
それとも、ギルドを通さないといけない決まりでもあるのだろうか。
うちではもう雇えないよってなんなんだよ、断る時の常套句か?
落ち着こう、取り敢えず仕事があるのはいいことだ。
俺は依頼書を何枚か剥がして受け付けに持っていく。
そして最初に訪れた酒場へ来た。ここでは食料品やお酒などの荷運びの依頼を出していた。
「あの、冒険者ギルドの依頼を見て来たんですけど」
「お、そうかい。よろしくなあ!」
豪快に笑うマスター。さっき断られたばかりだったので、ジト目で彼を見てしまうが、気にも留めていなさそうだ。
「あの、さっきはなんで仕事がないなんて嘘ついたんですか?」
仕事が一区切りつき、休憩に入った時に聞いた。どうしてもおかしいと感じたからだ。
だが、当のマスターはキョトンとしていた。
「ギルドに依頼出してるし、人手はいつでも大歓迎だよ」
「でも俺が直接来た時は断りましたよね?」
「ああん? そうだったか? はっはっは! 歳を取ると物忘れが激しくなるなあ!」
誤魔化してるんだろうか? ただ、誤魔化す意味もない気がするけど。嘘をつくにしても、もっとマシな嘘をつくだろう。
みんなが行くギルドに行けば、仕事を出していることなんて一発でわかることなんだから。
「マスター、新人がここで働きたいって言ってきたら受け入れますか?」
「おん? もちろんいいぜ。ウチは万年人手不足だからな!」
ええ……
「ならこれからここで俺を働かせてくれませんか?」
「うちではもう雇えないよ」
「なんでそうなるんだよ!」
思わず怒鳴ってしまった。
「いきなりどうした? こわぁ……」
怖いのはあんただよ。なんでそんな機械みたいな反応――
そこで俺は脳みそに電流が走ったような感覚に陥った。機械?
自分のステータスにあった死因の言葉、「機能停止」。これって機械に使う言葉じゃないのか?
思いがけずに思考が走る。死因なんて書いてあるから生物かのように錯覚していた。でももし……もし、俺が人間じゃないとしたら?
心臓が早鐘を打つ。この鼓動は本物のはず。でも、この世界には現実味がない。この鼓動は本物か?
思えば最初からおかしかった。まるでお話の中の世界のように、画一的で現実味もない。
「俺は……俺は誰なんだ……?」
何もかもが信じられず、俺は自分自身に自問していた。




