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第5話 婚約破棄

 悲鳴は森の中からだ。魔物が出るため、襲われたんだろう。相手がどんなやつかはわからないが、俺は走った。


「たしかこっちの方……」


 そこにはオオカミ型の魔物に囲まれた馬車があった。馬車を守るように、鎧を着た騎士たちがオオカミと戦っており、馬車の中には豪華な衣装を着た女の子。


 俺は少し安心した。ひとりじゃない。だが、戦況は劣勢のようで、騎士たちはオオカミの速さに苦戦しているようだ。


 俺はどうしたらいい? スキルは鑑定。これだけではどうにも戦えるわけではない。武器はないが、倒された騎士の剣か槍なら使えるか?

 いや、無駄に戦うより、囮になった方がいいかもしれない。俺はまだここでは死なないようだから、少なくとも死ぬような怪我はしないはずだ。


 俺は近くの木の枝を拾ってオオカミに投げつける。


「おい! こっちだ!」


 すると数匹がこちらに向き直り、走ってくる。


 俺はすぐに踵を返して逃げ出す。とにかく引きつけよう。2.3匹釣れたなら上出来だ。


 なんとか木の上によじ登り、オオカミたちの攻撃をかわすことに成功したが……問題はここからどうするか、だ。


 再び自分の鑑定をしたが、結果は変わらず。ここで死ぬことはない。

 ならオオカミたちは?


『種族∶バトルウルフ

 状態∶興奮•攻撃的

 死因∶背後からの刺殺

 死亡まで∶50秒』


「これって……」


 俺はすぐに察した。騎士たちがやってくれるのだろうと。

 案の定、オオカミたちを各個撃破した騎士たちが、俺に向かって吠え続けていた個体も倒してくれた。


 お礼を言って木から下りる。


 すると、女の子が降りてきた。


「アルト様? アルト覚ですよね?」


「あ……エリゼ?」


 馬車から降りてきた女の子は知り合いだった。子爵家の令嬢で、俺の婚約相手――だった子。エリザベス•フォン•アーベントロートだ。

 今は追放された身だから、関係ないが……


「よかった! ご無事で。しかもアルト様が助けてくださるなんて……」


 エリゼが涙ぐんで俺に抱きついてくる。彼女を抱きとめ、背中を撫でる。


「君も無事でよかった。でも、なんとかしたのは俺じゃなくて騎士の人たちだ」


「いえ、あなたがいてくれたから、俺たちも上手く立ち回ることができたのです。ご協力、感謝します」


 騎士たちは恭しく敬礼する。もう、そんな立場ではないから、なんだか気恥ずかしくなってきた。


「あの、すごく言いにくいことなんだけど……」


「?」


 俺はエリゼたちに伯爵家から追放されたことを伝えた。


「まあ! アルト様のような方を追放だなんて……なんて方たちでしょう! スキルでしかものを見ていないのですわ」


 意外なことに、エリゼは俺のために怒ってくれた。いや、テンプレからすると、想像通りの反応なのかもしれない。


「アルト様のいない家と婚約など、こちらから願い下げですわ」


「えっ、でも……」


「なにか問題でも?」


 エリゼは澄ました顔で言っているが、問題だらけだ。せっかく格上の貴族との婚約を取り付けたのに、格下の自分から断るなど普通、言語道断だ。


 そもそも婚約とは家同士の契約(、、)となる。それを一方的に破棄するなんて、「自分たちは契約書にサインしておきながら一時の感情を優先して反故にする悪質な輩です」と言っているようなものだ。


 政治的な立場を重視する貴族にとってはあまりにも痛手で、そのまま没落してもおかしくない。


「ダメだって! 俺がいないからって勝手にそんなことしたら、レインハルト家から何を言われるか……ていうか婚約破棄がなにかわかってるのか!?」


「もちろんですわ。でも、わたくしはアルト様以外と結婚する気はありません」


 俺は頭を抱えた。たぶんなにもわかってない。


「エリゼ……考え直して……」


「アルト様はわたくしが他の馬の骨とも知れない輩と結婚してもよろしいので!?」


 エリゼは頬を膨らませて怒る。だからそういう問題じゃ……


 だが何を言っても聞く耳を持たなかった彼女は、すぐに屋敷に戻って婚約を取り消すと言って聞かない。


 まあ、仕方ない。一旦屋敷に戻ってエリゼの父上であるアルゼイド・フォン・アーベントロード子爵に説得してもらうしかない。

 そう思って一緒に屋敷に行った俺を待っていたのは衝撃の展開――ある意味わかっていた展開だった。

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