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森の魔女  作者: 杉井流 知寄
第四章 魔女、森を出ていく
27/38

 6

 仕事を早めに切り上げ、森に向かったゲルトは言葉を失う。


 関係者以外立ち入り禁止。


 大きくはっきり書かれた看板。


 なんだこれは。


 森が誰のものでだって?


 驚きを通り越して呆れてしまう。馬鹿馬鹿しくさえもある。


 森は広く深い。その全てを知る者はいない。


 森の向こうに広がる世界を人々は知ってはいるが、それは森の中央部を避け周りを拓いた結果であり、森の全てが人によって開拓された訳ではない。中央部――というにはあまりにも広大な地域ではあるが――には猟師であるゲルトですら足を踏み入れた事はなかった。


 だというのに。


 苛立ちを覚えながらゲルトは己に出来る事を考える。


 メルディン社といえば大企業。こんな事をするからにはおそらく、法的根拠は用意しているに違いない。だとすれば、一般市民であるゲルトに出来る事はたかがしれている。しれてはいるが、己はエーファの名付け親。なにもしない訳にはいかない。


 さてどうするか……。


 ゲルトは看板の前で考える。


 とりあえず町長にでも相談してみようか。ゲルトには国の難しい事はよく分からない。所詮己は猟師なだけだ。役人ではない。


 夕方にはまだ早い時間だった。このまま町長の所を訪ねていっても問題あるまい。と、結論を下した時だ。


「失礼ですが、貴方は魔女の関係者の方で?」


 ゲルトは無言で声の方に振り返った。


 一体いつの間に現れたのか。ゲルトの後ろに男が立っていた。


 地味な男だ。人並みにすぐに埋もれてしまいそうな、そんなどこにでも居そうな男。ダークスーツもまるで闇夜だ。


「……あんたは」


「申し遅れました、私はこういう者です」


 胡乱げに問い返しても男は気分を害した様子もなく、逆ににこやかに名刺を差し出してきた。


 そこには一匹の黒猫が描かれ、その黒猫の真っ直ぐに伸ばされた尻尾の上にこう書かれていた。


 メルディン社特別顧問、ミハエル・フォグナー。


 なんとも胡散臭い名刺だ。


 ゲルトの眉間のしわが深まる。


「魔女の森に用がある貴方ですから、魔法というものはご存じですよね。私はその魔法の担当なんですよ。特別顧問なんて大層な響きですが、大した事はありません。お手当も大したことありませんしね、はは」


 軽く愚痴めいたものを混ぜながら男は身分を明かした。魔法という単語をいやに強調しながら。


「……魔術の間違いではないのか」


 魔法と魔術。


 少しでも魔をかじった者なら分かるはず。この二つの圧倒的な違いを。その差を。


 だからこそ言い間違える筈などないのに、ゲルトは聞き返していた。


「ふふ、残念ですが言い間違えではありませんよ。最も私自身は魔法使いではありませんが」


「……では何者だ」


「研究者ですよ、私の本質としてはね」


 男――ミハエル・フォグナーはそれ以上語らなかった。


 にこりと笑みを浮かべ、


「それでは本題にはいりましょうか。貴方はこの森の関係者の方ですよね」


 強引に話を進める。


 否定する事でもないので黙って肯けば。


「やはりそうですか、ちょうど良かった。向こうが少し手詰まりになってしまい、あの方がご機嫌斜めなんですよね。私は全く関係ないのに、おかげでとばっちりですよ。ノルマはこなした筈なんですが、全く困ったものです」


 男は肩をすくめ、何気ない調子でとんでもない事を告げる。


「ではそういう訳で、来て頂きましょうか。貴方が顔を出せばあの方のご機嫌も直る事でしょう」


 なんと一方的なお誘いか。こちらの都合などお構いなしだ。


「……おれにも都合がある。今日の所は一度出直しを――」


 ゲルトは丁寧に断りを入れる、入れようとした。


 しかし、そんなもの、


「申し訳ありませんが、私にも都合があります。だからついて来てもらいますよ、無理矢理にでもね」


 聞く相手ではなかった。


「力ずくか」


「そうなりますね、大人しくして頂けないなら」


 男の口調は変わる事は無い。まるで世間話をしているような、軽いもの。内容はひどく物騒になっているが。


「……」


 ゲルトは無言でミハエルと距離を取った。


 ミハエルはゲルトと森を挟むように現れた。逃げ場はない。


 昨日エーファが空を飛んできたせいか、今日はなんとなく普段は持ち歩かないナイフを忍ばせていた。忍ばせてはいたが、相手はまだ丸腰だ。先に抜くのは躊躇われた。


「やはり貴方は堅気の方ですね。相手に先手を許すとは甘いですよ」


「!」


 ミハエルの不穏な言葉と共に、ゲルトの足下に白く輝く方陣が現れる。


「一名様、ご案内」


 ミハエルの楽しげな声とともに、ゲルトの視界は光で覆われた。



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