愛と勇気のパンに転生した話
見慣れぬ天井、見慣れぬ壁。
そこに置かれた台の上で大の字の姿勢で目覚めて10分ほど。未だに最初の姿勢のまま動かずにいた。
目が覚めた当初、傍らに老人が立っていた。目が合ってすぐ私は話しかけようとしたが、その老人は慌てて近くのテーブルの所に走っていきスマホ的なものを見ながら紙に文字を書き始めた。
必要だと分かってたなら最初から用意しておけよ、と思ったが、頑張って書いているのを止めるのもなんだか気が引けたので何もしないでいた。
そして今に至る。
さすがにこのまま待っているのも退屈だ。そろそろ起き上がろうかと思った時、ようやく老人が立ち上がり紙を携えこちらにやって来た。
老人は紙を前につきだし読み上げ始める。
「ハロー、ジャパン!」
英語かよ。そんでもってそれ返しが難しいな。
などと考えていると老人が続きを読み上げる。
「アイアム…ブレッド…プラント…オーナー、ジャマー!」
とても味方サイドの人名とは思えない。それにしても異世界の公用語って英語なのか。てっきり日本語がデフォルトだと思ってた。
そんなことに考えを巡らせていると、老人は紙を折り畳み自分の言葉で話し始める。
「愛と勇気のパン工場へようこそ!」
日本語しゃべれるんかい!
ジャマーおじいさんは、起き上がった私の周りを回りながら話し始める。
「異世界からやって来た戦士よ。顔がアンパンで体が人間の半人半妖の姿になっていてさぞ驚いたことだろう。」
鏡無いから自分の姿なんて見てねーわ。今自分の体そんなことになってんの?てか、こういうの半人半妖って言うの?
「自己紹介が遅れたな。私は究極のパン職人ジャマーおじいさんだ。
私には敵対している者がいてね。奴らが半人半妖の異世界人を呼んだと聞き、闇魔術協会のブラックタイガー大帝にお前を召喚してもらったというわけだ。」
お前が召喚したんじゃないんかい。誰だよその肩書きが悪党丸出しな奴。どうでもいいけど大帝ってなんだよ。そんな呼び名使う奴ミキサーの超人しか知らねえわ。
「敵対する相手の名は、至高のパン職人ムーザンだ。」
名前を美味しんぼからパロディしたら鬼滅になるのやめろ!
「一応敵方の情報を伝えておくべきじゃろう。
奴が召喚したのは容姿端麗、八方美人。赤ワインの半人半妖、生ビールマンだ。敵ながらロックだろう?生ビールだけに。」
相手側の召喚された者がパンではないとか八方美人は美人じゃないなどという些細なことは、生ビールのロックというパワーワードの前ではどうでもよくなる。
バターになりそうなほどグルグル回っていたジャマーおじいさんがようやく足を止める。
「来週の料理対決には是が非でも勝ちたいんじゃ。頼む、力を貸してくれ!」
一切頭を下げないのはこの世界の流儀だと信じたい。
こちらが渋々頷くとジャマーおじいさんは大きくうなずく。
「うむ。どうせ他にやることもないだろうから絶対引き受けてくれると思っとったぞ!」
うるせえ、一言多いんだよ。
ジャマーおじいさんは紙を取り出す。
「次回の対決の内容が、0人全妖のメガネ出っ歯ウサギ先生から届いている。」
0人全妖って何だよ。ただの妖怪じゃねーか。それとメガネ出っ歯ウサギって…個人名は無いのか。
「このところ負けが混んでいてな…。
アンパン、食パン、カレーパン、メロンパン、クリームパン、ウグイスパン…。食パンだけは954票対836票で僅差ではあったが他は酷いものだった。」
審査員何人いるんだよ。そんでもって僅差って言っても100票以上差があるけどそれ僅差なのか?
ジャマーおじいさんは何かを急に思い出したのか急ににやけ出す。
「ひとつ豆知識を授けよう。
アンパンにはあんこが入っている。
ジャムパンにはジャムが入っている。
ウグイスパンには何が入っていると思う?」
ジャマーおじいさんはちょっと間を置くと自信満々で話し出す。
「ウグイスっていう鳥じゃなくて、ずんだが入っているんじゃよ!」
ちげーよ、ウグイス豆だよ!豆知識で豆の知識を間違えんな!
ジャマーおじいさんはマジメな顔に戻る。
「だが連敗も今回までで終わりだ。」
なんかその表現だと今回も負けるみたいだな。まあ言いたいことは分かるからいいけど。
「そうと決まればさっそく特訓じゃ!
幸い今回のお題に使える材料はなかなか良いものが揃っている。
必ずや今回のパエリア対決に勝つのじゃ!」
パン対決じゃないんかい。
いい加減にしろ!
おわり