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すれ違いだらけの僕の運命  作者: 甘衣 一語
旅行
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 この世界には男女の他に第二の性がある。発情期があり、男女共に妊娠が可能なω(オメガ)。身体能力や知能が優れたエリート階級のα(アルファ)。人口の9割を占めるβ(べーた)。

オメガの発情期は数ヶ月に一度、数日続き、アルファを惑わすフェロモンを体にまとう。発情期中にアルファがオメガの項を噛むと運命の番となり、番以外へのフェロモンの効果は無くなる。さらに、オメガは番以外に対して拒絶反応を示すようになる。番契約は一度しかできず、解約はできないため事故で番になることがないように、オメガの中には項を保護するチョーカーを着けている者もいる。

 そんな、生まれながらの運命が定められている。

 人の話し声で目を覚ます。1つは平宮さんの声だが、他2人の声は小さくて聞こえない。このホテルの人か、もしくは園崎さん達だろう。

 汗で湿った体をシャワーで洗い流し、外に出ると平宮さんがちょうど扉を閉めていた。

 園崎さん達からの朝食の誘いだったらしい。平宮さんは僕に朝食会場の場所だけ伝えてベットに戻ろうとする。普段朝食を食べる習慣がないと言っていたが、今日も朝食を抜くつもりのようだ。

 そんな平宮さんを無理矢理説得して部屋を出る。

 エレベータを使うほどの階数でもないからと階段で下に向かう。

 ちょうど2階まで降りたとき、僕の後を降りている平宮さんが発した言葉に思わず足を踏み外す。

 そんな俺を平宮さんが支えてくれるが、その手を直ぐに振り払う。

 恥ずかしい、確かに昨日は寝ぼけていたが、まさか、僕が平宮さんの寝ているベッドに這入ってしまっていたと言う事実が僕を動揺させる。

 友達同士なら笑って流せる間違いだが、相手はただのバイト先の同僚だ。そんな相手のベットに間違いでも入ってしまった自分が恥ずかしい。


 平宮さんと距離を取りながらフロント隣の朝食会場に入ると、園崎さん達が入り口近くの4人席で僕たちを待っていた。4人で一緒の朝食は園崎さんだけが喋っているのに賑やかで、いつも1人での食事になれた僕には新鮮で楽しかった。

 朝食後、1時間ほどゆっくりと過ごし、歩いてビーチに向かう。平宮さんも園崎さんも手ぶらで、荷物を持っているのは白崎さんだけだ。

 ホテルから数分のビーチはまだ人が少なく閑散としている。更衣室やライフセーバーの控え室はすでに開いているが、飲食店が開いていないからだろう。つい5分ほど前に遊泳可能になったばかりだ。

 ビーチに着くと園崎さんは直ぐに更衣室に向かい、園崎さんもその後を追う。残された僕と平宮さんは園崎さんの荷物をもってシートを敷く場所を探す。ビーチを端から端まで見て回り、無難な場所に広げて休憩する。

 園崎さんのカバンを探ると扇子やペットボトル、帽子、日焼け止めといろいろなモノが出てくる。帽子をかぶり、日焼け止めを塗ると少し暑さが和らぐ。

 着替え終わった平宮さん達は僕たちに一言残して海に走ってゆく。

 平宮さんは本当に泳がなくてもよいのかと、何度も確認してくれるが適当にはぐらかす。泳げないと正直に答えても、大抵の人にはその意味が伝わらない。

 僕は、小学校中学校とまともに学校に行っていなかったので、水泳の授業を受けたことがない。水泳が義務教育の一環であることは知っているが、『泳ぐ』という言葉がさす動きの意味も理解できていない。

 僕のことより平宮さんが泳がない理由が気になるが、こちらも気分が乗らないからとしか教えてくれない。


 話題は僕のバイトのことに移る。教育係の平宮さんだから知っていることだが、僕は今のバイト先を夏季休暇が終わったら止める予定だ。このことは面接をしたときに既に伝えていた。

 バイトを続けて親しくなると色々不都合なことも知られてしまう。期間を決めた関係が1番だ。本当は平宮さんともこうやって親しくするつもりはなかったのに。

 その後も話題は趣味や学校のことになど、コロコロ変わる。他にすることのない僕はその会話を少し楽しむ。

 大学のことや園崎さんたちとの関係、平宮さんは自分のことを楽しそうに話している。僕が飽きないように気に掛けながらも楽しそうに喋り続ける。


 1時間もすると周りも賑やかになり、泳ぎ疲れた2人も人波に揉まれながら帰ってくる。ちょうどお昼時で海の家に併設された飲食店が開いているので、そこで昼食を摂ることにする。かき氷など縁日で販売されているような料理を中心に様々な種類の料理が提供されている。平宮さんはかき氷だけ。他の2人もそれぞれ好きな料理を選び机に運ぶ。僕もパラソル下のテーブルで焼きそばを食べる。海の目の前での食事はいつもとは違い、開放的な空間が食事をよりおいしそうに見せている気がした。


 園崎さんは海に飽きたようで、次どこに行くかを話し始めている。

 そんな彼の後ろ、1キロほど離れた場所に人だかりができている。人が増えているからではなく明らかに人為的な人だかりだ。周りも次第に気付きざわめきが広がる。オメガの突発的なヒートが起こったらしい。この距離なら影響はない。そう分かっていても、心なしか警戒した雰囲気が漂う。オメガのヒートは場合によってはベータでも影響を受ける。この空気を一言で表せば『迷惑』だろう。

 オメガの人に悪気はないのだろうが、僕もそう思ってしまう。もし、少し遅ければ僕はそのフェロモンに当てられていたのだ。もうあの頃の感情を味わいたくはない。もし、もしも。

 そんな最悪の情景が頭をよぎる。自分が誰かを傷つけて、平宮さんにもそれがばれて、友人も親しくしてくれる誰かも失った僕が、頭を横切る。

 ありもしない、ありえない。そう分かっていても動悸が激しくなる。


 気付けば席に座っているのは僕だけだった。園崎さん達は立ち上がり、食器を片付けていた。

 慌てて僕も立ち上がり、その後を追う。いつの間にか次に図書館と科学館に行くことが決まってしまっていた。

 ホテルに戻って車に乗り、またビーチ沿いの道路を通って目的地へと向かう。もう、あの人だかりはなくなっていた。オメガの人も救護されたようで何事もなかったように賑やかな声だけが車に響いた。

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