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すれ違いだらけの僕の運命  作者: 甘衣 一語
旅行
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挨拶

 この世界には男女の他に第二の性がある。発情期があり、男女共に妊娠が可能なω(オメガ)。身体能力や知能が優れたエリート階級のα(アルファ)。人口の9割を占めるβ(べーた)。

オメガの発情期は数ヶ月に一度、数日続き、アルファを惑わすフェロモンを体にまとう。発情期中にアルファがオメガの項を噛むと運命の番となり、番以外へのフェロモンの効果は無くなる。さらに、オメガは番以外に対して拒絶反応を示すようになる。番契約は一度しかできず、解約はできないため事故で番になることがないように、オメガの中には項を保護するチョーカーを着けている者もいる。

 そんな、生まれながらの運命が定められている。

 いつもの時間に目が覚める。いつもは夏の蒸し暑さを感じるが、今日は家の風通しがよいからか爽やかな目覚めだ。

 平宮さんはまだ寝ていて、まだしばらくは起きそうにない。昨日僕以上に頑張っていたから疲れているのだろう。

 朝食は代わりに僕が作ることにする。冷蔵庫を見るが、ナスとオクラ、ピーマンが少しずつと鶏肉が残っている。豚肉は平宮さんが今日の昼食に使うだろう。

 ナスとオクラで味噌汁を作って、あとご飯。もう一品は朝なので軽めのモノにしたい。無難に卵を使いたいが、冷蔵庫には入っていない。

 卵はないので、平宮さんにメッセージを送り昨日行った店に行く。大通りのほうはまだ開いていないので、もう片方のお店だ。ちょうど開店準備をしていたところで、まだ開店していなかったがお店に入れてくれた。4個入りのパックをひとつ買う。

 家に帰り、作り始める。料理は小学生の頃からずっと続けている。好きではないが人並みにはできる。昨日の生姜焼きの味付けを参考に甘めの味付けをする。

 ちょうど作りあがった頃に平宮さんも起きてきた。朝に弱いようで普段は朝食を取らないらしいが。少なめに作った朝食は全て食べてくれた。

 今回は代わりに平宮さんに食器洗いを任せ、手持ち無沙汰になった僕は、久しぶりに走りに行く。小中学校の頃は朝、学校に早く行き校庭を走っていた。高校に入ってからはしていないが今も走ることは好きだ。

 大通りは車通が多いので、反対側の古民家沿いの道をまっすぐに走る。本当はいろいろなところを見て回ろうと思っていたが、平宮さんに注意されたので素直にそれに従う。

 15分ほど走り続けると行き止まり、そこで折り返して家に戻る。かなり汗をかいたので早くシャワーを浴びたい。

 家の扉に手をかけて横に引っ張るが、動かない。慌ててポケットに手を入れるが、スマホが見つからない。どうやら家の中に置き忘れているようだ。宮さんも外出しているようで、扉をたたき、呼び鈴を押すが反応はない。

 玄関先に座って待っているが、全く帰ってこない。

 こんな炎天下の玄関に座っていると小さい頃を思い出す。何か失敗して怒られたとき、よく家の外で1人泣いていた。そしたら、いとこ達が話しかけてきていつの間にか涙も止まって一緒になって外で遊ぶ。小さい頃は本当によく外に出ていた。今とは全く反対の生活を送っていた。

 そんなことを思い出していると次第に視界がぼやけていく。今まで小さい頃のことを思い出したことはなかった。自分でもどうすればよいか分からず、ポタポタと落ちて地面に跡を付ける涙をただじっと見つめてしまう。誰かとこうやって関わってしまうと、弱くなってしまう。思い出したくない事がドンドン蘇ってくる。もう、人と関わりたくない。

「あ、ごめん慶人。」

 頭の上から聞き慣れた声が降ってくる。平宮さんに招き入れられて家に入り、やっと日差しから解放される。いつの間にか地面に落ちた涙の痕も乾いている。

 しばらくして大きな音と共に玄関が開き、1人の男性が家に入ってくる。平宮さんが呼んだらしく、家の修理をしてくれるらしい。さっきまでこの人を探しに行っていたそうだ。

 その人が作業を始めたことを確認して、僕たちも掃除に戻る。平宮さんはまだ休んでいいと言ってくれたが、平宮さん1人に作業をさせるのは気が引けるし、今は体を動かして何も考えない時間が欲しい。

 今日は生け垣の剪定だ。倉庫から道具を運び出す。平宮さんが脚立に乗って剪定し、僕は脚立を支えたり落ちてきた枝を集めたりする。1時間ほどで敷地を囲むように植えられた生け垣をすべて整え終わる。プロの仕事のようにきれいに整い、見違えるようにきれいになった。

 切られた枝や落ち葉穴を掘って土に埋める。次来る頃にはある程度分解されているらしい。

 これで一通りの掃除は終わった。家の修理も僕らの作業の間に終わっていた。確認したら押し入れの滑りもよくなっていた。


 かなり汗をかいたので、シャワーを浴びる。その間に平宮さんが昼食を作ってくれていた。そうめんとサーモンフライだ。そうめんにはミカンが飾られている。

 今回もまた、食器洗いをする。その間に平宮さんもシャワーを浴びて、ついでに洗濯までしてくれる。この暑さなら午後には乾いているだろう。

 洗濯を終えた服を外に干して、僕も一緒にお墓参りに向かう。少し距離が遠いらしく、移動手段は自転車だ。少し古びた自転車に跨がって平宮さんの後を追う。次第に坂道になる道を必死に追いかけて、墓地は山の上の方にあった。

 広場の併設された墓地で市営墓地だろう。いろいろな人の墓が集っている。僕の家は自宅に墓が作られていて、この光景を見ることも初めてだ。墓が建ち並ぶ姿は少し怖かったが、掃除をしたり手を合わせたりして故人と対面している人たちを見ると僕の心も落ち着く。

 道具を集めている平宮さんの後をついて回る。最後にたどり着いたのは『筑波家』と書かれた墓だ。訪問者は多いようで、線香も多く立っている。

 墓掃除をするのは初めてだが、平宮さんに指示されながら作業を進める。掃除が終わると、線香を立てて手を合わせる。この墓に誰が入っているかもよく知らない。特に伝えることもないので、「こんにちは」という挨拶だけで済ませる。平宮さんはまだ手を合わせている。

 僕のことを忘れていたのだろう。顔を上げ、僕と目が合ったとき気まずそうに顔を逸らしていた。少しからかうと面白いくらいに慌てていた。

 道具を片付け、おなじ道を通って家に帰る。あの墓には平宮さんのお母さんと、平宮さんの祖父母などが入っているらしい。それならもう少し挨拶しておいた方がよかったのだろうか。


 洗濯物を畳み、帰る準備をしていると平宮さんに電話が来た。相手が誰かは分からないが少し揉めているようだ。しばらくして平宮さんがこちらを振り返る。何か用事ができたらしく、もう少しここで待たないらしい。

 それから50分。まだ掃除をしていない畳の間や廊下の掃除をして時間を潰していると、家の外で車の音が響き、2人の訪問者が現れた。

 いつも平宮さんと一緒にカフェに来ている2人だ。あの煩い人は僕を見て嬉しそうに手を振っているが、もう1人の人は平宮さんと言い合っている。

 気になって声をかけるが、そのせいで余計にややこしくなったようだ。2人は平宮さんの友人で、1人は白崎優大(しらさきゆうだい)、もう1人は園崎大和(そのざきやまと)というらしい。2人の言い合いを気にせず、園崎さんは家の中に入り椅子に座っている。その後を追って2人も席に座り落着こうと努めている。


 全員座ると、白崎さんが目的を話し出す。どうやら2人は平宮さんを海に誘いに来たらしい。平宮さんはそのことを知らなかったようで、僕のことを気にしてかなり怒っている。確かに、僕は平宮さんがいないと家に帰れない。しかし、僕のせいで平宮さんがせっかくの盆休みを台無しにするのも心苦しい。

 平宮さんがよければ僕も行きたいと伝えると、平宮さんより先に園崎さんが返事をして話が進んでいく。あっという間に荷物が車に積まれ、僕たちは家から遠ざかっていった。

 僕の盆休みは異例の始まりを告げた。

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