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すれ違いだらけの僕の運命  作者: 甘衣 一語
旅行
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唯一の宝物

 この世界には男女の他に第二の性がある。発情期があり、男女共に妊娠が可能なω(オメガ)。身体能力や知能が優れたエリート階級のα(アルファ)。人口の9割を占めるβ(べーた)。

オメガの発情期は数ヶ月に一度、数日続き、アルファを惑わすフェロモンを体にまとう。発情期中にアルファがオメガの項を噛むと運命の番となり、番以外へのフェロモンの効果は無くなる。さらに、オメガは番以外に対して拒絶反応を示すようになる。番契約は一度しかできず、解約はできないため事故で番になることがないように、オメガの中には項を保護するチョーカーを着けている者もいる。

 そんな、生まれながらの運命が定められている。

 お盆休みの初日、平宮さんが待合場所として指定してきたのは僕の家からの最寄り駅だ。

 約束時間より15分ほど早く駅に着くと既に平宮さんは到着していた。僕が来るまでに切符を発行してくれいて、しばらく一緒に日陰で休んでいたが、少しずつ日が昇り暑くなってきたので構内に移る。

 普段あまり電車に乗らないから切符を渡されてもどこに行けばよいか分からない。お盆の帰省ラッシュで人が多い中、平宮さんの後ろを必死に追いかける。

 駅のホームに着くと、ちょうど電車が到着して慌てていると、平宮さんが次の電車で乗ると教えてくれる。1人で慌てていた自分が恥ずかしくなるが、平宮さんに気付かれないよう必死に取り繕う。

 平宮さんが貸してくれた扇子で涼みながら、しばらくして到着した電車に乗る。さっきの電車には人が多く乗っていたが、今度の電車は空いている。

 入り口近くのシートに座り、平宮さんが持っていた荷物を前に抱えている。

 平宮さんは降りる駅の名前を僕に伝えて眠ってしまった。今は7時前、人によってはまだ寝ている時間だろう。それに、平宮さんは駅でかなり待っていたようだ。まだ、日差しが差していないので日中ほど暑くないが汗をかいている。

 しばらくは移り変わる窓の外を見ていたが、次第に喉が渇き電車内を見て回る。期待していた自販機はどの車両にもなく、仕方なく僕は席に戻る。元々外出時に荷物を持ち歩く習慣がない僕は、その癖で用意していた荷物を玄関に置いたまま出てきてしまった。今持っているのはスマホと家の鍵、小さな小銭入れだけだ。

 しばらく思案し、意を決して平宮さんに持っているペットボトルをもらっていいか聞くと、やや寝ぼけた声で返事が返ってきた。少し不安だったが、まだ目的の駅までは15駅ほどある。それまで我慢はできないので仕方なく平宮さんが持っているカバンを漁り、未開封のペットボトルを1つ取り出す。他にもお菓子や服などが入っている。


 それから20分。目的の駅は次の次だ。

 隣で寝ている平宮さんに声をかけるが、かなり深く寝ているようでなかなか起きない。

 一分ほど粘ったが起きないので、平手打ちかなにかをした方がよいだろうかと考えていると、ちょうどよいタイミングで目を覚ました。平宮さんが目を覚ますまでの間でまた一駅過ぎてしまった。

 やはり寝ぼけていたようで僕が勝手に荷物を漁ったことを怒っているが、僕はしっかりと確認を取った。悪いことはしていない。そうこうしている間に駅に到着した。先に降りていると、その後を追って平宮さんも降りてきて、電車は去って行く。

 どこに行けばよいのか分からないので、平宮さんに道を聞きながら移動する。


 そうして数回の乗り換えを繰り返し、出発から数時間やっと到着した駅に見覚えはなかった。さらにそこからバスで移動した場所が平宮さんの目的地だった。

 最後まで目的を聞かずについてきたが、目的の場所は僕の予想を超える場所だった。


「ついたぞ。」

 バス停から少し歩いたそこは、昔懐かしの日本家屋だった。庭には雑草が繁茂し、かなり昔に建てられたことが分かる場所だった。

 そんな、現代ではなかなか入ることもない建物に平宮さんはためらいなく入っていく。

 ここは平宮さんの祖父母の実家らしい。今日はお盆のついでに家の掃除をするため帰ってきたらしい。この広い家を1人で掃除するのは大変だからと、人手が欲しくて僕を誘ったようだ。

 和風の造りだからか、窓を開けると一気に風が抜けて涼しくなる。こういった和風の家が僕の憧れだ。

 掃除は午後にするらしく、それまでの間に買い物を頼まれる。なぜか持ってきていた財布にメモを仕舞い、教えてもらった道を通って店に向かう。平宮さんから頼まれた買い物と、ついでに服などを数着買い、また来た道を戻る。平宮さんの実家からは少し遠いがその分車通も多く、それなりに賑わっている。コンビニや飲食店らしきモノはないが、ガソリンスタンドや見たことの無いスーパーが並んでいる。

 周りの様子を見ながら家に帰ると、平宮さんが掃除をしていた。

 必要最低限の空間は先にきれいにしておきたかったらしい。一通りの掃除は終わったようで、昼食のことを尋ねられた。特に好き嫌いはないから何でもいいですよ、と答えたら少し面倒そうな顔をされた。

 外食かと思っていたが、どうやら自炊をするらしい。食材がないのでさっき行った店とは別の店まで2人で買いに行く。

 平宮さんの実家ほどではないが年季の入った家々が立ち並ぶ道を歩き、しばらくすると人の声が漏れ聞こえる小さなお店にたどり着く。かなり前から営まれている店のようで、野菜を中心に様々な物が売られている。

 店に入ると、店内でおしゃべりしていた人たちの視線が一気に集まる。どうやら平宮さんはここら辺ではそれなりに有名らしく、あっという間に囲まれてしまった。平宮さんは僕を身代わりにしてさっさとその輪から抜けていった。

 出身地や平宮さんとの関係などいろいろなことを聞かれてドギマギとしていたら、買い物を終えた平宮さんに呼ばれてやっとその輪から抜け出せた。


 家に帰ったらすぐに平宮さんは昼食を作り始めた。ここはWi-Fiが飛んでいない。本も忘れてしまったのですることがなく、平宮さんに尋ねると、スイカを切るように頼まれた。

 冷蔵庫の中からスイカを取り出し、平宮さんに渡された包丁とまな板を机に置く。

 さて、どうしよう。僕はスイカを切ったことがない。聞いたことはあるが、実際に見たのは初めてだ。

 当然、切り方も分からない。たしかウリ科なのでカボチャの仲間だが、いつも切られたカボチャしか買わないからその切り方も分からない。

 どうするべきかと思案している間に、平宮さんは一通り食材を鍋に入れ終わりこちらを振り返る。

 まだ、全く切られていないスイカを見て呆れ、切り方を知らないと伝えたら更に呆れながらも切り方を見せてくれた。きれいな三角形が次々と形作られていく。ひとつ食べたスイカは甘く、新鮮でおいしかった。切られたスイカを皿に盛り、昼食ができるのを待つ。しばらくして平宮さんが振る舞ってくれた昼食は揚げナスとトマトが盛られたそうめんだった。この暑さを考慮しての献立だろう。


 平宮さんより先に食べ終わったので、お礼を兼ねて食器洗いをする。することがなくなった平宮さんは、食べ終わると外に草むしりに行ってしまった。

 シンクまできれいに磨いてから平宮さんを追って外に出る。

 三十分ほど経っているが進んでいない。平宮さんに声をかけられ僕も隣で作業を始める。他にすることがないからか、普段よりよくしゃべっている。この家は平宮さんにとって唯一の宝物だそうだ。


 宝物、という言葉を聞いて少し羨ましくなった。僕にとっての宝物はほとんど実家に置いてきた。そのほとんどはもう、宝物ともいえなくなっている。

 なにか、形として思い出を残すという行為に僕は憧れているが、同時に怖くもある。それがなくなってしまうのではと思ってしまうのだ。


 そんなことを考えている間に庭の草はなくなっていた。小さい草は生えているが、自由に身動きがとれる程度にはきれいになった。集った草は一箇所に集めて、明日生け垣を剪定して切った枝と一緒に処理するらしい。

 家に戻ると、作業を始めてからすでに2時間ほど経っていた。ずっと外で作業をしていたので平宮さんはかなり疲れていて、しばらく昼寝をするらしい。

 僕はすることもないので家の中を見て回ることにする。ここのような日本家屋を見ることはそうそうないだろうし、外から見た感じではかなり広い。まだ見ていない部屋が多くあるはずだ。


 玄関から入ってすぐ隣にリビングとキッチン。その隣に畳の寝室。その奥には広い畳の間がある。そのまま庭に降りれるようになっていて、その奥が浴室だ。手前のリビングとキッチンは現代風に作り直されたようで、そこだけ木の色が明るい。

 一通り見終えて、廊下を通りリビングに戻ろうとする。始めここを通る時もだったが、僕が歩く度にミシミシと床が沈む。

『カサカサカサ』

 木が擦れる小さな音が聞こえる。少しずつ近づくその音に恐怖を感じる。

『カサカサ』

 虫か、ここだったら蛇やトカゲでもおかしくない。だんだんと近づくその音から少しでも逃げようと1歩後ろに下がる。

「うわ、」

 足が沈み、木が裂ける音が家中に響く。あれほど気をつけていたのに、結局床が抜けてしまった。

 その大きな音で目が覚めたのか、平宮さんが慌ててやって来る。ほとんど腰まで床に埋まった僕の姿を見て、笑いを必死にこらえている。

 平宮さんに助けてもらい、なんとか抜け出せた。もうさっきの音はしなくなった。ここは去年、平宮さんの友人が来たときにふざけていてできた穴らしい。元々脆くなっていた部分に僕がちょうど乗ったのでまた穴が開いてしまったようだ。


 穴を簡単にブルーシートで塞ぎ、また掃除を再開する。

 広い畳の間は掃除の必要がないらしく、寝室と浴室に分かれて掃除をする。

 僕は寝室に入る。元々はタンスなどが置かれていたような痕跡が所々にあるが、今は何も置かれていない。押し入れを見ると布団が三組だけはいっている。

 目覚まし時計や扇風機は置かれているので、まずそれらを部屋の外に出し畳を掃く。また元に戻す。平宮さんに確認してから押し入れのモノも外に出す。

 古いからか押し入れの立て付けが悪く、左側の扉は動かない。仕方ないので引っ張りながら外に出し、少しの間だけ外で干して、その間に中をぞうきんで拭く。頻繁に掃除しているようで、それほど汚れていなかった。扇風機も軽く拭いておく。

 しばらく時間を潰したら、干していた布団を取り込む。布団用の掃除機をかけ、2組は畳んで角に並べる。残った1組は押し入れに仕舞う。ちょうど平宮さんも終わったようで部屋に入ってきた。呼ばれて押し入れから顔を出したら、笑われた。まぁ、仕方がないが、あそこまで笑う必要はなかっただろう。


 それからお風呂に入る。その間に平宮さんが夕食を作ってくれる。初めて見たが火をくべて温める形式のお風呂だ。普段より熱さが続いていて心地よかった。

 気付いたら長湯していたようで、あがった頃には夕食ができていた。生姜焼きだ。

 今回も先に食べ終えたので食器を洗い、その間に平宮さんもお風呂に入る。意外に早風呂で僕が洗い終わるよりも早くあがってきて、僕より先に寝てしまった。


 特にすることもないので、僕もすぐに眠りについた。久しぶりの体力仕事で気付かないうちに疲労が溜まっていたようだ。

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