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すれ違いだらけの僕の運命  作者: 甘衣 一語
恋人
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始めてのプレゼント

 平宮さんの誕生日も終わり、咲は小学生になった。色々と大変ではあるけれど、広美さんたちにも協力してもらい楽しい学校生活を送れているようだ。

 そして今日は僕の誕生日。咲は広美さんの家でお泊まり会があるからと2週続けて家を留守にしている。そのおかげで今、平宮さんと2人で外出できている。

 ぎこちなかった僕らの関係も咲がいない間で誤解が解け、以前のように会話するようになった。相変わらず平宮さんは手を繋ごうとすれば逃げるけれど、少しずつ慣れようとしている。その姿は見ていて飽きない。


「慶人、どこか行きたいところあるか?」

 今日は2人ともバイトを休み、僕の誕生日プレゼントを買いに街に行く。平宮さんは僕のプレゼントを選びきれなかったようで、昨日申し訳なさそうに提案された。欲しいものと聞かれてもそれほどないが、平宮さんと一緒に出掛けるのは正月以来で昨日から楽しみにしていた。平宮さんは自分がデートをしていることに気付いていないようで、必死にスマホでプレゼントを探している。

「あ、慶人。次来た電車に乗るかな。」

 思い出した様に振り返る。ホームには人が増え始め、しばらくしてアナウンスが流れる。

 半年前の夏休みもこんな光景を目にした。あの時は電車の乗り方も知らなかったし、平宮さんに対しても失礼な冷たい態度ばかり取っていた。それなのに今こんな風に優しい平宮さんが不思議で仕方ない。

 周りの勢いに飲まれながら電車に乗り込み、数十分後、平宮さんの後ろを追いながら降りる。ビルに囲まれた駅なだけあって降りる人は多い。流れに乗って改札を通り駅の外で立ち止まる。平宮さんは邪魔にならない建物の壁に寄りかかりまだ色々と調べている。

「いい場所ありましたか?」

「うーん。本当に欲しいもの無いのか?」

「はい。」

 昨日から散々聞かれているが、欲しいものは思い浮かばない。強いて言えば最近始めた簿記の勉強にノートを買いたいけれど、それを平宮さんに払って貰うのは違う気がする。

 その回答が平宮さんを困らせているのは分かっているのだが、今までプレゼントを貰ったことがなく贈り物の定番も分からない。最悪僕が選んだように本でもよいのだが、折角こうして2人で外に出てきているのだ。この貴重な時間をもう少しだけ楽しんでいたい。

「平宮さん。そうやってスマホだけで探してもあれですし、色々見ながら探しましょう。」

 さっきまで賑やかだった改札口も今は一段落して少し落着いている。数分すればまた電車がホームに着くだろう。

「そうだな、じゃぁとりあえずあそこに入るか?」

 駅の周りで一番人が集っている大きな建物を指さす。建物入り口には大きく店名が示されている。この前テレビで紹介されていた大型ショッピングモールだ。

 歩道を渡って入った店内は賑わっている。正月に訪れたあの店とは異なり、アクセサリーや服などが取り揃えられた若者向けの建物だ。その広さに唖然とする僕たちの前を恋人達が通り過ぎる。中にはチョーカーをつけた人もいる。

「慶人。」

 手のひらから平宮さんの体温が伝わる。

 大丈夫。バイトと大学を繰り返す生活で忘れがちだがオメガは人口の1割もいるのだ、ましてここは人が集る大都会。オメガを見かける度に心配していてはキリがない。一呼吸置いて握られた右手を見つめる。普段はあれほど逃げているのに。その優しさは嬉しい。

「ありがとうございます。」

 隣に立つ平宮さんに声を掛けると、不思議そうな視線が返ってくる。僕の視線の先を見て手を放そうとするが、今更恥ずかしがっても遅い。耳を真っ赤にして必死で振りほどこうとしているが、アルファの僕に力で勝つことはできないだろう。しばらくすると諦めてまた店を探し始める。

 1階にはファッション雑貨、2階が衣服、3階以降はカラオケや映画館、飲食店が並んでいるようだが、今回は1、2階を中心に見て回ることになるだろう。時間は十分にある。

 僕とは縁がなさそうな帽子やピアスの前は通り過ぎようとするのだが、平宮さんはそれを1つずつ見ては似合いそうだと楽しそうに眺めている。オシャレを意識したこともなかったが、もし髪を切ったり服装に工夫を凝らしたらこの人は喜んでくれるのだろうか。

 平宮さんの首につけられたチョーカーに視線を送る。前までは控えめなデザインだったモノが、最近は少し目立つデザインに変わっている。その変化は、自分に相手がいると主張してくれているようで嬉しいが、それでも番えないことが悔しい。番になることだけが全てではないが、僕が平宮さんを縛ることも、平宮さんを縛ることもできない今の関係は少し不安でもある。


「お兄ちゃんたち、おかえりなさい。」

 予定より長く滞在してしまい帰路を急いだが、予想通り咲が咲に帰っていた。

「なに買ってきたの?」

 テレビを見ていた咲は平宮さんが持つ綺麗にラッピングされた袋を見つけて目を輝かせている。

「内緒。これは慶人へのプレゼントだから咲ちゃんにはあげられないよ。」

 自分が貰えないと分かると肩を落とし、僕たちが途中で買ってきた食材の片付けを手伝い始める。その中に何が入っているのか、僕もまだ知らない。選んでいるときにもっと注意深く見ておけばよかった。

「お兄ちゃん、今日は何作るの?」

 平宮さんはプレゼントを机の上に置き、咲と一緒に食材を片付けている。今日は僕の誕生日だが、平宮さんの時のように誰かを招くことはない。平宮さんが声を掛けたようだが、園崎さん達も広美さん達も他に予定があるらしい。

 いつものように2人は夕飯の用意を始める。冷蔵庫の中には3人分の小さなケーキが入っている。咲が広美さん達から貰ったようで、今日一緒に祝えない代りらしい。

 1時間後、食卓にはさっきのケーキと、僕が好きな料理が大皿で並べられる。最近は咲も料理が上達し、自分だけで一品作れるようになった。そんな2人が腕によりを掛けて作った料理からは分かりやすい愛情が伝わってきておいしい。

 ケーキまで食べるとさすがに満腹になり、咲は直ぐに寝てしまった。


「慶人はいつまで起きてる?」

 咲が寝たのを確認して平宮さんが部屋から出てくる。

「食器を洗い終わったら寝ます。」

 明日は咲と2人で図書館に行くことになっている。2月の初め頃に平宮さんが近くの図書館に連れて行ってから毎週週末に通うようになったのだ。

「じゃぁ、終わったら渡すから。」

 平宮さんは部屋から持ってきたプレゼントを机の上に置き、読書を始めている。

 少し前までこの家に1人だった。1人でいることには慣れていたし、寂しいと思うこともなくなっていた。けれど、今は咲がいる、平宮さんがいる。皆で一緒に夕飯を食べて、会話はなくても一緒の空間にいる。たったそれだけのことだけど楽しい。

 毎日誰かと笑って、喋って、僕にはもう手に入れられないことだと思っていたのに、また見ることができた。その全てが、平宮さんのおかげだ。


「終わりました。」

 手を洗い、平宮さんの向かいに座る。机の上には僕が平宮さんに贈った本とプレゼントだけが置かれている。手のひらに乗るくらいの小さく平たい袋の中に僕へのプレゼントが入っている。

「じゃぁ、慶人誕生日おめでとう。」

 小さなそれを受け取り、平宮さんに確認してから開ける。中に入っているのは小さなキーホルダーとネックレスだ。

「もし嫌じゃなければ使って欲しい、それとキーホルダーはほら。」

 いつの間にか平宮さんの愛用しているリュックにお揃いのキーホルダーが着いている。小さな白い花といちごが入った球体の飾りがついた小さなキーホルダーだ。

「ありがとうございます。」

 キーホルダを握ったまま、机に置かれたもう1つのプレゼントを見る。

「貸して。」

 その視線に気付いたのか平宮さんがそれを着けてくれる。小さな飾りが付いた控えめなネックレスだ。

「やっぱり、似合ってる。」

 部屋の角に置かれた姿見で確認するがよく分からない。平宮さんは満足げに僕とプレゼントを見比べているから、似合っているのだろう。

「ありがとうございます。」

 寝るためにネックレスを外して袋に戻し、大切に仕舞う。これを仕舞うためのちゃんとした箱を用意しないといけない。

「おやすみなさい。」

 読書を再開している平宮さんに挨拶をして咲に寝る。また明日からも楽しい日々が続く。

 咲のことや、今後の学費、兄のこと、平宮さんとの関係。不安なことはまだ多い。解決しないといけないこと、考えないといけないことは多いけれど、解決したこと、これからもずっとあると確信できることもある。いざとなれば広美さん達も助けてくれる。もう僕は1人じゃない。困ったときは皆に頼って、皆と一緒に楽しい日々が送れるように頑張りたい。

 僕の未来、咲の未来、平宮さんの未来はまだ続くのだから。

皆さん、間違いだらけの僕の運命を最後まで読んでいただきありがとうございます。

「間違いだらけの俺の運命」でもあったように、こちらも完結とさせて貰います。番外編やスピンオフはまた別でちょくちょく投稿するのでそちらは今後ともよろしくお願いしまう。

この度は本当に、最後まで読んでいただきありがとうございます。

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