恋人なのに
告白から1週間。3月も数日で終わるある日、僕たちは平宮さんに内緒で誕生日会を開いた。
平宮さんは自分の誕生日に興味を持っていないようで、バイトの休み希望調査でもフルで希望を出していた。それをこっそり書き換えて、今日のために色々と準備をしてきたのだ。
朝から店長の家に入り浸って飾り付けや料理をして準備を進め、白崎さん達の家族も揃う頃、咲が平宮さんを呼び出してくれた。
「兄ちゃん、いらっしゃい。」
いつの間にか仲良くなった、店長のもう1人の子どもが平宮さんを出迎えて部屋まで案内してくれる。自分の誕生日のことなど頭になかっただろう平宮さんは、大勢に出迎えられてしばらく放心状態だった。目の前の光景と自分の誕生日がなかなか結びつかなかったらしい。
それぞれがプレゼントを贈って皆で食事の席に着いた。僕と店長が用意した料理、園崎さんの兄、阿須加さんが用意してくれたゼリーやケーキなどのデザートが机の上には所狭しと並んでいる。平宮さんが好きそうなメニューを選んで作ったのでおいしそうに食べているが、なかなか視線を合わせてはくれない。
平宮さんと付き合うことになったのはよいのだが、まだ何一つ恋人らしいことをできていない。目も合わせてくれないし、何か質問を投げかけても返事が返ってくるだけでそれ以上の会話につながらない。僕に返事をくれるまでに1ヶ月も掛かった性格だから、照れてこうなることは予想していたが既に1週間以上経過している。
僕を見て恥ずかしそうに、視線を外す姿は見ていて可愛くもあるのだが、ずっと続くと寂しく感じてしまう。もっと手をつないだり、一緒に出かけたりしてみたいのに難しそうだ。
「なぁ、慶人。最近は店に来ないがちゃんと食べてるんだろ。」
そんな僕たちの雰囲気に気付いているのか、隣に座る店長が小さな声で尋ねてくる。普段は女性らしい話し方をしているが、今は家族の前なので店の時とは喋り方が違う。カフェで見るときとは違う父親の顔をしている。そういえば、以前は夕食をカフェで食べることも多かったが、最近は足を運ぶことも無くなった。最後にここを訪れたのは咲を初めてここに連れてきた日だ。
「はい。大丈夫です。」
バイト帰りの暇つぶしを兼ねて訪れていた場所だったが、バイト先が変わり色々と生活が変わってからは忘れてしまっていた。
「それならよかった。」
店長は僕が一人暮らしを始めた頃に知り合った人で、僕のことを色々と気に掛けてくれていた。もう、カフェに来る理由はあまりないけれど咲の兄として、もう少し頻繁に足を運んだ方がよいかもしれない。
「最近は響もこっちに来ないから心配してたんだ。」
元々平宮さんの来店頻度は少なかったのに、今はほぼ毎日大学から直接家に帰っている。もう3ヶ月ほどは顔を合わせていないのではないだろうか。
「大丈夫ですよ。平宮さんしっかりしてますし、それに咲もいますから。」
咲は意外に食に煩い。平宮さんが一食でも抜こうとすると僕以上にうるさく言っている。健康面は咲がいれば大丈夫だろう。
「それもそうだな。咲ちゃんも小学校は春と同じ所通うんだろ。大学通いながらで大変だったら俺らを頼ってくれよ。」
そう頼りがいのある笑顔を見せ、他の人たちとの会話に混ざって行く。
広美さんや子どもたちと一緒に楽しそうに夕飯を食べている風景は、僕の憧れていたモノで、いつか失ってしまったモノだ。僕にはもう手に入らないけれど、咲にはこの光景が自分にもあると思い続けて欲しい。平宮さんにも僕にも、心配してくれる人はたくさんいる。家族からは見捨てられたけれど、その代りに得られたものもあると、感じる。
視線を平宮さんの方へ向ける。園崎さんたちとは楽しそうにしゃべっているのに僕と目が合いそうになると俯いてしまう。
まだ、僕だけはプレゼントを渡せていない。2人きりの時に、と思っても今の状況では受け取ってくれないかもという不安で行動に移せないでいる。平宮さんから返事をもらえて浮かれていたが、こういう状況になってしまうと不安が募る。無理して僕と付き合ってくれているのではと、そんな無責任な人でないことは分かっているのに疑ってしまう。
そんな釈然としない気持ちを抱えながら、平宮さんの誕生日は終わってしまった。




