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すれ違いだらけの僕の運命  作者: 甘衣 一語
恋人
36/38

僕と運命

 この世界には男女の他に第二の性がある。発情期があり、男女共に妊娠が可能なω(オメガ)。身体能力や知能が優れたエリート階級のα(アルファ)。人口の9割を占めるβ(べータ)。

オメガの発情期は数ヶ月に一度、数日続き、アルファを惑わすフェロモンを体にまとう。発情期中にアルファがオメガの項を噛むと運命の番となり、番以外へのフェロモンの効果は無くなる。さらに、オメガは番以外に対して拒絶反応を示すようになる。番契約は一度しかできず、解約はできないため事故で番になることがないように、オメガの中には項を保護するチョーカーを着けている者もいる。

 そんな、生まれながらの運命が定められている。

 ホワイトデー翌日。平宮さんは変わらず今日も大学で、いつものように余所行きの服を着て家を出て行った。

 僕はいつものように勉強を進める、のではなく10日後に控えた平宮さんの誕生日に向けての準備だ。

 本人は僕の告白のせいで忘れている気もするが、平宮さんの二十歳の誕生日が目前に迫っている。お酒を飲めるようになる今回の誕生日は平宮さんにとっても特別な誕生日で、精一杯のお祝いをしたい。そのために苦手な洋食の練習をしているのだが、なかなかうまくできない。今まで洋食を食べる機会がほとんどなく、和食の時と違ってどの調味料でどういう味が出るかをまだ把握できていない。

 まだ決まっていない献立と向かい合って色々と考えているとスマホが鳴る。珍しい。平宮さんはこの時間に連絡をしない。他に連絡をくれそうな人に心当たりはない。詐欺メールを疑いながら開いたスマホの画面には、思い出したくもない名前が載っていた。

『やっほー、慶人君。起きてる?』

 小春さんからのメールだ。僕のアカウントを小春さんが持っている理由も気になるが、それよりも文脈が読み取れない。僕への用件が気になる。あんな明るい性格だがスマホでのやりとりを嫌う性格で、伝書鳩のように走り回って両親と連絡を取り合っている様子が1番印象に残っている。そんな小春さんがわざわざMINEを使ってメッセージを使って連絡してきたのだ、よほど重要な用件なのだろうが母や祖母が僕とあれ以上の接触を望むとも思えない。

『まぁ、起きてなくてもいいや。ねぇねぇ、さっき驚きの話を知ったんだけど知りたい?』

 よく分からないスタンプが並ぶ画面をスクロールし続けるとそんな文面が飛び込んでくる。その後も緊張感のないメッセージが続きその暢気さに呆れ始めたころやっと本題が見えた。

 そこに書かれている文章は衝撃的な内容でありながら、言われればなんで気付かなかったのだろうと思うほど納得できる内容でもあった。小春さんのメッセージはそこで終わり、返信を送ってもその応えはなかった。小春さんがなぜ今更こんなことを伝えてきたのか、よほどの理由があるはずなのに推測できない。普段から謎の多い人物だが、その性格をこれほど恨んだのは初めてだ。


「ただいま。」

 気を取り直して献立と向かい合っていると、玄関の扉が開く音と共に平宮さんの声が耳に入る。まだ昼前だ。

「おかえりなさい。どうしましたか。」

 声を掛けるが、返事はない。僕に言いたくないことがあるのかも知れない。

 それ以上は何も聞かず昼食の準備をする。今日のメニューは練習も兼ねてパスタだ。

 それにしても、平宮さんがこの時間家にいることが珍しい。いつもと違う光景が少し嬉しい。

 少し焦げて失敗してしまったパスタのおいしそうな部分を平宮さんのお皿に盛り目の前に出す。少し驚いた様な表情が返ってくる。味はイマイチでもう少し練習が必要だ。

「なぁ、慶人。聞きたいことがあるんだけど。」

 先に食べ終わり食器洗いをしようと立ち上がるが、平宮さんに呼び止められる。その目は不安を含んでいるような気がする。

「慶人は俺以外に好きなやついないよな。告白したってことは俺が好きなんだよな。」

 しばらくの沈黙を経て発せられた言葉はそんな予想外のものだった。普段は口にしない少し自分本位な発言に驚く。僕の返答も待たずに並べられる質問は色々と混ざり合って言いたいこともまとめられていない。困惑する僕を置いて口を動かし続ける。こんな混乱した平宮さんは珍しい。

「平宮さん。」

 少し強い口調で平宮さんの言葉を止める。落ち着かせるように、少しゆっくりとした口調で話す。どうしたのだろうか。僕の好きを疑うような平宮さんの発言に僅かな怒りと悲しさが湧く。

「でも、でももし運命の番とかが見つかったら。」

 運命、その言葉が一際目立つ。何か、運命に関わるような何かがあったようだ。

 平宮さんは運命を言い訳に出すような人ではない。それは僕が1番知っている。

「一樹さんに会いましたか。」

 頭を整理するためにつぶやいた一言に平宮さんはひどく動揺している。どうやら正解のようだ。これでやっとわかった。

『慶人君さ、運命の番に憧れてたでしょ。なんとね、一樹の運命の番は慶人君なんだって、感動的だね。』

 たったそれだけの、今更知ったところで意味もないそんな真実を送ってきた小春さん。なぜ僕にそれを伝えたのか未だに理解できないが、事前知識があってよかった。

 運命の番。本当的に惹かれ合うアルファとオメガ。

 確かに、一樹兄さんは親戚の中で一番大切な存在で、兄姉や両親以上に一緒にいて安心できる存在だった。その関係に名前をつけるなら確かに運命の番というのがしっくりくる気がする。

 一樹兄さんは気付いていたのだろうか。なぜ、教えてくれなかったのだろう。

 この真実を知ったら僕が傷つくとでも思ったのだろうか。だが、そんなこと知っていても知らなくても僕はもう気付いている。目を向けないようにしていたが、なぜ僕が従兄弟や兄姉のフェロモンに反応したのか。それは僕が彼らと血縁関係にないからだ。それで色々とつじつまが合うだろう。

 そんな気遣いをしてくれる兄さんが好きだ。大好きだ。でも、今更なのだ。

 僕らは間違ってしまった。

 僕は兄さんにひどいことをしてしまった。兄さんだけでなく従兄弟にも兄姉にも皆の運命を壊してしまった。それは今更取り戻せない。運命の番だとしても、もう、その関係は修復できないだろう。


 それに。

「慶人、なんで。」

 目の前に座る平宮さんは驚きの表情をこちらに向けている。

 そんな反応の一つ一つが愛おしいと思ってしまう。僕は兄さん以上に大切な存在に出会ってしまった。平宮さんのフェロモンを僕が感じることはできないし、番うこともできない。それでもいいからずっと一緒にいたいと思える存在に出会ってしまったのだ。

「小春さんが教えてくれたんです。僕と一樹さんが運命の番だって。」

 平宮さんのためだけに事情を説明する。僕が平宮さん以外眼中にないとちゃんと分かってもらわないと困る。

 平宮さんの幼い頃の経験は他人に不信感を抱くには十分だ。半年一緒にいただけじゃ僕の気持ちを信じられないのも仕方ないかもしれない。けれど、時間があれば、平宮さんへの好きを時間の許す限り伝えたい。そのためにもお試しでもいいから付き合って欲しい。一緒にいる許可が欲しい。

 そうやって必死に粘って粘って、10分ほどしてやっと平宮さんが折れてくれた。まだ好きに自信を持てない様子ではあるけれど、それでも付き合うことに変わりはない。

「俺も慶人が好きだから。」

 その言葉が聞けただけでも嬉しいから。

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