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すれ違いだらけの僕の運命  作者: 甘衣 一語
恋人
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お返し

「おかえりなさい。」

 平宮さんが帰ってきて慌てて片付けをする。

 バレンタインデーからちょうど1ヶ月経った。その間、返事はなく、チョコも渡せていない。他の人にはチョコを渡せたが、平宮さんのは僕が食べることになった。

 告白は平宮さんにとってなかったことになったか、本気にされていないか。いずれにしろ返事は期待できないだろう。だからきっと、今の気まずい空気も僕が勝手に期待してガッカリしているだけだ。

 今日は咲が『ホワイトデーのチョコ作り』と称したお泊まり会に行っていない。

 少し前まで2人でいるのが当たり前だったのに、今はそれが気まずい。

「何、食べたい?」

 しばらくリビングで本を読んでいた平宮さんがそう尋ねる。そういえば、前はよく僕のリクエストを作ってくれていた。

「なんでも、大丈夫です。」

 言った後で後悔した。このありきたりな回答を、困った顔して聞いている。色々と食べたいものはある。平宮さんの料理はどれも好きだ。なのにそれが口にできなかった。まるで出会った頃に戻ったようだ。

「あ、いや。」

 言い直そうとしても言葉が出ない。しばらくして平宮さんは黙って台所に向かってしまった。

 相変わらず困った表情。最近、僕に見せる顔はそればっかりだ。僕のせいなのに寂しい。

「はい。」

 読書をしていたら声が掛かる。既に料理が並べられている。

「ありがとうございます。」

 僕が好きなメニューばかりだ。ギクシャクしても困らせても、平宮さんはやっぱり僕に優しい。


「なぁ、慶人。」

 平宮さんがそう話を切り出したのは、僕のお皿が空になった頃だった。緊張した様子はない。少しなにかを覚悟したような、けれどいつも通りの表情だ。

 僕は姿勢を正す。話の内容に、期待している自分がいる。

「あの付き合って欲しいっていうことなんだけど。」

 心臓が弾む。どっちだ。早く聞きたい、聞きたくない。期待しつつ恐怖もある。

 心臓が激しく波打っている。

 絞り出すように返事をする。僕ばかり振り回されている。

「もう1ヶ月くらい待ってもらってて、すごい申し訳ないんだけど。」

 ちゃんと覚えてくれていた。その喜びで勝手に口角が上がる。

 けど、今『けど』っていった。期待していいのかするべきでないのか。不安が膨らむ。表情からは読み取れない。僕を振る人の目には見えない。

「俺があれをオーケーしたら嬉しいのか。」

 その声は少し不安そうだ。

 僕はどう捉えればよいのだろうか。そりゃ、嬉しい。付き合えたら、恋人になれたらすごく嬉しい。でも、重荷にはなりたくない。平宮さんの真意が見えず返事ができない。

「もう少しだけ、待っててくれないか。」

 いきなり地面に叩きつけられたような衝撃が走る。

 なんで、もう少し。もう少しって、どれくらいだ。

 1日、1週間、1ヶ月。問い詰めたい。けれど僕の口から出たのはただの了承だった。平宮さんは困ったように表情を崩す。

 早く聞きたい、やっぱ聞きたくない。この苦しみを僕はあと、どのくらい耐えればいい。どのくらい耐えたら、楽になる。

 作ったチョコは、次の日に平宮さんがいないところで食べた。甘い物は好きなのに、そのチョコの甘さは苦しかった。

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