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すれ違いだらけの僕の運命  作者: 甘衣 一語
新しい同居人
30/38

向き合う

 家に帰るまでの道中で女の子は寝てしまった。寝るにはまだ早い時間だ。

 車が去ったことを確認して家に入る。少し前まで1人で暮らしていたのに、今は3人だ。女の子専用の部屋は確保できそうにない。とりあえず平宮さんの部屋で荷物を確認する。女の子が背負っているリュックには服が一式。案内役の、僕の従兄弟である一樹兄さんから受け取った紙袋には書類や通帳。持ってきたのはそれだけだ。通帳にはかなりの額が入っている。一応親らしいこともしてくれているようだ。

 服は僕のタンスに仕舞い、リュックはリビングに適当に置く。

 平宮さんは夕食の準備をしてくれている。

「ねぇ、響お兄ちゃんは何してるの。」

 コタツに足を入れ、興味深そうに台所を覗く。実家では厨房に入ることは禁止されている。料理をする音も、料理の途中で漂うこの匂いも、初めての経験なのだろう。平宮さんの一挙一動を楽しそうに追っている。

 妹、の存在が僕はまだ受け入れきれていない。そもそも、あの人達をもう僕は家族だと、親だと思えない。それなのにいきなり妹なんて、受け止められるはずがない。

「はい、慶人。」

 僕以上に困惑しているはずに平宮さんは、そんな様子も見せずに女の子と接している。平宮さんとは、車の中でもほとんど喋っていない。喋れなかった。

 いろんなことがありすぎて、頭がついていかない。妹の存在もそうだが、従兄弟と、一樹兄さんとまた会うとは思っていなかった。このままずっと忘れていたかった。

「これおいしい。」

 初めての場所で、初めて会った人たちとの食事なのに、変わらず笑顔で食べている。平宮さんが作ったのは、実家では1度も食べたことがないであろうスパゲティとコンソメのスープだ。お願いしたとおり薄味になっている。1口目は少し心配そうに僕たちの食べる様子を伺っていたが、その後は夢中で食べている。

 これからずっと、僕はこの子を、育てないといけないのだろうか。ちょっとしたお泊まり、としか思っていないだろうこの子に、僕はその事実を伝えないといけないのだろうか。


「お兄ちゃんお休み。」

 実家での未就学児の就寝時間である9時。自分用の布団を与えられた女の子は、自分で準備をして眠りについた。横になって直ぐに寝息が聞こえる。

 そのことを確認してから明かりのついたリビングに移る。

「お待たせしました。」

 平宮さんが本を開いている。

 正月休みが始まった日、今までは別々だった個人スペースの線引きがあやふやになった。勉強も読書も、こたつがあるからとずっとリビングでしている。

 僕に視線を向け、本を閉じる。その目は心配半分、困惑半分といった感じだ。

 僕がまだ迷っていることが、平宮さんには筒抜けのようだ。だが、迷っていても悩んでいても向き合えていなくても、僕は説明しないといけない。これほど巻き込んで説明なしでは、無責任だ。

 ちゃんと説明できるか心配だったが、話し始めてしまうと止まることはなかった。心に溜まったモヤモヤを吐き出すように、口が動いて勝手に説明する。

 こうやって誰かに教えるのは、伝えるのは、知って欲しいと願うのは初めてだ。本当は話したかったのかも知れない。話して楽に、なりたかったのかもしれない。

 全部話し全部吐き出した後、驚くほどすっきりしていた。話している間、頭は平宮さんの表情だけを捉えていた。家族のことや自分の性のことをウダウダ考えるのではと思っていたが、まったく浮かばなかった。

「本当、慶人は立派だな。」

 息を整えるために下を向き、視線を上げると目が合った。さっきまでの心配そうな表情がもうない。

 受け入れてしまったようだ。僕のことも、女の子の、妹のことも、平宮さんは簡単に受け入れてくれた。

 立派。なんて言われるとは思っていなかった。

 褒められ慣れていない僕は、その一言でグズグズになってしまう。嬉しくて舞い上がってしまう。嬉し泣き。人前で泣くなんてありえない、人前で感情を見せるのは弱い証と、そう思っていたのに。

 平宮さんの前ではそれが簡単の崩れてしまう。しばらく泣いて落ち着いて、今度は眠気が襲ってきた僕に平宮さんは笑いながらお休みと言ってくれた。

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