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すれ違いだらけの僕の運命  作者: 甘衣 一語
友情
26/38

クリスマス

 クリスマスまで3週間。

 町中がクリスマスムードになっている。スーパーではケーキの予約を知らせる旗が立ち、装飾もクリスマスカラーだ。

 僕はこの時期が1番好きだ。

 クリスマスのような西洋文化が一切ない実家と違い、ひとりぼっちの僕にはそれが許された。

 プレゼントもお祝いの言葉もないけれど、いつもより豪華な料理と市販のケーキ。

 1年で唯一豪華な料理を作る日だ。他の人が普段通りの食事をしている中で、僕だけが特別な料理。少しだけ優越感に浸れた。

 だから、今年は2人でいつもより楽しいクリスマスを過ごせるのでは、と期待していた。

 期待していたのに、平宮さんの口からクリスマスという言葉が出ることはなかった。

 一緒に買い物をしているときも、バイトの昼食中も、周りはその話題で持ちきりなのに僕がその話題を出すと不自然に話題を変える。

 だから今年のクリスマスは期待できない。少し豪華な料理も、諦めるしかないのだ。


『急だけど、今日大和達が家に来る。大丈夫か?』

 そんなメッセージが届いたのはクリスマスイブの、バイトの直前だった。

 僕と平宮さんとで決めたルールでは家に人を入れるときは事前に伝え合うことになっている。

 それを知っているはずなのに急に決まったと言うことは、よほどの用事があるのだろう。

 了承の返事だけ送ってから、白衣を着て仕事を始める。

 今日のバイトとの終わりは7時。バイトが休みの平宮さんが夕食を用意してくれている、はずだ。

 同僚の、子どもや孫がいる人たちは、今日だけ早く帰る。少し豪華な料理で夜を楽しむためらしい。5時頃には、工場内にいるのは僕と独身の人たちだけになった。いつものように作業を進めてもやっぱり少し寂しさが滲む。帰り際、慰めの言葉を掛け合いながら独身の人たちも工場を出る。僕もその後を追って家に向かう。



「只今帰りました。」

 チャイムを押すと出てきたのは園崎さんだった。

 平宮さんは奥で作業をしているようで、我が物顔で家の中を歩いている。

「おかえり。」

 リビングでは平宮さんと白崎さんがコタツに入ってくつろいでいた。

「どうケイ君。すごいでしょこれ。」

 園崎さんがその机に置かれたモノを僕に自慢してくる。

 ローストビーフにフライドチキン、ミートスパゲティ。

 かつてクリスマスの定番料理として憧れながら作れなかった品々が、綺麗な盛り付けで並んでいる。コタツとのアンバランスさも消えてしまうほどの出来映えだ。

 平宮さんが全部作ってくれたらしい。

「なんで。」

 思わず零れた言葉は1番近くに座っている平宮さんには届いたはずだが、応えはない。

 クリスマスの話題がでない理由はサプライズを隠したくて、とかではないはずだ。そんな白々しさはなかった。

 クリスマスが苦手だろう、という僕の予想は間違いないはずだ。それでも用意してくれたのは、なぜだろうか。僕のため、という考えは自惚れすぎだろうか。

「ほらケイ君、早く座って。」

 そういえばまだ立ったままだ。慌ててコタツに足を入れ、夕食が始まる。

 今まで思い描いていたような、理想のクリスマス料理だ。3時間で作り上げたらしいそれらは、そうとは思えないほど味もしっかりしていて美味しかった。

 正午には阿須加さんが作ったケーキもあり、食べ終える頃には平宮さんに対する疑問など忘れてしまっていた。

 お酒を飲んだ園崎さんが真っ先に眠り始め、平宮さんと僕で布団の準備をする。僕たちそれぞれの布団と、僕が持っていた来客用の布団。全部合わせて3組しかないが、当然のように園崎さんは白崎さんの布団に入っている。

 楽しい時間はあっという間で、久しぶりに時計を見たら9時を過ぎていた。まだ起きている平宮さんに声を掛け、僕は布団に入った。

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