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すれ違いだらけの僕の運命  作者: 甘衣 一語
友情
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 この世界には男女の他に第二の性がある。発情期があり、男女共に妊娠が可能なω(オメガ)。身体能力や知能が優れたエリート階級のα(アルファ)。人口の9割を占めるβ(ベータ)。

オメガの発情期は数ヶ月に一度、数日続き、アルファを惑わすフェロモンを体にまとう。発情期中にアルファがオメガの項を噛むと運命の番となり、番以外へのフェロモンの効果は無くなる。さらに、オメガは番以外に対して拒絶反応を示すようになる。番契約は一度しかできず、解約はできないため事故で番になることがないように、オメガの中には項を保護するチョーカーを着けている者もいる。

 そんな、生まれながらの運命が定められている。

 いつもの時間に目を覚まし、朝食を作り平宮さんを起こす。

 声を掛けてから10分ほどして平宮さんが寝室から出てくる。

 その首にはまたチョーカーが巻かれている。それに隠された噛み跡を思い出すと心が痛む。

 僕が腕に作った噛み跡とは違う噛み跡。番契約の噛み跡は一生残る、それが不本意でも本意でも、それを背負って生きることをオメガは強いられてしまう。

 昨日は、平宮さんも落ち着きを取り戻して寝たけれど、僕が十分な働きを出来たか不安が残る。

「おはようございます。これ運んでくれますか。」

 昨日のことは考えても仕方がない。いつものように平宮さんに手伝ってもらい朝食の準備をする。

「いただきます。」

 いつものようにと努めてはいるが、どうしても会話は弾まない。お互いに昨日のことを意識していることは明白だ。平宮さんの過去が知りたいという好奇心と、踏み入ってはいけないという自制心の間で揺れている。

 そのまま静かに朝食は終わり、それぞれの時間を過ごす。

 平宮さんは直ぐにバイトで、僕は昼前からだ。最近は土日でもシフトがかぶらなくなった。新しい作業を任されることも多くなったが、その分平宮さんとの昼食時間はなくなってしまった。


「慶人。」

 平宮さんがリビングの扉を叩く。

 僕が自室として使っているこの部屋を食事以外で平宮さんが訪れることは珍しい。いつもは用件があれば入って僕の前まで来るのに、今日は入り口に立ったままだ。

「どうかしましたか。」

 昨日の件が用件であることは分かるが、なかなか言葉が続かない。

 まだバイトまでは時間がある。ギリギリまで待とう。

「その、昨日のことで話があるんだ。」

 やっとぽつりと呟いた。

「だから、夕方待っててくれ。」

 一息にいうと、行ってきますと家を出てしまう。状況に戸惑う僕ばかりが残されてしまった。

 平宮さんが話してくれる、というのは良いことのはずだ。なのに、なぜか心は沈んでゆく。

 話す決意が出来たということは、自分の過去と少なからず向き合えたということだ。

 それは良いことで、喜ばないといけないのに焦りばかりが募る。そんなはずないのに、平宮さんが僕を置いていくのではと焦ってしまう。


 気付いたらバイト先にいて、気付いたら家に帰ってきていた。

 一日中他のことを気にしてばかりで、仕事では些細な失敗を繰り返してしまった。

 平宮さんが作った料理も、今日は味気ない。

 そんな僕に気付いてか、いつもなら僕がする食器洗いを平宮さんが今してくれている。

 相変わらず会話の少ない夕食で、今も空気は重い。

 むしろ僕が、平宮さんから気遣われてしまっている。

 こんな子どもっぽい気持ちを知られたくない。

 平宮さんを羨ましいと思う気持ちを、自分のことをダメだと否定する気持ちを、知られたら今度こそ離れてしまうかもしれない。

 それでもやっぱり期待する自分もいる。

「お待たせ。」

 食器を仕舞った平宮さんがリビングに入ってくる。今朝のような迷いはもう見えない。

 僕はただ聞くだけで、ただそれだけなのに鼓動が早くなる。言いたい言葉が、吐き出したい言葉が喉元でつっかえて苦しくなる。

「最初に言っとくけど、これは俺がしたくてしてることだから、慶人に自分の境遇を話して欲しいって意味じゃない。それは分かってくれよ。」

 その言葉であからさまに緊張が解れる。あからさまに安堵する。

 平宮さんの言葉は、僕にとって問題の先延ばしでしかないことは分かっているけれどそれでもホッとしてしまう。

 平宮さんはいつでも僕の先を行く。いつまでも僕の嬉しいことだけしてくれる。

 すごいな。

「無理して受け入れなくて大丈夫。無理しなくて言い。言いたいときに、言えばいいから。」

 本当は、僕がそれを言うべきなのに、僕の方が慰められる。

 ひたすら優しい平見屋さんが羨ましい。そんな平宮さんだから僕は好きだ。

 どうせ、平宮さんと一緒にいる時間は大学卒業までだろうけれど、それまでの間には言えるようになりたいな。言いたい、伝えたい、知って欲しい。


 それから一呼吸置き、あんまりいい話じゃないけどと前置きをして平宮さんは話し始めた。

 その前置き通り、聞いていて気持ちの良いモノではなかった。

 それは平宮さんと平宮さんの家族、お兄さんとの話だった。

 平宮さんの両親は放任主義らしい。僕の親と同じような扱いだったようで、あまり小中学校には行っていないようだ。

 そしてもう1人、1つ年上のお兄さんが平宮さんの番相手らしい。

 幼い頃から過度な虐めを受けていたようで、閉じ込められたり、悪口を広めて学校内で孤立させたり、そういったことを中学校卒業まで何度も繰り返しされた、らしい。

 平宮さんは平気だと言っているけれど、幼い頃の記憶は消えない。ふとしたときにその記憶は蘇る。

 その上で、番契約まで無理矢理にしては悪戯では済まないはずだ。

 世界的には数の少ないアルファとオメガ、僕たちは少数派故に理解されない部分も多い。

 そんな僕らにとって、番契約は1つの憧れでもある。もちろんそれが全てではないけれど、番契約はそれほど大事なモノなのだ。

 それなのに、その逃げ道すらも塞がれて。

 僕は番という存在も最近知ったばかりだけれど、それでも時々想像したりする。それすらも平宮さんは許されないのだ。たった1度の大切なモノを奪われて、平宮さんは何を思っただろうか。

 自分のことでもないのに、気付いたら涙が溢れていた。泣くのは僕ではないはずなのに、そんな僕を見て平宮さんは笑っている。困ったように笑っている。

 やっぱり強い。その表情には悔しさはあまり見られない。

 逃げてばかりの、一歩踏み出したままの、そこで立ち止まってしまった僕とは違う。

 やっぱり強い。やっぱり好きだな。

 平宮さんみたいになりたいな。


 そうやってひとしきり泣いた僕はそのまま眠ってしまったようで、次の日に起きたら布団の中だった。

 あんなに湧いていた平宮さんのお兄さんへの怒りが、睡眠欲に負けてしまい良かったのか、悪いのかは分からない。だが、まだしばらくは日常が続けられそうなことは分かった。

 知らないことばかりの平宮さんについて、もっともっと、知りたい。

 やっぱり平宮さんは、どこまでも優しい。

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