紅茶
文化祭2日目。ミスコンやミセスコンと行った注目イベントが行われるようで、1日目よりやや客足が増えている。元々午後に入っていた店番のシフトを彩鳥さんと変わってもらい、午前に2時間連続で入って平宮さん達を待つ。
1時前だが、まだ屋台には人が並んでいる。この調子なら今日は3時頃まで行列が出来ていそうだ。
手持ち無沙汰に飲食ブースからステージを眺めていると、仕事を終えた彩鳥さんがたこ焼きを持ってくる様子が見える。人を探すように飲食ブースを周回している。
その様子を眺めていると目が合い、笑顔でこちらに向かってくる。どうやら探し人は僕だったようだ。
僕の隣に座ると彩鳥さんは話を切り出す。
すっかり忘れていたが、今日もステージでバンドの発表がある。その機材の運び出しの手伝いについての話だ。僕がする予定だったが彩鳥さんが変わってくれるらしい。このことを伝えるために僕を探していたようだ。相変わらず気が回る、良い先輩だ。その後少しだけ雑談をすると彩鳥さんは他の先輩に呼ばれて去って行く。グループの準備もだが、サークルでも発表があるようで忙しそうだ。たこ焼きもほとんど食べられないまま走って行ってしまった。
その直ぐ後に平宮さんたちが到着した。平宮さんはなぜか少し離れたところにいて、園崎さんだけが彩鳥さんを見送っている僕の背中に声を掛けてきた。
既にたこ焼きを2パック手にしている。気に入ってくれたようだ。
園崎さんはそれを食べるために座り、白崎さん達もこちらにやって来る。
平宮さんにも挨拶したいのに園崎さんばかり話しかけてきてそれが出来ない。
たこ焼きを食べ終えると園崎さんは移動を始める。舞台には興味ないようだ。
校舎内に入ると賑やかな声が響いている。急ぎ足で全体を見て回った園崎さんは最終的にカフェに向かった。昨日に比べると人は少ない。
数十分待って席に案内される。普段は勉強に使われている地味な机にクロスが掛けられオシャレな花瓶まで置かれて綺麗に飾られている。文化祭の準備中に1度入った教室と同じ場所とは思えない。
お店の人もオシャレな服を着ている。
心なしか来客もオシャレをしている気がしてしまう。
説明を受けてメニューを眺める。本格的な紅茶と手作りスイーツが売りのお店で、それぞれ10種類ずつ商品がある。
小さい頃は家政婦がよく紅茶を出してくれた。まだ幼くて好きではなかったがその味は覚えている。聞き覚えのある紅茶の名前を適当に選び、スイーツはプリンにする。平宮さん達もそれぞれ選び、園崎さんはスイーツを2つ選んでいる。スイーツと紅茶は両方注文しないと行けないので、紅茶も2杯だ。
落着いた雰囲気に包まれていつもは騒がしい園崎さんも小さな声で喋っている。周りの人のスイーツを見てプリンを楽しみにしているとトレーに載って商品が運ばれてくる。淹れたてでよい香りが漂ってくる。今なら美味しいと思えるかもしれない。
他の人たちの前にも商品が並んだことを確認してカップに手を掛ける。普段はそんなことを気にもとめないのに、つい美しさを意識した持ち方をしてしまう。
プリンは少し固めで甘さ控えめの美味しいプリンだった。気付いたら半分ほどなくなっていた。そんな僕の食べ様を羨ましそうに見ているしていた園崎さんの前に、一口だけとお皿を動かすと帰ってきたときには元の半分も残っていなかった。そんな気はしていたから、あげなければよかった。
そう後悔していると、平宮さんが手にしていたシュークリームを半分に分けてお皿にのせてくれる。顔を上げると、既に2人との会話に戻ってしまっている。心の中でお礼を言いながら口に入れると、クリームが溶けて甘さが広がる。一口紅茶を含むと、さらに美味しくなる。
あっという間にお皿もカップも空になり、そろって息を吐く。
お会計をしてお店を出ても、まだ満足感に満たされている。そのまま隣の部屋に作られたお化け屋敷に向かう。普段なら絶対に断っていただろうが、夢見心地な状態で気付けば部屋の中に入っていた。いつもは明るい部屋は暗幕が張られ真っ暗だ。周りも見えない状態で、いつの間にか誰かと手を繋いでいた。
下を見ながらその人に引かれて進み、できるだけお化けに扮装した人たちを見ないように心掛けながら外に出る。
外との明るさの違いで一瞬目を閉じ、掴んでいた手を放す。そんな怖がっていた僕とは異なり3人は楽しかったようだ。結局僕を引っ張ってくれた誰かは分からなくなってしまった。
だが、それを口にするのも照れくさくそのまま3人の後に続いて校舎を出る。
3人は正門に向かい、僕は屋台の前で別れる。他の人たちも少しずつ正門に向かって歩き始めている。
アナウンスが流れ2日間の短い文化祭が終わった。その後テントを撤収し、教室も片付けて文化祭の雰囲気は一瞬で消えてしまった。
そんなあっという間の寂しさに浸る僕たちのグループは、その勢いのまま打ち上げをすることになった。いつもなら参加しないだろうが、今日は僕も楽しかったからその勢いで参加してしまった。
打ち上げ、は初めてだったけれどとても楽しくて、またしたいと思ってしまった。
深く関わってもいいことなんてないのに、僕がアルファだと知られたらきっと皆顔色を変えるのに。




