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すれ違いだらけの僕の運命  作者: 甘衣 一語
トラウマ
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暗闇

 この世界には男女の他に第二の性がある。発情期があり、男女共に妊娠が可能なω(オメガ)。身体能力や知能が優れたエリート階級のα(アルファ)。人口の9割を占めるβ(べーた)。

オメガの発情期は数ヶ月に一度、数日続き、アルファを惑わすフェロモンを体にまとう。発情期中にアルファがオメガの項を噛むと運命の番となり、番以外へのフェロモンの効果は無くなる。さらに、オメガは番以外に対して拒絶反応を示すようになる。番契約は一度しかできず、解約はできないため事故で番になることがないように、オメガの中には項を保護するチョーカーを着けている者もいる。

 そんな、生まれながらの運命が定められている。

 雨が壁に打ち付けられる音で目を覚ます。いつもより1時間も早く起きてしまった。

 平宮さんはまだぐっすり寝ているが、僕はこれ以上寝られそうにない。

 停電に備えてモバイルバッテリーを充電し、勉強をする。

 平宮さんはきっと遅くに起きてくるから、朝食はもう少しあとで作り始めた方がよいかもしれない。それに、停電になったら勉強も何も出来なくなる。まだ電気がついている今の間に勉強や読書を楽しみたい。

 7時頃になると平宮さんのスマホからアラームが鳴り始める。1分おきに大音量でなるその音を耳元で聞いているのに平宮さんは身動き1つしない。が、僕は勉強に集中できず朝食作りに取りかかる。

 平宮さんと出会ってもう4ヶ月ほどになる。好みの味や好きな料理も多少分かるようになってきた。

 いつも通りの献立を作り、本を開く。もうアラームも鳴っていない。

 それから更に1時間経って平宮さんが起きてきた。夏休みの時みたいにボンヤリと寝ぼけた顔でリビングに座っている。すっかり冷めてしまった朝食を温めて2人揃って手を合わせる。

 平宮さんの口に合ったようで綺麗になったお皿を見ると嬉しくなる。今まで自分の料理を振る舞ったことがなかったから、誰かに美味しいと言って貰えることがこんなに幸せだと知らなかった。

 例のごとく平宮さんが食器洗いをしてくれ、僕は読みかけの手に取るが、直ぐに読み切ってしまう。

 今回図書館から借りてきた本は今ので最後だった。手持ち無沙汰にパソコンを立ち上げ、書き途中だったレポートと向き合う。今で半分ほど書き上げているが、それ以上がなかなか進まないまま3日ほど放置されていたものだ。

 だが、いくら向き合ったところで手が進まない。今まで書いた文章を読み返しては消して、を何度も繰り返す。

 突然パソコンに影が落ちる。平宮さんが画面をのぞき込むようにして僕に話しかけている。

 興味深そうに大学について質問しているが、その視線がパソコンの画面に向いているような気がして恥ずかしくなる。変な事は書いていないが、自分の秘密を教えているようでむず痒く、画面を変える。大学の講義動画様のアプリ画面だ。未提出のレポートが赤く光っている。

 平宮さんの質問に応えて大学について説明すると、理解したのかしていないのか分からない味気ない返事だけが返ってきて、部屋に沈黙が広がる。後ろを振り返ると、棚の横に積んでいた本を手にして吟味している。


 しばらくレポートと向き合ったが、結局なにも進まない。パソコンを閉じて充電コードに繋ぎ、洗濯の準備を始める。台風で外には干せないが、空いている部屋に干して除湿機を回せばある程度は乾くだろう。

 他に洗濯物が残っていないか確認してから洗濯機に詰める。

 洗剤を入れようとしたとき、突然部屋が暗くなった。元々窓のない部屋で、電気が消えると真っ暗だ。

 平宮さんが間違えて消したのかと思い部屋を出ると、他の部屋も暗くなっている。

 停電だ。

 壁に打ち当たる木々の音が部屋に響いている。

 スマホのライト機能で足元を照らしながらブレーカーを確認するが、当然そちらに異変はない。次に玄関の扉を少し開けて外を確認する。電柱が僅かに下がっている。

 家から1キロほど先にある工場に植えられた大きな木が、今にも電線に掛かりそうで心配していたがその予想が的中したようだ。

 それまで確認して平宮さんのいるリビングに戻る。

 扉を開けると、平宮さんはその音で肩を震わせた。机の上には真っ黒なスマホが置かれている。

 なんでライトつけないんですか、と開きかけた口が動きを止める。照らされた平宮さんの顔が涙で濡れている。僕の方を見て心底安心したように、眉を下げて泣きそうな顔をして僕を見ている。

 平宮さんに何があったのかは知らないが、平宮さんが不安に押しつぶされそうなことだけは伝わってきた。大丈夫でないことは分かりきっているが、せめてもの慰めにと一応声を掛け隣に座る。

 僕の動きに連動して鳴るひとつひとつの小さな音に、肩を震わせている。その姿はいつもの優しく頼りになる平宮さんからは想像できないほど小さく、妙な気持ちになる。

 ざわざわとした、焦りにも似た気持ちが積もる。

 そんな気持ちを知られたくなくて、いつもはしないどうだっていい話を並べる。好きな本の話や大学のこと、普段なら聞かれてもしないつまらない話だ。

 そんな雑談が平宮さんには楽しかったようで、しばらくすると返事も返ってくるようになったが、立ち上がろうとすると不安そうにこちらを見てくる。結局昼食も食べずに半日ずっとそうしていた。

 さすがに夕食だけは食べて、そのまま平宮さんは眠ってしまった。


 次の日、すっかり天気も落ち着き雨戸を開けると部屋いっぱいに光が入ってきた。まだ停電は続いているが、もう十分明るかった。

 平宮さんは昨日と同じ時間に起きてきて朝食を食べ、そのまますぐに帰ってしまった。

 いつもと変わらない優しい顔で別れを告げる姿を見て、また直ぐに会えるのに残念だと思ってしまった。

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