後輩
9月も終わり近づいたが、相変わらずバイト先はみつかっていない。そんな節に新しい人が入ってきた。
古寺紫苑という名前の大学生だ。仕事に入るのは土日のみで、僕の時と同じように平宮さんが教育係となった。
部門が同じで関わる機会は多く、土日には平宮さんと3人で昼食を取ることもあった。正確には、土日は外部からの来る食堂の客が多く、工場の職員は肩身を狭くしながら同じシフトの人たちで固まって食事をして、必然的に僕たちの食事の席も同じになるのだった。
平宮さんと同じように古寺さんも図書館巡りが趣味な様で、2人で話が盛り上がっていることもよくあった。
そんな日々でバイト先が見つからないまま、また数週間が経ち季節も移ろい始めた。
いい加減工場の好意に甘えることも苦しくなり真剣にバイト探しをする。僕の使うバイト探しの最終手段、人のツテ。前にも何度かこの方法で見つけたことがある。人づてに連絡をすることになるため、思っていた条件と合わないことがありあまり使いたくない手段だが、背に腹は代えられない。今交流を持っている数少ない知り合いに電話を掛け、アポをとる、といった作業を繰り返した。
重い足を動かしてカフェに入る。平宮さんと出会った、以前はほぼ毎日通っていたカフェだ。
窓際の席で白崎さんと園崎さんが手を振っている。2人以外にお客さんがいないようで、店長が話しかけてくる。最近僕の顔が見えないと心配していたようだ。以前少し来なかった時期も同じように心配していたが、今回は平宮さん達のおかげでそれほど気に掛けていたかったらしい。
店長が新しく来た客の応対を始めるタイミングを見計らって2人の向かいに座る。
高校の同級生は別の場所にいるようで、苦渋の決断ではあるがこの2人にバイト探しを手伝って貰うことにしたのだ。
手短に事情を説明して、いい場所を知らないかと尋ねるがあまりよい反応は返ってこない。
元々園崎さんには期待していなかったが、自分の出番がないと分かるとすぐに無駄話を始める。
なぜ最近遊んでくれないのかという愚痴に始まり、バイト先の状況など、僕の返答も聞かずに質問だけを並べていく。その中でも特に古寺さんのことに関する質問が多く、平宮さんが十分な情報を与えてくれないと嘆いている。
園崎さんの愚痴も頷けるほどの僅かな情報しか平宮さんは提供していないようで、名前や容姿など大した情報でもないそれらを、白崎さんまで真剣に聞いていた。
だが、思い返してみると古寺さんについては知らないことの方が多い。大学や高校については何も知らないし、趣味も図書館巡りと言っていたが彼女が本を読んでいる場面を見たことがない。
そんなことを気に掛ける僕と同じように、白崎さんもなにか考え込むように俯いている。突然スマホを取り出し、何かを探して僕の前に差し出す。
そこには古寺さんがいた。学生服らしき服装をしたまだ幼さの残る顔立ちだが、確かにいつも見る彼女だ。僕のそんな驚きを含んだ表情を受けて白崎さんは苦い表情をする。
その写真に写る女性は高校の後輩らしい。そう白崎さんが口にしたとき、事態を理解したように園崎さんの表情まで固くなった。それでも状況を理解できていない僕に、2人が1から説明してくれる。
この人は平宮さんのストーカーだったらしい。平宮さんは高校の頃、人気があったようでファンクラブまであったらしい。確かに僕が見ても平宮さんは格好いいから、その事実はすんなりと受け入れることができた。しかし、この人はいわゆる過激派で一度家まで後を着け、中まで入ったことがあったらしい。
そのことが発覚して退学となりその後について知らないらしいが、もしこの人と古寺さんが同一人物であれば目的は平宮さんで間違いないだろう。
平宮さんは当時当事者でありながらそのことを知らないようで、そんな平宮さんを2人はひどく心配しているようだった。
結局当初の目的は果たせぬまま、1時間後店を出た。古寺さんについては白崎さんが調べてくれるらしい。




