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すれ違いだらけの僕の運命  作者: 甘衣 一語
旅行
10/38

帰宅

 この世界には男女の他に第二の性がある。発情期があり、男女共に妊娠が可能なω(オメガ)。身体能力や知能が優れたエリート階級のα(アルファ)。人口の9割を占めるβ(べーた)。

オメガの発情期は数ヶ月に一度、数日続き、アルファを惑わすフェロモンを体にまとう。発情期中にアルファがオメガの項を噛むと運命の番となり、番以外へのフェロモンの効果は無くなる。さらに、オメガは番以外に対して拒絶反応を示すようになる。番契約は一度しかできず、解約はできないため事故で番になることがないように、オメガの中には項を保護するチョーカーを着けている者もいる。

 そんな、生まれながらの運命が定められている。

 普段僕は9時に寝て6時に起きる。これは小学生の頃から変わらない習慣だ。

 たとえ旅行先でもそれは変わらないようで、まだチェックアウトまで5時間あるのにすっかり目が覚めてしまった。ベッドに横たわっていても睡魔に襲われる気配はなく、仕方なく起き上がる。軽くシャワーを浴びて部屋を出る。まだ眠りの中にいる廊下を通りロビーに向かうと、スタッフが1人立っていた。

 こちらを気にする様子もなく作業をしているので、僕も気に掛けず待合所に置かれた漫画を手に取る。

 普段は読まない書物だが、新鮮で面白く気付けば朝食の時間となっていた。

 しばらく待っても平宮さんはおろか園崎さん達も見えず、1人で済ませて上に戻る。いつもと変わらない1人の食事なのに、すごく味気なかった。

 部屋に帰っても平宮さんは起きていなかった。隣の、園崎さん達の部屋から大きな物音が聞こえているが目を覚ます気配もない。

 昨日は平宮さんも同じくらいの時間に寝たはずだが、よほど眠かったのだろう。

 出発時刻の30分前、9時30分にアラームを設定したスマホをポケットに入れ、再度ロビーに向かう。2時間、漫画を読んだり外で海を見たりと適当に時間を潰す。今みたいに手持ち無沙汰に時間を過ごすことが珍しく、何もせずに景色を楽しむだけの時間が妙に楽しい。こうやって新しい気付きをできたのは平宮さんのおかげだろう。


 あっという間に時間は過ぎ、気付けばポケットの中でスマホが震えていた。部屋に戻るとまだ平宮さんは眠っていた。

 どうするべきか考えあぐねていると、それを察したようにインターホンが鳴る。荷物をまとめた2人が扉の前に待っている。平宮さんの朝が遅いのはいつものようで、平宮さんを起こしてくれる。

 布団を引っ張り、頬を摘まみ、叩き、とかなりの荒技に対して多少抵抗しながらも起き上がる気配は全くない。起こしているのは園崎さんで、白崎さんはそれを呆れながら見ている。

 5分ほどその応酬が続き、ようやく平宮さんは目を覚ました。かなり寝起きが悪いようで園崎さんの顔には反撃された後が微かに残っている。

 そのことは覚えていないようで、目を覚ました平宮さんは申し訳なさそうにしながら急いで荷物をまとめていた。程なくして準備が整い、僕たちはやっとホテルを出た。遠く小さくなる海を見送り、家に向かって車は走る。

 来るときは電車で片道4時間と車で1時間だった道のりを、今度は2時間で帰って行く。


 最寄り駅で3人と別れ、僕の初めてと言えるお盆の旅行は終わりを告げた。

 今日からはまた普通の生活に戻る。いつもの時間に起きて、ご飯を食べて、勉強をして、ご飯を食べて。もう予定外のことに振り回されないと思うと清清するが、同時に寂しくもある。

 元々独り暮らしには広い部屋だった自宅は、余計に広く静かに感じた。

 きっと、この寂しさもそのうち消えるだろう。期待をしてもなにも変わらない。

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