未来の食事
とある会社。その開発室で白衣の男がゴホンと咳払いを一つしたあと、笑みを浮かべ、話し始めた。
「社長、まずご紹介するのはレモン色のこちら。一粒で様々な味を楽しめる錠剤でございます。
ステーキ、カレー、オムライス、ラーメンなどなど何層にもわたって味が重ねられており、口の中で溶かすだけで、それらを順に楽しむことができるわけです。
無論、前の味は邪魔になりません。味と味の間。味が変わるその瞬間に不自然なくリセットされるよう薬を挟んであります。
ちなみに、後半はデザートになっており、フランス料理編や中華料理編などなどシリーズ展開も」
「うむ。いいぞ。さすがわが社の商品開発チームだ。実に優秀、優秀」
社長は髭を撫でつけ、ご機嫌に笑う。そして「しかし、これだけでは満腹になれないのではぁ?」とわざとらしく訊ねた。
まるで通販番組。その意図を理解したようで白衣の男も声を明るくし、言う。
「ふふふっ、はーい、そこでなんですっ。お次のオレンジ色の錠剤。
これは胃の中で膨れ上がり満腹感を齎してくれるのです。
ああ、もちろん飲むのは一粒のみです。ですが人の胃の大きさに合わせて膨らむので子供から大食いの大人まで問題なし。
で、そのお次の淡い緑色の錠剤は言わば超栄養食。
一粒で一日に必要な栄養素を補完してくれるもので、えー、先程紹介した二つの錠剤と合わせて飲むことにより、お手軽に食事を摂ることができるという訳です!」
「いやー、ブラボーブラボー! 実に素晴らしい! 私が求めていた未来の食事そのものだ!
時短時短の世の中だからなぁ。そして食事だけでなく、料理やその後片付けの手間がないというのは大きい」
「ええ……ですが、開発費が尋常ではないほどかかり……」
「わかっているとも。お手軽気楽。しかし値段がそうでないなら販売の目途は立たないということはな。
だが、わが社がこんなものを開発しましたよというのは社自体の大きな宣伝になる。
遥か未来を行く最先端の優良企業だとな! ……で、だ。目前の未来。量産化の目途が立っているほうの品はどこに? あるんだろう?」
「あ、それならこちらに。この錠剤ですが、しかし、上手く行きますかね……」
「もちろんだとも。昆虫食はブームの兆しを見せている。すでに出遅れた我々はこいつで一歩先を行くべきだ。
先の品々を見せたあとに続いてこれを発表。その流れで『すごい! 未来ではこれが普通なのね』と思うだろう。なにより、安価で大容量、濃厚! 高タンパク!」
「ですが……ゴキ――」
「しっー。でも色が黒というのはやめておこうな……」