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第九話 精霊の手

 ファブリツィオは忙しい。


 建国祭の準備もあるが、公爵家で新たな店を出すことになったからである。


 一ヶ月以内、最短二週間でドレスを仕上げる店。マリアンジェラの話から、ハーシュトレイ王国のドレスショップの仕組みを真似て、エヴァーニ王国での流通も考えていくと、出来ないことも無いものだった。


 エヴァーニ王国は農産物に栄える国。一年のほとんどを領地で過ごし、王都には社交の際にしか来ない貴族も多い。正直なところ、ドレスのデザインや色も流行はあるものの、パターンはある程度絞られている。


 特に衣装に興味のない者であれば、パーティーの二週間前に王都に来て注文すれば良い。体格が変わっていないのなら、領地から使いたい色や形を手紙で送ってくれれば、デザイン画を返送、そこで納得すれば、そのまま発注をと、手紙のやりとりのみでもドレスが出来る。


 これは、地方の貴族に受けがいいのでは。ドレスの為だけに、パーティーの二ヶ月前に王都に来ていたのだ。途中の確認をするなら、さらにもう一度。二度手間三度手間が無くなる。さらに、作成期間が少なくなれば、価格も下げられる。裕福な平民にも手が出せる金額までいくか。まずは貴族向けに、生地の質を落とした平民にも手が出せるものは軌道に乗ってからが良いか。


 「平民が使うショップで買いたい貴族がいるかしら?」


 マリアンジェラの言う通りだ。


 「とりあえず貴族向けのみに絞ってからだな」


 ファブリツィオの言葉にニコーラとチリーノも頷く。


 「ファブリツィオ様、建国祭はチリーノに任せましたので、その間休暇をもらっても構わないでしょうか」


 ニコーラの言葉にファブリツィオはああ、と返事をする。


 「義足か?オルガ国に向かうのか」


 「義足が出来たとの連絡がありましたが、国境を越えるのは手間が掛かりますので、とある()で落ち合うことにしようかと。ロレットの里にも行く必要がありますので」


 「そうだな。ちょうど、建国祭は近くにいない方がいいとは思っていた。公爵領のどこかでとも考えてはいたが、行くあてがあるならそれでいい。連絡は取れるか」


 「チリーノに指示を出してください。チリーノは、馴染みの酒屋でジョッキの下へ手紙を。そうすればすぐにこちらへ送られるようになっています」


 ニコーラの指示に、ファブリツィオは驚いた。これまでも人目を忍んで誰かと連絡を取り合うことがあったのだろうか。


 「エミディオ・バンデーラ公爵からの入れ知恵ですよ。普段からそんなことはしません」


 ファブリツィオの顔を見たニコーラが言う。なるほどと思って、休暇を許可する。





 「テオ、どうしてニコはここにいたらまずいのかしら?」


 「ニコというより、レーナ嬢だな。建国祭は歩行困難のため欠席としているが、彼女は公爵家の所属騎士だろう。リータ国からエヴァーニ王国に、レーナ嬢が指揮を取ってからの行動について、聴取の依頼が来ているかもしれない。エヴァーニ王国はまず公爵家に伝えに来るはずだ」


 アレックスはリータ国がハーシュトレイの元騎士団が集められてしまった、他国へ侵攻を図るつもりだろうとの予測をしていた。今のところ、リータ国は辺境復興のために大人しくしているように見える。


 レーナが行った、兵器の破壊と放棄。リータ国からすれば、国の財産を壊されたようなものだ。その賠償をエヴァーニ王国に吹っ掛けるのか、アグリアディ公爵家にか、それともレーナ個人にか。


 何れにせよ、建国祭で公爵邸を留守にする間に何かが起こってしまうことも考えられなくはない。建国祭で何と言われようとも、レーナが留守にしていることで、判断する時間稼ぎにもなる。

 最悪は、兵器の賠償を国に吹っ掛けて戦争が起こること。戦争の火種がレーナになることだろう。


 ファブリツィオの話から、マリアンジェラも察したらしく、思案顔だ。


 「テオはリータ国が元ハーシュトレイの騎士を使って戦争を起こすと思っているのかしら」


 「最悪の事態はそうだろうと考えている」


 「それはないわよ。安心して」


 にこりと可愛らしく微笑むマリアンジェラに、ファブリツィオはついて行けない。


 「無いと言い切れなくはないだろうか」


 「この前のお茶会の時にね、私の話をしてくれたでしょう?私のルーツを大切にしてくれて、テオにも、テオの両親にも感謝しかないわ」


 「もちろん、君が大切だし、君の過去だって、愛しい君を作り上げたひとつなのだから、大切にしたいと思うんだよ」


 「本当にテオは素敵ね。私、こんなに幸せでいいのかしらって思ってしまうのよ?」


 「もっと幸せにしたいと思っているよ」


 二人は微笑み合う。ひとしきり甘い雰囲気を堪能したところで、マリアンジェラが話を戻す。


 「お茶会の時にね、爵位は失っても、貴族であった誇りは捨てられませんって話があったじゃない?」


 「そうだったな」


 「騎士達もきっとそうなのよ。彼らはハーシュトレイ王国のために、レーナ様のために集まったの。多分、アレックス次期辺境伯が指揮を取ってから準備はしていたのではないかしら。レーナ様に指揮権が与えられてすぐに来たと聞きましたし」


 「なるほど。彼等はリータ国の為に戦うことはないと」


 「ええ。レーナ様を取り入れる為とか言ってもきっと駄目よ。レーナ様が率いて初めて騎士団が成り立つもの。レーナ様が目の前にいないのならば、彼等は剣を捨てるわ」


 改めて、レーナの求心力に驚く。北の砦にいた時は真っ先に討伐に向かう、ウルバノの言葉を借りるならお転婆な騎士という印象だった。


 「騎士団がどうなろうと、きっとリータ国から何かしら要求はあるだろうな。それでも、いきなりハーシュトレイの騎士団がこちらに侵攻なんてことはないというので一安心だ」


 そして、ファブリツィオはふと気になっていたことを思い出す。


 「精霊の加護のことは、ハーシュトレイ王国ではどのくらいの認知度だったのだろうか」


 「そうね。精霊の加護は何も感じられない人は全くだから。一般の人からしてみれば、そういうのがあるのね、って程度よ。平民なんて特に。王宮騎士団の人たちには特別な力があるのねー、っていう程度みたい」


 「そうか。遺伝でもあるから、まず両親に加護がなければ関係ない話になるからか。ところで、どうして俺は今まで見えているのだろうか。過去に精霊の力を借りたことなんてないのだが」


 レーナ達の言う魔法。これを使わないままだと、精霊が見えなくなる、つまり加護がなくなるということだった。しかし、ファブリツィオにはずっと精霊が見えている。


 「小さい頃に、例えば木から落ちそうになった時とかに、無意識に魔法を使う子がいるわ。こんなところから落ちたのに無傷だったなんてと。そうしたら、その子に精霊の加護があったことが分かって、無意識にできていたのねって」


 ファブリツィオには覚えがあった。幼い頃に、ニコーラは止めるよう言ったが聞かずに木に登って、案の定足を滑らせて落ちたことが。マリアンジェラの言うように、あんなところから落ちたのに無傷であった。


 ファブリツィオは納得して頷く。しかし、マリアンジェラは気付いている。ファブリツィオに出されるお菓子に魔力がふんわりと付き、それを精霊がもらっていることに。つまり、ファブリツィオは無意識に僅かだが魔力が出てしまう体質だ。剣術自体が強いのも、常に魔力を出して精霊が助けてくれているから。ハーシュトレイ王国ではそのような者のことを、魔力ダダ漏れ体質と言うのだが、マリアンジェラは黙っておくことにした。





 建国祭の日。マリアンジェラは早朝から準備に忙しい。様子を見に行こうとしたが、男性は入室禁止だそうだ。


 「チリーノ、ピンツィ邸はどうなっている」


 「レーナ様と兄は出立済みです。父はアグリアディ公爵の側近として、母も建国祭へ出席しますし、伯爵家の者は邸には一人も残りません」


 ファブリツィオは緊張の面持ちだ。最悪、リータ国からの要求で邸を押さえられる可能性もあるからだ。



 「マリアンジェラ様の準備が整いました」


 夕方になり、やっとマリアンジェラに会う許可が下りた。侍女が扉を開ける。


 「テオ、お待たせしました。似合っているかしら?」


 マリアンジェラは青いドレスに身を包み、こちらを見ている。ファブリツィオは思わず見惚れてしまい、言葉を失う。


 「テオ?」


 マリアンジェラの声にハッとすると、慌てて駆け寄る。


 「マリア、とても綺麗だよ。見惚れてしまった」


 抱きしめようとしたら、古くから仕えている侍女から、髪型や装飾品を崩さないようにと注意され、我慢する。

 マリアンジェラが刺繍をした公爵家の紋章は今回も美しい。

 両親もマリアンジェラのドレス姿に一瞬言葉を失い、さすが親子ねと、マリアンジェラが少しリラックスしたように笑った。



 建国祭は、夕方から爵位の下の者から王宮に入っていく。チリーノとその両親はすでに王宮内にいる。入場を待つ部屋で、他の公爵家へマリアンジェラを紹介していると、王宮の文官らしい者から声を掛けられた。


 「アグリアディ公爵家の方は、国王陛下の挨拶の後に、宰相殿がお話があるとのことでございます。宰相から声を掛けさせていただくので、そのつもりでいてくださればと」


 宰相は、先日の宰相補佐官だ。この建国祭前に宰相になったと王宮の人事異動が開示されたばかりだ。


 公爵家の入場の時間になる。マリアンジェラは緊張の面持ちだ。ファブリツィオも、婚約者を伴っての入場は初めてである。マリアンジェラの手が冷たい。


 「私の手も冷えているよ。お揃いだ」


 マリアンジェラにそう声を掛けると、マリアンジェラの表情が少し柔らかくなる。


 アグリアディ公爵夫婦に続き、ファブリツィオとマリアンジェラが入場すると、会場の視線が一気にこちらに向く。

 元々、人気を博していたファブリツィオが婚約者を伴って来たのはもちろんだが、領地で見初めた婚約者を見てやろうと思っていた者も少なくないだろう。しかし、マリアンジェラの美しさに、マリアンジェラを気にかけて度々マリアンジェラに何かを囁きかけるファブリツィオ。絵になる二人の様に、貴族達はほうっと息をつく。


 二人の前に、チリーノが現れる。公爵夫婦の前には、ニコーラの父親だ。


 「ファブリツィオ様、マリアンジェラ様、お二人共素晴らしい装いですね。これから私は後ろへ控えさせて頂きますことをお許しください」


 「よろしく頼む」


 このやり取りは、公爵家と側近の間で行うものだ。公爵家には側近が控えていることを周知させるだけでなく、側近に話があるのであれば、公爵家を通すこと、公爵家との話には側近が補佐で介入することを会場にいる者達へ知らせるのである。

 他の入場した公爵家も同じやり取りをしている。



 国王陛下の挨拶には、先の辺境での防衛に関してのお見舞いの言葉の他には、例年通りの建国の言葉が述べられ、和やかな雰囲気でパーティーが始まった。


 「アグリアディ次期公爵殿、この度はご婚約おめでとうございます。領地で見初めた婚約者様という、なんとも物語のような、夢のようなお話で我が家も大盛り上がりで」


 マリアンジェラとの婚約について、嫌味のひとつふたつ言われるかと思っていたが、先日の茶会での話が噂になっているからから、肯定的なお祝いの言葉を掛けられる。


 「マリアンジェラ様、私、刺繍を趣味にしているのですが、機会がありましたらぜひご教授願いたいのです」


 マリアンジェラに対してはこんな声ばかり掛けられる。マリアンジェラも不思議そうにしている。


 「やあやあ、貴公子と精霊の手の君、仲睦まじいようでなによりだよ」


 久しぶりに聞く幼馴染の声に、ファブリツィオは肩の力を抜く。


 「リカルド。精霊祭以来だな。元気にしていたか」


 「ああ、それよりも婚約おめでとう。まさか、精霊祭の後にこんなにお前が時の人となるとはな」


 「俺も驚いている。妻になるマリアンジェラだ。それから、側近のチリーノ」


 リカルドにマリアンジェラとチリーノを紹介する。


 「リカルド、次期ファルネイ伯爵でございます。ファルネイ家は領地を持たない、商業や流通関係の伯爵家で、アグリアディ公爵家の作物や魔獣の素材もうちで買取らせてもらっております。以後、お見知り置きを」


 リカルドはマリアンジェラに分かりやすいように挨拶をする。


 「俺が紹介する必要がなくなるな。ところで、婚約することでやっとお前にお返しが出来る。早く婚約者を決めたらどうだ?」


 ぐぐっと、リカルドは唸る。これまで幾度となくからかわれてきたのだ。このくらいやり返してもいいだろう。


 「お前の婚約が決まってから、お前を狙っていた家からの釣書が大量にうちに流れて来るようになった。あと、レーナ騎士爵の婚約によって、恐らくそこのチリーノ君へも大量の釣書が来ているだろうな」


 「そうだったのか。チリーノ、そうなのか?」


 ファブリツィオがチリーノに尋ねると、チリーノは頷く。


 「これまでピンツィ家には子爵以上の貴族家から婚約の打診など来なかったのですが、多く寄せられております」


 リカルドとチリーノは、二人共同じ苦労をしているからか、笑い合う。


 「そうそう、貴公子を射止めた刺繍の話は自分達で流したのか?」


 リカルドの話にファブリツィオもマリアンジェラもきょとんとする。


 「何の話だ?特に噂を流したりはしていないんだが。さっきからマリアにもずっと、刺繍を教えて欲しいという令嬢が度々挨拶に来ているが」


 「それだよそれ。地方新聞の短編寄稿欄に載ってた物語でさ。父親が一代限りの準男爵の令嬢が、ドレスショップに働きに出る話で、その令嬢は素晴らしい刺繍の腕でとある公爵夫人に気に入られ、公爵子息がお礼をショップに持って行ったところでその令嬢と恋に落ちるって話」


 ファブリツィオはぽかんとする。


 「だから、趣味を頑張って仕事にした結果、まずは気になる男の母親に認められ、その後息子に見初められたって、お前達をモデルにしてんだろ。それに乗っかって、刺繍の腕を上げたら良い出会いに繋がるんじゃないかって、令嬢達の茶会はその話で大盛り上がりだそうだ」


 ファブリツィオはそんなことないだろと言うが、その物語はいったい誰が執筆したのだろうか。


 「いやー、アグリアディ家が出したものかと思ってたんだがな」


 「ピンツィ家が出したものですからね。アグリアディ公爵家の方の目にも触れないようにしましたし、ファブリツィオ様達はご存知無いのですよ」


 さらっと、チリーノが補足した。ファブリツィオもマリアンジェラもリカルドも、え?とチリーノの方を見る。


 「ファブリツィオ様達のご婚約が世間的にも上手くいくようにというのもありまして。側近として、社交界での目をなるべく良くしていきたいと思ったらそうなりました」


 「チリーノ、ちょっと、え?ほんと、何?チリーノが小説を書いたのか?」


 「そうですよ。知ってしまったのなら仕方ないですから、帰ったら読みますか?」


 「いやそうでなくて、いやいや、読むけれども。お前そんな趣味があったのか?」


 「そんな訳ないですよ。初めての執筆で四苦八苦しながら仕上げました。新聞の短編寄稿欄ですから、私の拙い文章でも載せることが出来たのです」


 淡々とした口調のチリーノ。


 「まさかこれまで公爵家の知らないところで君達がこういうことをしたことって」


 「私は初めてですよ。世間の評判を多少変える程度のことですから勝手にしてしまいました。これからはお伝えした方がいいでしょうか」


 「ああ、よろしく頼む」


 ファブリツィオはチリーノが、私は初めて、と言った部分が気になったが、困っていることもないので聞き流すことにした。

 リカルドも、他家のことであるから何も言えないようだ。


 「ファブリツィオも、まあ、ニコーラ君に代わってチリーノ君も優秀なようで何よりじゃないか」


 リカルドは言葉を絞り出して話を終わらせた。


 「そうだ、リカルド。お見舞いの品をありがとう。怪我をした者達と、北の砦にも置かせてもらった」


 ファルネイ伯爵家からは、お見舞いの品が届いていたことをファブリツィオは思い出した。


 「ああ、同盟国でもない国の物なんだ。魔術師が作る回復薬とまではいかないが、傷の回復が早まる薬で比較的安価だから、ファブリツィオの所ではよく使えるだろう。希望であればまた仕入れる」


 「そうだったのか。貴重なものをありがとう。また使用具合を砦の者に確認する」


 その後もリカルドにはマリアンジェラとの馴れ初めを言わされる等もあったが、令嬢の気に入りそうな店等も紹介してくれると約束をした。



 「ファブリツィオ様、宰相様がこちらに向かっております」


 チリーノに耳打ちされ、リカルドにまたそのうち、と断りを入れる。


 「宰相への昇任、おめでとうございます」


 向かってきた宰相に開口一番、ファブリツィオから話す。


 「ファブリツィオ・アグリアディ次期公爵様、ありがとうございます。察しておられるかとは思いますが、込み入ったお話がございます。談話室を用意しておりますので、お付き合い願いたい」


 ファブリツィオは頷き、マリアンジェラとニコーラを伴ったまま、宰相に付いて行く。宰相は歩きながら、公爵夫婦にも声を掛けたが、息子へ一任すると言われましたのでと話し始める。



 談話室には、宰相の新たな補佐官と、記録の為の書記官が控えていた。部屋の隅には護衛の為の騎士がいる。


 「仰々しい室内で申し訳ありません。それに、事前にお話の内容もお伝え出来なかったことも、謝罪したい」


 宰相は悔しそうな様子で話し始めた。


 「いえ、宰相様も守秘義務があったのでしょう。それで、お話とは」


 ファブリツィオの言葉に、宰相は否定しなかった。つまりはアグリアディ公爵家へ先に何かを報せることを許されなかったのだろう。


 「リータ国から、エヴァーニ王国宛で依頼が来ました。内容は、レーナ騎士爵のリータ国における違法行為について」


 「違法行為とはどのような?」


 「はい。まずは、リータ国の有する兵器を国の許可無く破壊したことによって、リータ国に対する意図的な戦力の低下を図ったと。これは侵略に値する行為にも捉えざるを得ない。また、リータ国内から集まった義勇兵を私的に利用し、戦略立案をせずにその場で指示を出し、戦況の報告を怠ったことも挙げられております」


 マリアンジェラが息を呑む。ファブリツィオは、宰相の次の言葉を待つことにした。

 ファブリツィオの様子を見て、宰相が再び話し始める。


 「リータ国からは、まずは聴取の為にレーナ騎士爵を捕縛せよと依頼がありましたが、エヴァーニ王国としてはその対応は適当でないと拒否しております。エヴァーニ王国から派遣した騎士達から、兵器は破壊すべきであった状況であったこと、義勇兵がレーナ騎士爵の指示で多くの命を救ったこと、戦略立案や報告をする騎士などは怪我で離脱していた上に、そんな暇はないほどの混戦状態であったことの言質も取れておりますので、それと共に突き返したところです」


 ファブリツィオは、とりあえずエヴァーニ王国はレーナ寄りの考えであることに少し安心した。問答無用でレーナを差し出せと言われる可能性もあったからだ。


 「アグリアディ公爵家としても、今宰相様が言われたことと同じ考えです。セガンティーニ侯爵殿からも、感謝の言葉を頂きました」


 宰相は、ファブリツィオの言葉に頷き、リータ国からの依頼書と、エヴァーニ王国からの返事の写しを見せる。ファブリツィオとチリーノも内容を確認し、宰相に返す。


 「アグリアディ公爵家が良ければですが、一度会談を設けたいと思っているのです」


 ファブリツィオは会談?と聞き返す。


 「きっと、こちらからの返事をリータ国は素直に受け入れないでしょう。依頼をし続け、拒否し続けると、我が国がリータ国の依頼を受け入れないという部分だけ切り取られ、オルガ国にも影響があるかもしれません。ですから、要人を招き入れてしまおうかと思いまして」


 「ここで?それはあまりにも危険では」


 このタイミングでリータ国から人を招くとは、侵略を許すようなものではと思う。


 「そうです。しかし、良い会談場所がありまして、ちょっと友人にお願いをしてですね。その友人のご家族になった方々の助けがあれば不可能ではないのですよ」


 宰相の友人とはファブリツィオはニコーラしか思い浮かばないが、それにファブリツィオは気付く。


 「ハーシュトレイ王宮跡か。あそこならエヴァーニ王国領の端でもある。そしてレーナ騎士爵の兄上達も呼ぶと」


 宰相は深く頷くと、ファブリツィオの気付きに補足の説明を始める。


 「王宮跡は、少し改装してハーシュトレイ王国の歴史を学ぶ観光地とする予定なのですが、まだほとんど手を付けてはおりません。王宮ですから、他国の要人を呼ぶに相応しい建物でもありますし、お互いの懐に入る訳でもありませんので。リータ国の者でレーナ騎士爵寄りの話をするであろうアレックス次期辺境伯。第三者としての意見を出すことになるオルガ国からもレーナ騎士爵の兄上であるエミディオ・バンデーラ公爵。彼等が各国でどこまで派閥を持っているかは分かりませんが、少なくともお呼びしたいところですね。そして、レーナ騎士爵の所属するアグリアディ公爵家も参加していただかねばなりません。しかし、リータ国がこれだけ攻撃的な内容を送ってきているのです。もちろん、危険が伴いますが、いかがされますか」


 ファブリツィオは一呼吸置いて、参加しよう、と答えた。

ありがとうございました。

リカルドは伯爵家の息子ではないので、リカルド、次期ファルネイ伯爵と名乗ります。

現当主から、次期当主として指名された人、ファブリツィオもですが、次期公爵などを名乗ることが許されます。 


リカルドくんのお話は短編にしているので、よかったらそちらもお楽しみください

【短編】前世の夫が家にいる

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