第五話 精霊王の言葉
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ハーシュトレイ王国の王子王女、三人が揃います。
「ファブリツィオ・アグリアディ、国王陛下へご挨拶申し上げます」
王宮に着くと、既に両親が血の気の引いた顔で待っていた。しかし、言葉を交わす暇もなく、王宮の奥へ案内される。
着いた先は、国王陛下の謁見の間。
国王陛下及び宰相、王太子殿下と王子王女の揃い踏みだ。
そしてさらに驚いたが、他国の客人だ。
「アレックス・ブラガーリャと言う。妹が世話になっているね」
国王陛下へは先に挨拶を済ませているのだろうか。彼はファブリツィオへ握手を求める。
「失礼ですが、国王陛下へのご挨拶はお済みで?この国では位の高い者から挨拶をするべきとされています。もし、お済みでないのならば、私が受けるべきではないのです」
レーナとエミディオを見ているからか、アレックスはこの二人とは全く違うタイプの人間に見える。レーナは純粋でまっすぐ、エミディオは王族特有の狡猾さを持った策士といった所だ。
しかしこのアレックスは、圧力で全てを抑えてきた、そんな気配がある。エミディオが王太子になる、なんて噂はきっと流言の類だろう。エミディオと見比べれば分かる。アレックスは自分こそが王だと、そんな威厳をすでに持っている。
「ああ、そうか。大丈夫。そこにいる王族達には挨拶を済ませている」
それならば、とファブリツィオが手を出す。
二人は握手を交わし、エヴァーニ国王の方を向き、跪く。
「アグリアディ家の者と、他の者を紹介願いたい」
宰相が口を開く。既に王宮に着いた時には全員確認された上に、この謁見の間には王宮側から指名された者のみが入ったのだが、ニコーラが同行者を紹介していく。
「私はニコーラ・ピンツィ。ファブリツィオ・アグリアディ様の側近でございます。アグリアディ公爵領からはファブリツィオ次期公爵と、レーナ騎士爵にその護衛二名と侍女、別室にアグリアディ公爵と夫人が控えております。そして、先日お忍びで北の砦にいらした、オルガ国のエミディオ・バンデーラ公爵と夫人、別室はこちらの護衛達も。そして、マリアンジェラ・フロリアン。彼女は公爵領の刺繍職人で元ハーシュトレイ王国の侯爵令嬢です」
ニコーラはアレックスの方を見る。アレックスが口を開く。
「リータ国の辺境から来た。アレックス・ブラガーリャ次期辺境伯だ。辺境伯とリータ国王から許可を得て単身で訪問したところ、ちょうどレーナが来ると聞いて、ここに入らせてもらった」
宰相が口を開こうとする。まずは手紙の確認だろう。
「宰相殿。まずは私から発言の許可を頂きたい」
アレックスが挙手する。宰相はぎょっとして、国王の方を見る。
「アグリアディ一行については手紙にて知らされた内容を確認し、書状を送らせてもらっての謁見。リータ国からは先触れが無かった。一体どのような要件なのか、確認しておくのも良いだろう」
アレックスが立ち上がる。
「嫌な噂を聞いたもので。居ても立っても居られず、ここに来た。レーナに騎士爵という下位の爵位を叙爵し、魔獣の討伐を行う砦へ差し出したのは本当か」
ファブリツィオが心配していたことだ。アレックスとエミディオの地位を鑑みると、あまりにお粗末な地位。
「騎士爵というものは我が国では下位ではない。そんなことは国の法のどこにも明記はされていない。そして、騎士として生きていくことはレーナ騎士爵の希望であった。砦のある領にはハーシュトレイ王国からの移民が多く住まう地域だ。彼等を守りたいという意志を尊重した結果でもある」
宰相が説明する。しかし、それは都合の良い言い訳にも聞こえる。
「それでは、本人の意志を確認した上で、ハーシュトレイ王国の王族には騎士爵が妥当だと」
アレックスが国王を睨む。
「先程も申し上げたが、騎士爵には明確な地位が存在しない」
宰相が言うが、アレックスの発言を肯定したのと同じではないか。ふと、ファブリツィオが思い出したことを口にする。
「宰相殿。レーナ騎士爵は、公爵家へ来た際に、騎士爵は子爵と同等程度の身分と言っていたのだが、レーナ騎士爵はその話をどこで耳にしたのだろうか」
宰相が国王の方を見る。国王は首を横に振っている。宰相は、お前はどっちの、とファブリツィオを睨みながら言っているが、レーナは公爵家の北の砦所属の騎士だ。レーナに誤解があるのならば、それは公爵家としても正しておかなければならない。
「私は王太子から言われた。騎士爵なんて子爵程度だ、今の気分はどうかと聞かれたので、騎士として生きていくことが出来て良かったと答えた」
国王と宰相、王族全員が王太子をギッと睨む。
「王太子殿下、説明を求める」
宰相が唇を震わせながら問う。
「いや、その。式典でも何でも、騎士爵が呼ばれる順は子爵と同じじゃないか。だからその。勘違いをしていました」
王太子は最後の方は小声になっていた。国王の肩が震えている。勘違いで済まされる話でもない上に、レーナの発言からすると、大変失礼な物言いをしてくれている。
さあ、誰が発言する?と、ファブリツィオはその場にいる面々を見渡す。
「勘違いでは無いでしょう。私は宰相補佐官から騎士爵は現騎士団長に叙爵することは出来ない、理由は彼が侯爵であるからと聞きましたから」
まさか、ニコーラが発言するとはと一瞬思うが、そういえば彼は数年前に宰相補佐官の部署へ短期の仕事をしていたことを思い出した。ファブリツィオは学園の卒業後に北の砦へ行ったが、その間彼は留学や王宮で短期の仕事をするなどして、ファブリツィオへ仕える日に備えてくれていたのだ。
そうだ、宰相補佐官が爵位が一つ抜けてしまうと頭を抱えていたという話もニコーラから聞いたことがある。
ファブリツィオは次期公爵として、宰相に問わなくてはならない。
「まさかとは思いますが宰相殿。騎士爵を持つ者がいなくなったからどうとでも言える等とお考えではありませんよね。どこにも明記されていなかった事でも、民の常識や認識を宰相殿や王族の方々が把握されていなかったなど、考えたくはないのですが」
沈黙が数分続いた。宰相は口を開こうとしては閉じてを繰り返している。
その様子を見てやっとエミディオが口を開く。
「宰相殿、騎士爵の叙爵は仕方ないとして、私がここに同行させてもらった理由でもお話しましょうか」
宰相は恐る恐る頷く。
「私はこちらのシルヴァーナ・バンデーラとの結婚式に妹を招待しようと思いましてね。招待状がきちんと現物が妹に届くようにと思って北の砦をお忍びで伺ったのです。もちろん、結婚式にはオルガ国の王族の方も招待しておりますし、そこにいる兄ももちろん私の家族ですので、招待します。しかしながら、妹の現在の様子を聞くと騎士爵として公爵家の北の砦所属とのことで」
エミディオはちらりと国王、王太子を見る。目が合った二人はひっと声を漏らしている。
「結婚式で、オルガ国の王族やリータ国の者もいる前で、彼女が騎士爵とは、どう考えられるだろうかと。エヴァーニ王国が心配になったもので。宰相殿、また国王陛下は私達の結婚式でそのことが他国にどう思われるかも分かった上での対応なのかと。もしこれが手違いであれば、早急に修正いただかなくてはと思いこちらに同行させていただいた次第で」
宰相が、何かを言いたそうにしているが、国王が手で抑えた。
「国王として、レーナ王女殿下の件を宰相に一任したのは私の責任である。申し訳なかった」
ファブリツィオは、国王が思いの外すんなり謝罪したなと思う。
「まず、レーナ王女殿下に叙爵した騎士爵については、彼女が騎士であったことからも、そのままにしておくこととする。そして、彼女には王族もしくは公爵家程度の者との婚姻などで」
「それは困りますよ」
国王の言葉を遮るのはアレックスだ。
「私の調べたところ、婚約者のいない王族はそこの王太子か素行が悪いため保養地暮らしをしている王弟とまだ十歳と幼い王子。公爵家はファブリツィオ・アグリアディしかいないではないか」
ファブリツィオは、そこに並べられたら困ると思い、挙手する。
「私、ファブリツィオ・アグリアディは、こちらに来ていただいたマリアンジェラ・フロリアン嬢と婚約予定です。そのこともあって、彼女にもここに来てもらったのです」
ファブリツィオの言葉に、今度はレーナが眉間にシワを寄せて挙手する。
「私のことで揉めているが、私に何も聞かずにどうして話を進めるのだ。そこの王太子や王子は無理だし、王弟と保養地なんてもっと嫌だ」
国王ががっくりと項垂れる。その様子を確認してエミディオがニヤリと笑って話し始める。
「提案ですがね、レーナはすでに北の砦に居を移した訳で、これからまた動かせるのも国の威厳が損なわれますよね。ですから、アグリアディ領の者で釣り合いの取れる者と婚約してはと」
エミディオ、そしてアレックスがニコーラの方を見る。
「ピンツィ家か。そうだな、伯爵家であれば可能か。それで良いのか」
提案を否定されたばかりの国王は自信が無さそうに問う。
「私もニコーラ・ピンツィも、エミディオ兄様に提案されて了承した」
おお、それならばと、国王の表情が和らぐ。宰相は青かった顔にいくらか血色を取り戻そうとしていた。
しかし、この提案で済むのならば、最初からその話をすれば良かったのだ。レーナがこの国に入り、騎士爵を叙爵し北の砦へ押し付けた件についてわざわざ問いつめた意味が分からないのだろうか。
「父上、お兄様と宰相殿の処遇はどうするのでしょうか」
ファブリツィオが口を開こうとしたが、ここで先に声を上げたのは王女だ。確かまだ十四歳だったか。
「解決したではないか!」
王太子が声を荒げる。しかし、解決したとは言えない雰囲気のファブリツィオ達を見てそれ以上は言えなくなったようだ。
「レーナ王女殿下については、伯爵家との婚約によって他国への印象が悪くならないようにすることが、今、この場で決まったのです。元々のレーナ王女殿下への叙爵では失礼であったことや、王太子が率先して無礼をしていたことについてはどう責任を取るのでしょう」
宰相は再び血色が引っ込んだようだ。王太子も、同じ顔をしている。二人共、助けてくれという顔で国王を見るが、国王は目を瞑る。そして、ゆっくりと目を開いた。
「思えば、王太子の無礼は以前から度々あった。今回の事は山とある無礼の一欠片であろう。そして、宰相についても、浅はかな考えによって危うい橋を渡ることもこれまで少なからずあったのだ」
国王は、よって、と言葉を続ける。謁見の間の全員が、その言葉に集中し、呼吸が止まる。
「王太子は廃嫡とし、今後は政治に関わることは許さない。頭はあるため、王宮文官として、生涯国を支えることを命じる。そして宰相は宰相補佐官へ三ヶ月以内に業務を引き継ぎ、王宮文官の席を除することとする」
廃嫡して保養地なんて甘いことを言うようならアレックスやエミディオが黙っていなかっただろうが、そこはよく理解出来たらしい。宰相についても、妥当なところだろう。
「皆様、この処遇で納得していただけましたか」
王女の問いかけに、各々頷く。
これで用は済んだと、謁見の間を後にするアレックスとエミディオ。ファブリツィオも、もう言うことはない。ちゃっかりマリアンジェラとの婚約についても了承されたようなものだと、マリアンジェラの手を取り謁見の間から去ろうとした。
「いつから、どこから企んでいた」
国王が、宙を見ながら呟く。誰にとでも無い言い方であったが、ファブリツィオは動きを止めてしまった。このまま再び動き出し、去ることは、企みがあったと言うようなものだ。
これからマリアンジェラと生きていく上で、こんな形で王家から睨まれるのは良くない。
「国王陛下、私は王命であったためレーナ嬢を受け入れ、彼女の監視の為に北の砦に滞在し、その間に私の衣装へ刺繍をしたマリアンジェラに出会い、お忍びで訪問されたエミディオからの提案を聞き、ここに出向いただけでございます」
国王は、そうかと呟き、目を瞑る。ファブリツィオ達は今度こそ、謁見の間を後にした。
王宮へ向かった面々とは、王都のアグリアディ公爵邸で再び話をすることとした。
アグリアディ公爵と夫人に、マリアンジェラを紹介する。
「ファブリツィオが!!婚約者を!!」
「グラツィエラ、驚きすぎだよ」
父が嗜めるが、母はお構い無しだ。
「マリアが驚くから」
「マリアンジェラでマリアね!!よろしくね!!うるさいかもしれないけれどちゃんとこの子の母親よ!!」
マリアンジェラも引き気味だが、嫌では無さそうで何よりだ。ファブリツィオは父へ聞きたかったことを思い出す。
「手紙でも伝えた、精霊の加護について、エミディオからは遺伝と聞いた。父上ももしかしてと思っていたのですが」
「そうだな。私も子供の頃は見えていたよ。でも私の母、お前の祖母は神経質でね、私がおかしくなったのではと医者を大勢呼んだりしたものだから、見て見ぬふりをしているうちに見えなくなったんだよ」
滅多に聞くことのない父の幼少期の話を聞き、自然と笑みが溢れる。
「それにしても、ニコがレーナ王女と結婚とはね」
「二人ともあまりにもあっさり了承するので、付いていけませんでした」
二人は、ニコーラとレーナ、そして父の側近であるニコーラの父と、急遽呼び出されたニコーラの母が話しているところを見る。アレックスや、エミディオとシルヴァーナに挨拶をしているようだ。
「これでピンツィ家も、平民の出だとか侮られることはなくなるな」
父の言葉に、ファブリツィオは深く頷く。ピンツィ家が平民であったのはもう百年以上前の話だ。しかし、平民の成り上がりだと言われ、代々当主の配偶者は裕福な平民だ。代々そうであるから、あそこは伯爵家とは言うが平民としか結婚出来ない程度の家だと言われていた。ここに王女を迎え入れるということは、王女を迎え入れる家格だと国が認めたも同然だ。レーナとの婚約はすぐに公表するとのことだ。平民の成り上がり伯爵なんて言われなくなるだろう。
「それでファブリツィオ、手紙の件については出直しか」
本来は精霊の加護についてファブリツィオが知り得たことを話す呼び出しだったが、レーナについての話になってしまい、王太子の廃嫡や宰相の辞職も決まってしまったため、明日もう一度王宮へ上がることとなった。
「はい、明日は今日謁見の間に入った者だけで向かうつもりです」
ファブリツィオの言葉に、ヴァルテルは一呼吸する。
「ファブリツィオ、まあ、アレだ。公爵領はある程度栄えているし、多少の切り捨ては仕方ない場合だってある。しかしな、私達の幸せ無くして領民の幸せは無いのだということだけは覚えておきなさい。何かを犠牲にして得られる物は無い。切り捨てるものがあれば、切り捨てるものにとっても良い状況になるようにしなければならない。そうならないのであれば、それは切り捨てるべきものではない」
ファブリツィオはヴァルテルの言葉を一言ずつ、噛みしめるように聞き入る。
「お前は明日、公爵家の代表として行くと良い。お前が決めたことを了承する書類は出来ているからな」
ファブリツィオは、ありがとうございますとだけ言った。
「どうもファブリツィオ君。弟のエミディオまで公爵領で世話になったと聞いたよ。弟妹達がすまないね」
アレックスは王宮にいた時よりも随分リラックスした様子だ。
「アレックス次期辺境伯、辺境から護衛も無く来られたのですか」
アレックスは単身で来たと言っていた。公爵邸にも王宮から一人で来たのだ。
「もちろん、宿に使用人は連れて来ているが、護衛は今回必要無いようだったからね」
ところで、と言ってアレックスはレーナの方に視線をやる。
「僕もレーナも魔獣の討伐に従事するなんて、両親が聞いたら驚くかな」
「辺境では魔獣の討伐が主なのですか」
「そうだな。魔獣の棲む場所から無理矢理塀を築いて人間領と遮っているから、毎日ぞろぞろ魔獣が出てくる。大量発生も数十年ごとにある。まあ、騎士も多いし、大量発生は予兆があるからね。それなりに騎士の練度も高いよ」
それでも、ハーシュトレイの騎士団には勝てないがと付け足す。
「リータ国の騎士達へ身体強化などを教えるつもりで?」
ファブリツィオが聞くと、アレックスは笑い出す。
「そうか、そういうのもアリかもしれないな。だが、精霊の加護を受けている大人はほとんどいないからな。幼い頃に精霊の加護を受けている者を探し出すところからしなければならないから、数年でどうこうなる問題でも無い」
「騎士団のハーシュトレイ、食糧庫のエヴァーニ、図書館のリータ、商いのオルガ。ハーシュトレイが無くなり、どの国が物理的な力を持つと思いますか」
「ファブリツィオ君、君は意外と遠回しに聞くんだね。ハーシュトレイの騎士団は解散し各地へ散ってしまった。集団であれば脅威だろうが、そうでないから大丈夫だよ」
ファブリツィオは、どこかの国がこの精霊の加護による力で騎士団を強化するのではないかと考えていた。しかし、アレックスは否定する。
「少しだけ種明かしをしようか。レーナは両親と共に王家直轄地へやる予定だったが、まぁ難しくてね。ひとまずどの国へ行かせようかと考えたら、国民性も穏やかなこのエヴァーニしかなかった。僕も弟もレーナのことは大切な家族だ。それはこれまでもこれからも変わらない事実。だから、あの子がこの国に居る限りは、リータもオルガもこの国を侵略することはない。あの子は騎士だから、戦争になれば出て来るだろう?だから、この国には絶対に手を出さないだろう」
だから大丈夫とアレックスは言う。そこへ、エミディオが近寄ってきた。
「兄上、何かあったのでしょう?」
アレックスとエミディオ、この二人はそこまで仲の良い兄弟では無さそうというのがファブリツィオの受けた印象だ。二人とも、レーナに対してはかわいい妹を思いやる兄という態度だが、お互いはそうでもないらしい。
「ファブリツィオ君達が着く前に、この国の騎士団長には報告したんだがな。レーナの話でその件も続きが話せなかった」
場所を移したいとファブリツィオに言う。
ファブリツィオの執務室には、ファブリツィオとニコーラ、レーナ、アレックス、エミディオ。護衛達が隅に控えている。
「辺境で異変が起きている。恐らくは魔獣の大量発生だ」
ファブリツィオは息を呑む。
「確か前回は二十年前だったか」
記憶にあるその時の記録を辿る。その時にエヴァーニ王国からは支援として食料と騎士の派遣をしたはずだ。北の砦にもウルバノを含めその時派遣された者が数名残っている。
「リータ国も前回の大量発生から研究を重ね、魔術師による魔獣の討伐兵器の開発もしてきた。前回ほどの支援は必要無いかもしれないが、兵器で倒しきれなかった魔獣の討伐や食料、魔術師や兵器のための魔石等、国内では賄いきれない」
アレックスの眉間にしわが寄る。
「兄上、オルガ国からは魔術師が派遣できる。魔石はどのくらい足りない?」
「ああ、オルガ国からは魔術師を、エヴァーニ王国からは騎士と食料をと、リータ国も想定している。ただ、魔石はいくらあってもいい。魔石があるほど兵器が使えるし、兵器を使うほど魔術師と騎士の消耗が減るからな」
「ニコ、最近取れた魔石はもう売ったか?」
ファブリツィオは、報告だと毎日討伐しているとあった。
「いえ、まだ売っておりません。毎日討伐しているので、度々売るよりも、落ち着いたらまとめてと思いプールしております」
ニコーラは報告書を出す。見たことが無い数が貯まっているようだ。
「アグリアディ公爵家としては、現在毎日討伐があるから前回ほどの人数は派遣出来ないだろう。その代わりに魔石を出すことは可能だということは王家に伝えよう」
アレックスはきっとこの約束を取り付けるために来たのだろう。
「オルガ国民になった、ハーシュトレイの元騎士の者達でも集めてやろうか。オルガ国の騎士は強くはないからね」
アレックスは頷く。
「前回は、ハーシュトレイの騎士団から五分の一を派遣してもらった。もちろん、彼等の活躍なくして防衛は成り立たなかったと聞く。彼等の活躍を見て、リータはハーシュトレイへのちょっかいを出すことを止めた程度にはね」
「それで、私も行くことになるだろうか」
レーナの発言に、アレックス達は全力で首を横に振る。
「だめだめ。レーナは精霊王の守護者だから。もしも防衛出来なかったら、北の砦で精霊王を守らなきゃ」
エミディオが慌てて言うが、レーナはふんと鼻を鳴らす。
「私は強いから、私が加わった方が確実に防衛できる」
「レーナ様、そこは精霊王の真意を聞いてみては?」
ニコーラは助け舟のつもりだった。レーナはエリサを呼ぶ。
「エリサ。リータ国で魔獣の大量発生が起きるそうだ。その時私は近くで守るべきだろうか。それとも、魔獣の討伐に出向くべきだろうか」
エリサがこそこそと話す。
「精霊王は、討伐に向かうべきと言っております。レーナ様なくして防衛は成功しないからと」
執務室の空気が凍る。ニコーラは持っていた資料を落とし、アレックスは弄んでいたカフスボタンを砕き、エミディオは両膝を床に付いた。
アレックスとエミディオは妹大好きお兄ちゃんですが、お互いはあまり興味はありません。
アレックスについてはエミディオに興味が無さすぎて名前すら怪しいので護衛に弟の名前を聞いたことがあります。






