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第三話 精霊の加護

ここから説明のセリフが多くなります

文才の無さが炸裂してます

 「まず、精霊の加護や魔法はこの国には認知されていないことだ。これを前提に話してほしい」


 ファブリツィオは執務室に集まったハーシュトレイの四人を見る。ニコーラが聞き取り内容を記録していく。


 「まず、精霊の加護というものを具体的に教えてほしい」


 「精霊の加護とは、例えば精霊を認知する事が出来たり、精霊とコミュニケーションをとることが可能な者は、精霊から加護を受けているのだという認識があります」


 エーリオが説明し、その内容をニコーラが紙に書いていく。書く音が止まったところで、質問を続ける。


 「昨日、レーナ嬢は私に精霊の加護を受けているような雰囲気だと言ったが、精霊の加護というものは他人から認知されるものなのか?」


 「そうだな。精霊の加護を受けている者にも個人差がある。なんとなく、精霊が居ることが分かる者から、声だけ聞こえる者、見ることが出来る等、人によるのだが。私は精霊を見ることが出来る。そしてコミュニケーションを図ることも。ファブリツィオ様の近くには常に精霊がいる。精霊が自然以外のものに付き纏うということは精霊の加護を受けている他に無いからな」


 レーナは丁寧にゆっくりと話す。この内容が王家へ行くことは伝えてはいないが、察しているのだろう。


 「レーナ嬢は精霊の加護を受けていると。そして他の三人は?」


 沈黙。三人が三人共、お前からいけよ、の視線だ。


 「秘匿したい何かがあるのか?」


 ファブリツィオが、大人気なくモジモジする三人に圧を掛ける。


 「私は精霊の加護を受けています。見ることが出来るだけですが。一応、レーナ様のように魔法…魔力と引き換えに身体強化等を行うことも可能です」


 エーリオが答えた。ファブリツィオは次はと、ロレットを見る。


 「俺も精霊の加護を受けている。見えるし話せる。魔法も出来る」


 なんとなく、ファブリツィオは気付いていたのだ。ファブリツィオがいるせいか、いつも精霊が一人か二人、この執務室に現れるが、今日に限っては五人くらい、外から数人覗き込んでいる精霊もいることに。

 そしてエリサは。


 「私は精霊の加護と言って良いのか分かりませんが、精霊王が付いています。精霊を見ることは出来ますが、お話出来るのは精霊王だけです。そして魔法も使えません」


 とんでもないモノを最後に持ってきたものだ。ファブリツィオは気が遠くなる。


 「私も精霊から、精霊王は人に付くこと、ハーシュトレイにいたが近くに来たことは伝えられたことがある。エリサ嬢だったのか」


 なんとか言葉を捻り出す。その様子を見て、レーナが言う。


 「ファブリツィオ様、私達は精霊王を守るためにいると言っても過言ではない。精霊王は人に付く。付いている人以外に認知することはできない。そして、ハーシュトレイ王国での言い伝えでは、精霊王の付いている人が殺された場合、精霊王は怒り、精霊王に従う精霊のいる場所全てを一度灰にするそうだ。だから」


 一呼吸置いて、私達を引き離してくれるなよ?と、レーナはファブリツィオを見て静かに言った。



 「精霊の加護や魔法、精霊王について、他には無いか?」


 ファブリツィオは精霊の加護や魔法、特に精霊へ魔力を渡すことについて細かく聞き取りをした。レーナ曰く、腹筋の辺りから力を掌に向けて捻り出す感覚らしい。これまで精霊達は勝手にではあるが、花を咲かせてくれたりしていた。今後何かしらお願いをして礼が出来るのなら、その方法は知っておきたい。


 「ファブリツィオ様もしばらくこの砦にいるのなら魔法の使い方を習得してみてはどうだ。私達は隠す気も無い。聞かれなかったし、こうも精霊についての認識が違うなんてことも知らなかった。ここに来る前は王宮にいたが、使える言語や知識、他国の情報なんかは再三確認されたが、精霊については一切聞かれなかった。王宮も盲点だったのだろう」


 レーナの提案にファブリツィオは頷く。特に強くなる必要は無い。しかし、レーナ達がハーシュトレイの魔法を自分たちだけのものとしているのか、そうでないのかで王家の対応も変わってくるだろう。




 「ニコ、内容をまとめよう」


 四人を執務室から解放した後、ファブリツィオとニコーラは聞き取りの内容を確認していく。


 「ハーシュトレイの王子達が行った国には精霊の加護だ魔法だなんてこと、すでに周知されているのだろうか」


 「ファブリツィオ様、私は留学先で同じく留学生だったハーシュトレイ王国第一王子のアレックス殿下と関わったことがあるのですが、アレックス殿下から精霊についての話を聞いたことはありませんね」


 「そうだ。ニコーラはリータ国へ行っていたんだったな。リータにも元々精霊の話は無かったか?」


 ニコーラは手を顎に当て、しばらく記憶を辿っているようだったが、ファブリツィオの方を見た。


 「精霊祭はここと同じ様なものでしたね。精霊についても、自然のある場所にいるとか、子供のうちに見えることがあるとか。そういった話が子供向けの本になっていましたが、読んだことはありません。特に変わった文化はなかったように思います」


 少し気になったことがあったとしても、精霊の話なんて気にならないだろう。ファブリツィオが、精霊祭の日に精霊の加護と言われても特に調べようと思わなかったことと同じだ。


 「エリサ嬢に付いているという、精霊王の話。これをどうするか」


 ファブリツィオはレーナの「私達を引き離してくれるなよ」という言葉を思い出す。


 「レーナ嬢に護衛二人、侍女一人ではなく、精霊王の付いているエリサ嬢に女騎士と護衛が付いている、ということだったのだろう。どこから考えられたことだったのか」


 王女一人にあまりにも手薄な護衛体制ではあった。王女自身が騎士であるからという言い訳で納得させられた。事実、王女は身の回りのことはほとんど世話させていないことも王宮の確認済みだ。


 王女が騎士として働くという意志を示した。そしてこの北の砦へ。魔獣の討伐は必要だが、砦内部で働く者に危害が及ぶことはない。国境と言っても他国の人が住む領土とは接していない。精霊王を守るのに絶好の場所だ。


 「考えれば考える程、誰かの策略にしか思えないな」


 ハーシュトレイにまんまと嵌められたのだ。しかし、魔法についてはレーナの失言とも言える。誰かの策略だったとて、レーナは把握していないだろう。


 「誰かの差し金であることは間違い無い。だがそこにレーナ嬢は関わっていないだろう。ニコ、そのことについても明記して出そう」


 「そうですね。しかしファブリツィオ様。レーナ様並びに他三名はすでに公爵家の所属です。レーナ様による魔獣の討伐から、その後の発言まで記しておいた方が良いのでは」


 「そうだな。こちらが隠していた訳では無いというアピールになる。そしてレーナ嬢の討伐魔獣から取れた魔石もついでに付けて王家に送ろう。体面はこちらでレーナ嬢を囲う気はないと」


 「良いのですか?中々質の良い魔石だったと思いますが」


 「騎士団を持つ公爵家なんだ。騎士団といっても北の砦を守っているだけだがな。謀反の疑いを掛けられる前に忠誠心を示しておいた方がいい」


 ファブリツィオは王家とのやり取りに慎重な姿勢を示す。ニコーラは王家と公爵家へ手紙と言うにはかなり重たい内容の書類を出した。





 「そっちに一体行ったぞ!!」


 「おお!!ちょうど手が空いたところだ!!来い来い!!」


 レーナは魔獣の討伐にすぐに慣れたようだ。


 「ほら!ファブリツィオ様!身体強化してみろ!」


 「分かってる!!」


 ファブリツィオも魔法の使い方を覚え、討伐に参加している。手紙を出して一週間。そろそろ返事が来る頃か。


 「ファブリツィオ様、お疲れのところ恐れ入りますが」


 魔獣の解体をしているところにニコーラが走ってくる。返事が来たか。


 「どちらからの返事だ?」


 「それが」


 ニコーラは気まずそうに、お客様です、と呟く。


 「客?北の砦(こんなところ)に?一体誰が」


 王宮からの使者だろうか?


 「エミディオ・バンデーラ公爵と名乗られていまして、オルガ国の公爵家に婿入りしたレーナ様の兄だと」


 「エミディオ兄様か!!私に用か!?」


 離れたところからエミディオの名前を聞きつけたレーナが走ってくる。わざわざ身体強化して走るんじゃない、とファブリツィオが注意する。


 「レーナ様と、ファブリツィオ様に話さなければならないことがあると。応接間へ案内しております」


 オルガ国から北の砦までは最短で来ても10日は要するはずだ。ということは、王家への手紙とは無関係か。しかし、エミディオは第二王子だが王になるのは彼だろうという噂をこの国でも聞く程の切れ者だ。



 「いやあ、この紅茶の産地はどこかな?とても美味しくてね、無作法だが飲みきってしまったよ」


 ファブリツィオとニコーラ、レーナが応接間へ入ると、ソファにゆったりと座る男女が立ち上がる。


 「初めてお目にかかります。ファブリツィオ・アグリアディと申します。こちらは側近のニコーラ・ピンツィ」


 握手を交わす。エミディオは余裕の笑顔だ。


 「初めまして。エミディオ・バンデーラだ。こちらはシルヴァーナ・バンデーラ。私の妻だ。お互い公爵家だ。呼び捨てにしてくれ」


 エミディオは隣の女性を紹介する。


 「エミディオ兄様の奥さんということは私の義姉様!!」


 レーナがシルヴァーナに抱きつく。いきなり抱きつくのはどうかと思うが。


 「レーナ。シルヴァーナがびっくりしているから。離してあげて」


 エミディオがレーナの腕を引っ張る。


 「ごめんなさい!私はレーナ・ハーシュトレイ!!」


 「エミディオ様からあなたのお話はよく聞いておりますわ。離れ離れの家族だけれども、仲良くしていきましょう」


 レーナが笑顔でこくこくと頷く。

 最近気付いたのだが、レーナはよく分かっていない時や返事に困ったときは頷くだけになる。きっとシルヴァーナに対してはまだ距離感が掴めないのだろう。



 「先触れもなく訪ねさせてもらったのは、はっきり言うと王家の邪魔が入らないようにっていう僕の配慮なんだが、アグリアディ家としてはどうだろうか」


 ソファへ腰掛けたエミディオが優雅な所作で二杯目の紅茶を飲みながら話し始める。


 「王家の邪魔、とはどのようなことでしょうか?」


 話の本筋が読めない。しかし、エミディオが婿入りしたオルガ国を出て、エヴァーニ王国へ訪問するとなれば、しかもハーシュトレイの王族がここに集まるとなれば、そもそも公爵家だけで対応するなんてことは出来ない。


 「元が付くとはいえ、王族が揃ってしまうんだ。本来なら訪問に先立って自国と出先の国の王宮へ許可を得て、それぞれから監視役を付けられてと、ちょっと妹の顔を見に行こうと思っても、何ヶ月先になるか分からないじゃないか。それに僕達が出す手紙は自国の検閲を受けて、さらにそちらの国の検閲も受けて、それぞれ写しも取られて。いや、写しを本人に渡すことになっているかもしれないね。だから」


 エミディオは懐から封書を出した。


 「僕らの結婚式の招待状。シルヴァーナが心を込めて書いたものを何人もの検閲官に見られて写しを取られてそれが相手の手元に行くなんて許せないからね」


 にこやかに、ファブリツィオに渡す。


 「これはレーナ嬢宛だろう」


 検閲の話を聞いた手前、見ない訳にもいかないのだが。


 「そうだ。でもファブリツィオ殿も招待しているから、一緒に見るといい」


 「私も?どうして」


 「妹は騎士爵を賜ったと聞いているが、所属は公爵家であるそうじゃないか。まあ、保護者として来てくれたら良いよ」


 「保護者」


 レーナは保護者という言葉にショックを受けているようだ。放っておこう。


 「せっかくだからさ、というか長旅になるだろうから護衛二人と侍女も連れて来るだろう?レーナばかり付き人を連れるのも良くないだろうし、君だってまだ独身だから変な噂を立てられても困るよね。だから、そこのニコーラ君かな?彼と、それから君のお友達のリカルド次期ファルネイ伯爵も連れて来ると良いよ」


 それぞれの護衛や従者を連れてね、と言って微笑んでいる。


 どうやら身辺調査をした上での訪問らしい。それぞれの家への招待状は後で正規の方法に乗って出すよ、と言っている。


 「それで、これだけではないでしょう?」


 「そうだね。シルヴァーナ、レーナとお話してくるかい?きっと楽しいよ」


 「レーナ嬢、兄君と話をさせてもらいたい」


 レーナは話が読めないようでこくこくと頷いている。


 「そうだね、シルヴァーナとレーナにはニコーラ君に付いてもらって、エーリオもここに残ってもらおうか」


 扉の外で待機していたエーリオ達のこともお見通しか。レーナとシルヴァーナ、ニコーラが退室し、エーリオが入室する。扉の外でウルバノとその部下も待機していると耳打ちされた。



 「レーナは魔法のことを話した頃かと思ったけど、ファブリツィオ殿も習得されたとは、素晴らしいね」


 「魔法はハーシュトレイ内部の秘匿事項だったのか?」


 エミディオが少し間を置いて答える。


 「ハーシュトレイは秘密にしていた訳では無い。ハーシュトレイの騎士団がなぜ強いのか。そこをよく考えてみればわかる話だ。ハーシュトレイが四方を他国に囲まれても国として独立し続けたのは、侵略されても追い返す武力があったからだ。あんな小さな国で。緑豊かな大地や、縫製技術なんかも持っていたから、面積の割には栄えていた。だから侵略を企てる国もあったが、いくら押しても押し返される。面積も人口も多くはない。騎士団の強さの秘訣はと言うと、厳しすぎるという演習だ」


 エミディオはエーリオの顔をじっと見て、話を続ける。


「ハーシュトレイの騎士団演習はね、身体強化がなければ帰ってこれないくらいキツいんだ」


 エーリオとロレットは知っていたと思うが、という言葉を添えて。


 「そうそう。ハーシュトレイの王族は皆精霊の加護を受けている。これは遺伝だからね」


 「ハーシュトレイの王族も騎士団の騎士も全員が精霊の加護を受けていると。そして、それを公にしてこなかったと」


 精霊の加護を受けている者を集めた騎士団。それを手にした国は大きな武力を得て他国の侵略が可能になるだろう。


 「精霊の加護について、公にしないことで、騎士団は自然に解散し、元騎士の領民として各国へ振り分けられた。そしてそろそろ、各国へ散った国民から精霊の話や魔法の話が明るみになる頃だろう。そういうことで、まずはここを抑えておかなくてはと思ってね。ファブリツィオ、君は既にこの計画の渦中の人間だから色々としなければならないことがある」


 その後のエミディオの話はファブリツィオの予想を上回るものだった。





 「ニコーラ、この国は選択を間違えてしまったようだ」


 「エミディオ様のお話ですか?私達が退席した後に何が」


 夜の執務室。ニコーラから退席中のレーナとシルヴァーナの会話は特におかしな内容も無く、お互い初対面であったため、ニコーラが話題を提供していたくらいだったという。


 「第二王子は公爵家へ婿入り。シルヴァーナが女公爵でその婿となると思っていたが、当主はエミディオ。正真正銘の公爵だ。そして第一王子のアレックスは養子になっているとのことだが。辺境伯家への養子で、次期辺境伯だ。そしてレーナは公爵家の所属騎士爵。二人に比べるとなんという扱いかと、他国から睨まれてもおかしくない。しかもだ。それがエミディオ達の結婚式で他国へ明るみになる」


 執務室から外を見て、近くにいた精霊に声を掛ける。


 「精霊さん、誰も聞き耳を立てていないかい?」


 『誰もいないわよ!誰か来たら教えてあげるわ!』


 ありがとう、と言って精霊に魔力を渡す。


 「ニコ、君はその。将来を決めた相手だとかは」


 「いませんよ。婚約者もお付き合いしている人も」


 「そうか、そう。言い難いことなのだが。ううん、お願いということでもないし。もちろん、ニコの意志を尊重する主でいたいと思っているんだが」


 ファブリツィオにしては珍しく、言葉を出さない。


 「その、レーナ嬢と結婚だとか、ま、まずは婚約からかとは思っているんだが」


 「ああ、レーナ様が騎士爵になってしまったため、ファブリツィオ様では釣り合わないと。私でしたら実家は伯爵家ですので家格も釣り合いますね。王女の嫁下先としても伯爵であればギリギリあり得なくもないですし。良いですよ。レーナ様と結婚。本人も了承されているのでしょうか」


 ファブリツィオとは正反対にニコーラはすらすらと話を受け入れる。いいのか?え?本当に?とファブリツィオは慌てた様子で確認する。


 「ええ、真っ直ぐで可愛らしい方ではないですか。私もそれなりの年齢ですので。このまま数年もすれば両親からどこかの令嬢と無理矢理結婚させられそうでしたので。よく分からない人と一緒にされるよりは、知っている方の方が良いです。断然」


 「そ、そうか、それなら良いんだ。そうか、そういうものなのか?」


 ファブリツィオは自問自答を始めた。貴族の結婚は親に決められることも多い。


 「余談だが、ハーシュトレイでは精霊の加護を受けている者はなかなか結婚できないと言われていたそうだ。美しい精霊に見慣れて、それなりにきれいな女性に対してときめかないと」


 ニコーラは残念な目で主を見つめる。


 「ファブリツィオ様の初恋は精霊でしたね。私は精霊がどんな顔をしているのか分かりませんが、この年まで婚約者もいない程度には美しいということですね」


 ファブリツィオも気まずそうに視線を下に向ける。


 「それで、結婚の件はレーナ様には伝えられているのでしょうか」


 ニコーラが話を戻す。


 「レーナ嬢にはエミディオが明日伝えるそうだ。まずはニコが了承しなくては始まらないからな。そしてだ」


 ファブリツィオは今後の予定としてエミディオから聞いた内容を話し始める。


 「最近、毎日のように魔獣が出現しているし数も増えている。これは精霊王が移動したことで、生き物達が混乱しているからのようだ」


 魔獣が出ない日もあったのに、ファブリツィオ達が来てから毎日討伐を行っている。騎士達からはファブリツィオが女性を連れてやって来たからだとか笑われていたが、間違えではないところが歯がゆい。


 「しばらくすると精霊王の気配に慣れて生き物も落ち着くそうだ。特に心配することはないらしい。そして、王家からは呼び出しがかかると予想しているのだが、その場にエミディオも来ると。手紙を出して一週間だと伝えたところ、呼び出しがかかるまでここに留まると言われた」


 「魔獣の件も王家へ報告しなければなりませんね。しかし、ここに留まると言われましても。砦の使用人を何人か連れて街の宿屋に移ってもらいましょうか」


 砦は山の中腹にある。山の麓には、街があり、昨年新設した縫製工場も街の端に出来た。魔獣は、砦と連なる塀があるため街に出てくることも無い。騎士達も普段は砦で寝泊まりしているが、休日は街に下りて楽しむ者が多い。街から見える砦や自然のおかげで観光地としても人気があるために、宿屋もいくつかある。


 「そうしてもらおうか。そうだ。縫製工場も案内して、この際オルガ国にも販路を拡大出来るといいな」


 「ファブリツィオ様、ご自身の動き等にはいつも謀反の疑いが掛けられないかと細心の注意を払いますが、お金を稼ぐことに関しましては中々貪欲ですね」


 ニコーラが思わず普段から気になっていることを呟く。エヴァーニ王国の公爵家として、どう行動すべきかを考えているファブリツィオ。しかし、販路拡大には容赦がない。


 「お金はたくさんあっても困らないし、ちゃんと稼いだ分の税も国に支払っている。大丈夫だ」


 資産が増え過ぎたら目を付けられるのではと思うが、広大な公爵領だ。いざ王宮から良からぬ疑いを掛けられれば独立することも可能だろう。公爵領の作物や産業の流通のために、国に属する必要があるだけで。むしろ公爵家から直接他国へ流せるようになれば、という所でニコーラは考えを中断した。手を出してはならない範囲があることを側近はよく理解しておかなければならない。



 「そういえば、精霊祭の時に新調した衣装の刺繍だが、とても出来が良かったと言われていたな。縫製工場で一番の腕の者が刺したのだよな」


 「そうですね。エミディオ様をご案内するついでに、聞いてみてはいかがでしょうか。刺繍職人の多くはハーシュトレイ王国の元貴族令嬢達ですので、エミディオ様やレーナ様も顔見知りがいらっしゃるかもしれません」


 「そうしよう。実は母上も刺繍の出来に感動したようで、他で仕入れた衣装にも縫製工場の職人の刺繍をして欲しいと言っていた」


 「それは。金の手を持つと言われるグラツィエラ様がおっしゃるなら相当ですね。刺繍事業を始めても良いかもしれません。ファブリツィオ様から直接お伝えくださると、きっと職人達も喜びますよ」


 工場の稼働前に名簿を確認したが、侯爵令嬢から男爵令嬢までいたはずだ。爵位もバランス良く配置したつもりだが、実際のところどうなのかも聞かなければ。


 エミディオの話と今後を思うと気が重たくなっていたが、軌道に乗り始めている縫製工場のことを考えると、少し希望が見えた気がした。

登場人物が増えてきましたね

話もぐぐっと動き始めます


小ネタや裏話をTwitterに書いていたりもするので良かったら覗いてみてください

@tokoAg_gi

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