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精霊に導かれる〜公爵子息と精霊の物語〜  作者: とこ


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第十五話 精霊と魔術師

 オルガ国の王都まであと少しだ。

 ファブリツィオは夜中、ふと目が覚めた。なかなか寝付けず、マリアンジェラを起こしてしまうと思い、一度夜風に当たろうとバルコニーに出た。

 大きな街ではないものの、夜中でも開いている食事処もあるらしく、人通りがポツンポツンとあるようだ。ふと見下ろすと、男性二人が並んで歩いている。


 オルガ国は、同盟国で唯一、同性婚の認められた国である。しかし多い訳でもないため、偶に同性のカップルを見掛けるというくらいだ。認められているということもあって、そのカップルが目立つこともなく自然に溶け込んでいる。


 「テオ、どうしたの?」


 ふいに、後ろから声を掛けられ振り返る。


 「ああ、目が覚めてしまって。起こしたら悪いと思って夜風に当たろうとしたんだが」


 逆に目を覚まさせてしまったかなと言って、ファブリツィオはマリアンジェラに申し訳無さそうに微笑んだ。


 「私も目が覚めちゃったの。なんだかザワザワする気がして」


 ファブリツィオもそうだと言う。何とも言い難い、気持ち悪さがある。


 「テオ、あれは何かしら?」


 マリアンジェラが、街の向こうに見える山を指差す。


 「あの山は炭鉱があると聞いている。あの明かりも炭鉱のものだと思うが。いや、明かりが動いている?」


 よく見ると、その明かりは動いているように見える。


 「ファブリツィオ様!チリーノです!」


 強めのノックと共にチリーノの声が聞こえた。ファブリツィオはマリアンジェラの肩を抱き、バルコニーから室内に戻る。入室を許すと、直ぐにチリーノが入ってきた。


 「宿の者から、炭鉱の方で山崩れが発生したので避難するようにと」


 一行は宿の支配人に従い、炭鉱と反対に位置する山に避難することになった。元々、炭鉱のある場所は土砂崩れが発生したことがあり、避難場所も決まっているのだという。

 ファブリツィオやマリアンジェラが感じ取ったものは、山の地面が動き始めたことによる振動だったらしく、ザワザワした何かは次第に地割れのような山崩れの音になっていった。


 山の中腹に、広場があった。宿のあった地域の住人はここに集まる予定らしく、ファブリツィオ達の他にも続々と住人が集まっている。

 宿の支配人はその地域の住人名簿を出している。その地域の者以外にいるとしたら、宿の客くらいであるため、支配人が名簿の確認をする役割らしい。

 ファブリツィオ達の他にいた客も皆いたらしく、支配人は一安心したようだ。今度は住人の確認をしていく。


 「テオ、すごい音ね」


 遠くから見ると山の地面がゆっくり動いているように見える。近くであればきっと人の足では追い付かない速さであるだろう。


 「いない!!」


 支配人の叫び声が聞こえた。


 「ウィルソン兄妹がいない!!誰か見ていないか!?」


 兄妹、ということは子供だろうか。ファブリツィオは山を見る。宿からここまでに掛かった時間と、山崩れの速さを見て、冷や汗が出た。


 「私が走れば間に合うか?いや、子供二人を抱えて走るとなると」


 月明かりで山がよく見えるため、レーナも一瞬怯んだ。いくら精霊の力を借りても、間に合わないという計算が突きつけられる。


 「支配人。子供二人か?」


 エルシーが、支配人の肩を掴む。


 「十歳の男の子と、六歳と三歳の女の子、子供三人が。親は今日仕事で隣町に出ていると。ああ、昨日この子達の親に何かあれば頼むと言われていたのに……」


 突然のことで、支配人も客の案内で精一杯だったのだろう。


 「おい、支配人。私は魔術師だ。転移魔術が使える。家はどこだ」


 支配人は、ハッと顔を上げる。


 「宿の三軒隣の、薄茶色の屋根で二階建ての家です。あそこは川にも近いから……いやでも、転移用の魔術陣なんてこの街にはありません……」


 エルシーは分かったと言って、宿の方を見る。


 「あの家か。月明かりがあって良かった」


 エルシーの足元に魔術陣が光って見えたかと思うと、その姿は一瞬で消えた。


 「テオ、魔術陣なんて描いていたかしら?」

 「描いていなかったはずだ。それに、転移魔術とは数回しか見たことがないが、あれは行く先にも必要じゃなかったか?」


 その場に残された一同は、エルシーの行動に驚くが、彼女の様子から、おそらく残された兄妹を助けに行ったのだろう。そして、それを信じて祈るしか、ファブリツィオ達にはできない。


 崩れた山の一部は、川の流れに沿って下っていく。川に架かった橋や、川の側にある建物は巻き込まれている。このままだと、兄妹の家も巻き込まれる位置にある。


 「ほら!着いた!」


 エルシーの声がした。広場の中心で、エルシーが三人の子供と共に現れた。三人とも大泣きしている途中のようだ。


 「全くもう!こんな時にベッドの下になんて隠れるから!」


 子供達は大きな地鳴りに怯えたのか、ベッドの下に隠れていたらしい。

 支配人がすまなかった、無事で良かったと言って、子供達を抱きしめる。子供達も、見知った顔を見ることができて、さらに声を上げて泣いている。

 子供達の大泣きとは反対に、広場に集まった者達は安堵の表情だ。


 「魔術師様、何とお礼を申し上げたら良いか……貴重な転移魔術陣をお使いになられて……」


 子供達を他の住人に任せた支配人がエルシーは話し掛ける。


 「テオ、転移魔術ってどのくらいの価値があるのかしら?ハーシュトレイ王国は騎士団は強いものの、魔術師は少なかったから知らないの」


 ファブリツィオはマリアンジェラに囁かれて、転移魔術を思い出す。


 「以前、アグリアディ公爵領で水害があって、王宮魔術師に土地の浄化を頼んだんだが、転移に掛かった費用はこのくらい」


 ファブリツィオはマリアンジェラの掌に金額を指で書く。それを見たマリアンジェラはヒッと声を上げる。


 「そんな、失礼だけどあの宿じゃ到底」


 ファブリツィオは意を決して、エルシーと支配人の間に入る。


 「エルシー魔術師、元はと言えば、支配人は我々を逃がすことに必死だったことが子供達のことを失念することに繋がったとは思わないだろうか。彼のおかげで私達は無事だから、転移魔術に掛かった費用はこちらで持つ」


 支配人は、そんな、と言っているが、ファブリツィオはエルシーの顔をじっと見る。


 「は?お金取るなんて言ってないんですが。私は国賓であるアグリアディ公爵家御一行の護衛に来ただけですよ。あと、兄妹がなかなか見つからなかったのと、街道が塞がれそうだったので山崩れも多少収めておきました。全ては、国賓であるエヴァーニ王国のアグリアディ公爵家を無事に王都に送り届けるためです。そのために追加料金なんて発生しません。魔術師の職場環境に同情してください」


 エルシーはそこまで言うとふいっとそっぽを向いた。


 「アグリアディ様、この度は感謝申し上げます」


 支配人から今度はファブリツィオが捕まった。ファブリツィオは、自分のしたことではないと言うが、支配人からの感謝は収まらず、宿代は断られさらに他の住人達からも街道を守ってくれたと金品を差し出す約束をしようとする始末だ。

 旅の道中であるからと言って何とか断り、礼の代わりにフルーツを使ったソースなどの、この地域のレシピを纏めてアグリアディ公爵家に送ってもらうよう約束をした。


 その晩は広場に野営し、朝を待つことになった。広場には山崩れに備えてテントや薪などが用意されていた上に、定期的な訓練があったらしく、住人達の動きもスムーズだ。


 「アグリアディ公爵領でも、水害に遭いやすい場所は定期的に訓練をしておくべきだな」


 ファブリツィオは勉強になったと言う。火を起こす者や、テントを準備する者が予め決められているらしい。その辺りも教えてもらいたいとファブリツィオが言うと、住人達が有事の際のマニュアルがあるからレシピと一緒に送ってくれることになった。


 「テオ、エルシー魔術師がいないわ」


 マリアンジェラが辺りを見回している。護衛と言いながら、どこに行ったのだろうとファブリツィオも周りを見る。リカルドが、難しい顔をしながら寄ってきた。


 「ファブリツィオ、エルシー魔術師が見張りをしてやるから少しでも寝ろ、国賓が寝不足の顔で王都に入るつもりか、だそうだ。公爵家の者に直接言うと面倒くさいことを言われそうだから伝言を頼むと」


 エルシーとはまだ短い付き合いだが、何となく言っている様子を察し、一同は休むことにした。

 しかし、ただえさえ旅の道中で、山崩れに遭いさらにテントでの宿泊ということもあり、ファブリツィオやマリアンジェラは朝方すぐに目を覚ました。テントから出ると、やはり街の様子も気になるようで住人達も外に出てきている。チリーノやリカルド、護衛騎士達も起きている。


 「リーノ。ニコ達はまだ寝ているのか」


 チリーノに声を掛けると、チリーノはため息をついて頷く。


 「レーナがまだ寝ているから、だそうですよ」


 嫌味っぽくニコーラの真似をするチリーノに、マリアンジェラが笑う。


 「レーナ様は騎士ですから。休める時に休むということをよく知っているのよ」


 しばらくすると、ニコーラとレーナもテントから出てきた。レーナがファブリツィオに、すぐにここを発とうと提案する。

 ファブリツィオも、ここで世話になる訳にはいかないと賛成し、朝早いが出発の準備を始める。支配人や住人達は朝の炊き出しを食べてもらってからと言うが、それは住人達の物だし、自分達は元々多めに食糧を確保していると言って断った。


 そうこうしているうちに、エルシーがどこからか帰ってきた。


 「ファブリツィオ様、道中の邪魔になりそうなのは隅にまとめて避けておきましたから。街に人がいない時に入り込んでくる鼠もまとめて置いています」


 ファブリツィオは邪魔になりそうなのや鼠が何なのかは考えないことにして、ありがとうとだけ言った。

 出発時に馬に乗ろうとしたエルシーに、レーナが話し掛ける。


 「エルシー魔術師、寝ていないだろうし治癒魔術まで使っただろう。馬車に乗るべきだ。馬には私が乗る」

 「いいえ結構です。私は護衛ですから」


 二人で馬の手綱を取り合っている。両者とも全く譲る気配がない。男性陣が間に入れる雰囲気でもなく、マリアンジェラが二人の間に入る。


 「お二人共、このままでは日が暮れてしまいますわ」

 「マリア、エルシー魔術師は皆が眠れていないだろうと治癒魔術まで使ってくれたんだ。マリアも睡眠時間の割に元気だろう」

 「言われてみれば。そうですね。これが治癒魔術というものなのですね。それならば余計に疲れているでしょうからお休みください。はい、多数決で決まりです」


 マリアンジェラもレーナの意見に賛同したが、エルシーは引かなかった。


 「治癒までいくものではありません。ちょっとした回復なので大した事ありませんから。それに魔術師なんて自分で回復させて三日三晩働くなんて珍しいことでもないです」


 最終的には魔術を使ったのか馬の上に一瞬で移動していた。レーナとマリアンジェラは、疲れたらいつでも馬車に来るようにと言って、渋々引くことになった。



 「エヴァーニ王国では、魔術師といえば、鑑定をしたり、土地の浄化と、何かあった時に治癒魔術師を頼むくらいでしか関わることはないな。オルガ国ではエルシー魔術師のように多くの事ができる魔術師がたくさんいるのだろうか」


 ファブリツィオは馬車の中でマリアンジェラにそんな話をした。リータ国では魔獣退治に攻撃用の機械を作り、魔術師が操作をしていた。同盟国内でも、それぞれの国で魔術師の仕事は大きく違うようだ。


 「ハーシュトレイ王国でも魔術師といったら、テオが言ったような役割だったわ。国によって魔術師に必要とされることが違うのかしら」


 マリアンジェラの言うように、必要とされなければ、その能力を使う機会もないだろう。ファブリツィオはオルガ国という国は同盟国以外とも流通が盛んにあるため、どうも底知れない何かを感じてしまう。


 「精霊の力を借りる時、精霊に魔力を渡すが、この魔力が豊富にあり、この魔力をコントロールする素質のある者だけが魔術師になれる。魔術師は精霊とは関係ないのだろうか」


 ファブリツィオは、精霊も不思議な存在だが、魔術師もそれに近い気がしている。特にこの数日、エルシーがポンポンと魔術を使う様子を見ると、不思議でならない。魔術師とは自然の理を学び、それを深く理解しているとの認識からも彼女はかけ離れている気がしている。


 「もしかしたら、エルシー魔術師は精霊なのかもしれないわ」


 マリアンジェラがわざと真面目な顔でそんなことを言うので、ファブリツィオも思わず吹き出した。


 「人のこと好き勝手に言いやがって」


 馬上で盗み聞きをしていたエルシーは、一言言ってやろうかと思ったが、盗み聞きをしていたことを咎められるかもしれないと思い、聞かなかったことにした。



 その後は大きなトラブルもなく、王都に辿り着いた。エミディオ達はさすがに結婚式の準備で忙しいため、会うことはできないが、王都の宿から無事に着いたことだけを公爵家に手紙で伝えた。すぐに、エミディオから返事があり、式直前のため会えないが、歓迎と感謝が伝えられた。

 エミディオはおそらく会おうと思えば会えたのかもしれない。しかし、ファブリツィオの事を気に掛け、あえて会うべきではないと判断したのだろう。この旅の目的はエミディオの結婚式だけではなかったためだ。


 「テ、テオ?そんなに緊張しなくてもいいんじゃないかしら?」


 マリアンジェラが、落ち着かないファブリツィオに声を掛ける。この場所は貴族専用宿の一室だ。来客用の客間まで付いている。一行はこの客間で、面会を予定しており落ち着かない様子で待っている。


 「いや、だって君の両親から何と言われるか」


 オルガ国にいるマリアンジェラの両親と面会することが、この旅のもう一つの目的だ。


 「大丈夫だ。ニコーラも私の両親に会う前には緊張していたが、いざ会ってみると普通に話をしていた」


 レーナの話は本当だろうかとニコーラに視線を向けると、無言のまま頷いている。


 「まあ何かあれば魔術でその辺を花畑にでもして誤魔化してあげますから」


 部屋の隅で暇そうに欠伸をしていたエルシーがそんなことを言っている。王都までの護衛ではなかったのかと言ったら、護衛の必要がなくなるまでという指示だからと言って居座っている。

 たまに何かの魔術を使っているのか、無意識に流れ出るのか、魔力があると言って精霊達がエルシーの周りを飛び回っていることがある。稀に、魔力が流れ出る体質の者がいると、レーナは言っていた。ファブリツィオもおそらくその体質であるため、ずっと精霊が見えているのだろうと言われた。魔力ダダ漏れ体質、という嫌な言い方をしていたが、魔術師ともなるような魔力の持ち主はそうなのかもしれない。


 「ん?マリア、魔力ダダ漏れ体質の者は精霊を見ることができるのでは?」


 ダダ漏れしているとはいえ、精霊に魔力を渡しているということは、精霊の加護があるということである。ファブリツィオはそれに気付いた。


 「精霊の加護があっても、声だけ微かに聞こえるくらいの人もいるわ。彼女は気配が分かるとかそのくらいじゃないかしら。聞いたことないけれど、魔術師が精霊の加護によって魔術を強化したりできるのかしらね?」


 コソコソとエルシーの話をしているが、マリアンジェラの両親が来るまで、気を紛らわしたいファブリツィオの心情を読み取っているのか、エルシー本人は話に気付いているものの、知らんふりをしてくれている。


 その時、部屋の扉が開いた。宿の使用人が慌てた様子でいるところを見ると、使用人がこちらに知らせに来る前に強行突破して来たように見える。身分が低い者であれば使用人達が止めるだろうが、それが出来なかったということは、身分の高い者であるということだ。


 「面白い話だ。精霊による強化を魔術にできるのか。アレックス新王の治めるリータ国辺りで論文にしてもらいたい」


 その男は優雅に笑みを浮かべながら、我が物顔で部屋に入ってきた。

ありがとうございました。

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