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精霊に導かれる〜公爵子息と精霊の物語〜  作者: とこ


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第十四話 精霊と旅

旅っていいですよね。

 ファブリツィオ一行はオルガ国に向けて出発した。

 護衛の騎士は北の砦から出し、北の砦には元騎士を後方支援中心に数名配置した。


 思いのほか、北の砦の元騎士達が前向きな反応を見せてくれたことと、急なお願いだったため北の砦をよく知っている者が良いということになり、ハーシュトレイの元騎士団員は登録のみになった。しかし、レーナが直接、何かあった時は頼むと言ってくれたおかげで、嫌な顔ひとつせず、登録にも前向きな反応だった。


 「私も引退したら登録しよう」


 レーナは引退したらピンツィ邸に行くのではと思ったが、やる気を削ぐことは言わない方が良いと思い、皆黙っておくことにした。



 「そろそろか」


 エミディオ達の結婚式が行われるのはオルガ国の中心部である王都だ。長い道のりになるため、途中で宿泊する場所も予約している。

 着いたのは、オルガ国に入ってすぐの街。


 「マリア、外を見て」


 ファブリツィオに言われ、外を見たマリアンジェラはその光景にしばらく言葉が出ない。

 そこには一面、光が絨毯のように広がっていた。


 「綺麗」


 「ちょうど、見頃と聞いてこの時間に着くようにしてみたんだ」


 夕暮れに光るそれは草原に咲いた花だ。この季節に咲く花で、日が沈む頃からしばらく光り続けるらしい。夜が深まるにつれてだんだんと光らなくなるため、夜中には真っ暗になる。この時間だけの神秘的な光景らしい。

 馬車を止め、外に出ると、日が暮れた後の静かで冷たい空気が頬を撫でた。


 「マリア、外は寒いから」


 ファブリツィオは上掛けをマリアンジェラの肩に掛ける。ニコーラやリカルド達も他の馬車から出てきた。


 「妖精さんだ」


 『あら!アナタ、ワタシが見えているのね!?きれいでしょう!?』


 「ああ、とても綺麗だ」


 精霊さんがあちこちを飛び回っている。


 「テオ、見て?レーナ様が」


 マリアンジェラに言われ、レーナとニコーラの方を見る。レーナが草原を走り回り、ニコーラが必死に追い掛けている。

 レーナは義足にも慣れたらしく、途中でジャンプしたり宙返りを披露している。その度に光る花びらが舞っている。


 「とても元気ね」


 「ああ、ニコーラが大変そうだ」


 ファブリツィオとマリアンジェラは二人を見守る。


 「夜中には光らなくなってしまうけれど、こうして光っているのは、誰かに見つけてもらいたいからかしら」


 マリアンジェラがふとそんなことを口にする。ファブリツィオは考える。


 「たとえ光っていなくとも、この花の綺麗さに気付く人はいると思う。光っているから、よく見られるだけで、昼間のこの花を綺麗だと言う人もいるだろう」


 「それでも光るのは、たくさん見てもらえるようにしているのは、見つけて欲しいのかもしれないわ」


 「見る人が増えれば増えるほど、沢山の人と出会えて、昼間のこの花の綺麗さに気付く人も増えるということだろうか」


 「ええ。テオだって、私が刺繍をしていなかったら、私に気付いてくれたかしら?」


 ファブリツィオは降参した。


 「それでも、きっと街でマリアを見掛けても恋に落ちるよ」


 光る花びらが舞う中、二人はそっと口付けをした。



 「冷え込んできた。そろそろ宿に向かわないとな」


 ファブリツィオがマリアンジェラと馬車に戻る。


 「ファブリツィオ様、ニコーラ達にも声をかけて来ます」


 「いや、好きにさせておこう。護衛もいるし、リカルドには、まあ彼らに付き合ってもらおう」


 ファブリツィオ達は先に宿に向かうことにした。


 「テオ、良いのかしら?晩餐の時間もあるのに」


 マリアンジェラが心配そうに言うが、ファブリツィオにとって、実は都合が良かった。


 「この街は工芸品で有名だとリカルドから聞いていたんだ。ニコーラ達への結婚祝いを選ぼうと思っていたから、ちょうどいい」


 「旅の途中で見繕うって、そういうことだったのね」


 街に着いた二人は、工芸品を扱っている店をいくつか見る。


 「テオ、これが良いと思うわ。この花の柄は、さっきのお花でしょう?」


 マリアンジェラが選んだティーセットに、ファブリツィオが選んだこの土地のお茶をまとめて、ニコーラ達へのお祝いの品とすることにした。


 二人が宿に着くと、ちょうどニコーラ達も帰ってきたところだった。


 「ニコーラ、レーナ嬢。結婚おめでとう」


 いつ渡せば良いかと悩んだが、物の価値が分かる方が受け取る側もお返しを考えやすいとのチリーノの助言により、すぐに渡すことにした。


 「ありがとうございます。気を遣わせてしまい申し訳ありません」


 ニコーラが、嬉しそうな、少し申し訳なさそうな、だけど幸せを噛みしめているような顔をしている。


 レーナ嬢はさっそく受け取ったお祝いを開ける。早い。


 「おお!さっきの花の柄だ。ありがとう。一生忘れない良い想い出になる」


 寝る前のティータイムはこれにしようと、ニコーラと話している。気に入ってもらえたようだ。


 「そうだ。今日と明日はゆっくり過ごすが、その後はひたすら馬車を進めると聞いた。さっき、リカルドには渡したのだが、ファブリツィオ様とマリアにもこれを渡しておく」


 レーナは二人にペンダントのようなものを手渡す。


 「これは?」


 見たことのない柄の入ったペンダント。用途も分からずファブリツィオがペンダントとレーナを交互に見る。


 「私の魔力が込められたものだ。アレックス兄様が、私の刺繍と組紐を対の存在にしていただろう。あれの方法を聞いて、作ってみた」


 「はぐれたら、精霊に聞けば良いということか?」


 辺境でのレーナを探した方法を思い出すが、レーナは首を横に振る。


 「いや、私が一方的に持ち主の場所を把握できるようにしている。もちろん、精霊に聞けば分かるだろうが、一対一ではないから、一つを追いかけることは難しいだろう。もし、何かあった時は私がどうにかしてやると安心してくれたらいい。それだけだ」


 つまり、途中で馬車が賊に襲われるとか、そういう事態になれば、レーナが追い掛けて来てくれるということらしい。


 「レーナ様、ありがとうございます」


 マリアンジェラは、レーナからのプレゼントと言っていいのか、このペンダントをもらえたことに感動している。


 「ちなみにその柄は、王女時代の私の紋章だ。あまり知られてはいないが、同盟国の王族と、ハーシュトレイで王族に関わる仕事をしていた者くらいは知っているかもしれないな」


 ハーシュトレイ王国の成人は二十歳だ。国が崩れた時、十九歳だったレーナの紋章は公にされることがないままだった。


 「貴重なものをありがとう。大切にする」


 ファブリツィオはペンダントを握りしめた。



 「テオ、レーナ様の紋章、何がモチーフにされているか分かる?」


 賑やかに過ごした晩餐の後、マリアンジェラはペンダントを撫でながらファブリツィオに聞く。


 「いや、初めて見る柄だ」


 「私も初めてよ。大抵は成人する時に、何の柄なのかを説明されるのだけれど。レーナ様も何もおっしゃらなかったということは、聞かされていないのかもしれないわ」


 考えれば、一国の王女と共に隣国に旅をするなど考えてもみなかったことだ。


 「運命とは、誰も分からないものだね」


 マリアンジェラはこくんと頷く。二人はペンダントを大切に仕舞った。




 翌朝、マリアンジェラが窓の外を見ている。


 「おはよう、マリア。外に何があるんだ?」


 ファブリツィオが窓辺に近付く。


 「おはよう、テオ。見て、レーナ様が朝の鍛錬をしているの」


 窓の外は、宿屋の中庭だった。レーナが軽装で剣を振っている。よく見ると、ニコーラが丸く纏めた布や石をポイと投げ、それに剣を当てている。正面で受けたり、後ろを向いたまま受けたりと、様々な体勢から剣に当てている。


 「テオは、レーナ様と打ち合いをしたら勝てる?」


 マリアンジェラの問いに、ファブリツィオはしばし考える。


 「レーナ嬢の強さは精霊の加護によるものかとも思うが、こう見ると体の使い方や剣さばきも良い。精霊の加護がなければ互角かもな」


 レーナの戦い方は身体のしなりを利用している。しかし、義足によって体の使い方を変えていっているようだ。今の様子であれば互角かファブリツィオの方が最終的には体力で押せるかもしれない。

 義足になる以前であれば、レーナの方が確実に上だった事は、マリアンジェラにかっこつけたい気持ちから言わないことにした。


 今日は昼までこの街に留まる。これから先の食料品等を調達するためだ。ニコーラとリカルドが担当しているが、ニコーラがいるためレーナも一緒にするのだと言い出し、マリアンジェラもレーナがいるならと言い、結局ファブリツィオも付いて行くことになり、チリーノも。

 ということで、全員で買い出しをすることになった。


 「これは荷馬車の中で干しながら行けばいい。保存食になる」


 意外なことにレーナが活躍している。そしてエーリオも口を出している。マリアンジェラはこの土地の珍しいフルーツなどを見ている。


 「マリア、気になるものがあるか?少し増えるくらいは問題ないぞ」


 急なことで荷物が増えてもいいように、荷馬車にも余裕を持たせてある。


 「テオ、この果物はワインになるもので、あまり美味しくはなかったと思うんだけれど、今食べさせてもらったらとっても甘いの」


 マリアンジェラは試食した果物をファブリツィオに見せる。


 「ああ、これはぶどうか。食用の甘いものだ。ワインにするものとは種類が違う。道中に食べるのにちょうど良いだろうから、少し買っていこう」


 甘い物はリフレッシュにもなりますねと、チリーノも賛成し、それなりの量を買う。ファブリツィオはしばらく売り子にぶどうの栽培場所や気候を聞いていた。


 「マリア、何年か、もしかしたら十年程は掛かるかもしれないが、アグリアディ領でもこのぶどうは栽培できるかもしれない」


 ファブリツィオの言葉にマリアンジェラは喜ぶ。柔らかい果物は輸送中に痛むため、持って帰ることはできないと思っていたからだ。ファブリツィオの言葉を聞き、栽培場所やそれに掛かる費用や融資について、ニコーラとチリーノは各々の考えをメモしておく。帰ったら忙しくなりそうだ。


 昼食は街のレストランに入った。果物の季節らしく、ソースなどもフルーティーな味わいのものが多い。


 「ここの料理はフルーティーで、さっぱり食べられていいな。フルーツを使わなくとも、さっぱりとした味わいのソースができれば需要がありそうだ」


 またも、ファブリツィオの提案にニコーラとチリーノはメモをする。宿題が多いと思いながらも、ファブリツィオの提案はあまり外れがないので一つずつ試していくしかない。

 チリーノがレストランのシェフと話をしている間に、ニコーラがそういえばと言って話し始める。


 「オルガ国から、魔術師の護衛を付けてくれるとの連絡が宿にありました。王宮の紋章が入っていたので間違いはないと思いますが」


 宿に連絡という言葉にファブリツィオは顔をしかめる。旅のおおまかな日程は国を出る時に関所に出すため確認しようと思えばできるが、宿についてはどこから情報を得たのか分からない。宿側が国外からの予約ということで報告を出している可能性はあるが、そもそも知っていますよと言わんばかりの対応だ。

 ニコーラも同じ考えのようで、一行は警戒しながら宿に戻った。



 「はじめまして、ではない方もいますが、オルガ国の魔術師、エルシーといいます。この度はようこそオルガ国へ。国賓ということで弱っちい騎士なんかより魔術師に護衛が任された辺りはお察しください。ただの護衛ですから、飯や休憩の配慮は不要です。もちろん、自分の馬もいますので移動の手間もかかりませんから気にせずお過ごしくださいね」


 エルシーと名乗る女性の魔術師は一息にそう言ったと思ったら、その場を去ろうとする。


 「ちょっと自己紹介くらいは」


 慌ててチリーノが引き止めると、エルシーは渋々といった様子で立ち止まる。


 「自己紹介は必要ないですよ。魔術であなた方のことは見ていましたから。関所の書類も覗き見してプロフィールは分かりましたし、この宿が分かったのも魔術で見つけました。王宮からは結婚式前に宿泊する所から出会すまで地道に行けばいいとか言われたんですが、めんどくさいので見つけて転移しました。あー、もしかして監視されてる感あってだめでした?」


 エルシーは纏まりのない灰色の短髪をぐしぐしと掻く。よく見ると、赤い瞳をしている。ファブリツィオは、この人物をどこかで見たことがある気がしているが、思い出せずにいる。

 すると突然、レーナがぱんと手を叩いた。


 「ああー!辺境の砦にいた、治癒魔術師か!」


 ファブリツィオと、ニコーラも思い出した。リータ国辺境で治癒魔術を施していたうちの一人だ。珍しい赤い瞳だったので、何となくだが記憶の隅にいた。それで、はじめましてでない人がいると言っていたのだろう。


 「その節はどうも」


 エルシーは思い出したくないのか、思い出されたことに対して嫌そうにしているが、レーナは辺境を去る時には気を失っていたので、再会に喜んでいる様子だ。


 「エルシーの治癒魔術で何十人の命が救われたことか。挨拶も出来ず心残りだった。オルガ国の魔術師だったのか」


 エルシーはため息をつき、レーナの握手に応じる。レーナは手を激しく上下に振っている。


 「救えなかった者のことを忘れない日はないです」


 エルシーは、ポツリとそう言った。


 「それは仕方のないことだ。私達は、そういうものを背負って生きていくんだ」

 「そうするしかないですからね」


 辺境で戦った者達にしか分からない、心のことを、ファブリツィオ達は見守るしかなかった。


 エルシーは宣言通り、自分の馬に乗り付いてくるだけだ。食事も調達済みのようだが、レーナが強引にファブリツィオ達の輪の中へ入れる。

 話によると、エルシーはオルガ国から派遣された騎士と共に帰る予定だったが、雇い主と仲違いして解雇通告されたらしい。つい最近まで砦に置いてもらっていたらしく、ダニエレの近況を教えてくれた。


 「ダニエレ様は良い辺境伯になると思います。砦の皆から好かれていますし、足りない部分はオルガの王太子殿下と第二王子が人材派遣をしているから問題ありませんよ」


 エルシーは一応の忠誠心は持っているのか、世話になったという辺境伯やダニエレ、そして辺境で指揮を取ったレーナに対しては敬意を示すような態度を取ることもある。

 レーナは、エルシーの治癒魔術で彼女の横に出る者はいないくらいの、素晴らしい魔術師だったと言っている。しかし、魔術については魔術師以外、勉強する機会もないため、どのくらいのレベルなのかは謎である。ファブリツィオ達はオルガ国から国賓という扱いらしいが、その護衛を魔術師一人に任せられるということが何を示すのかも分からない。国賓という名目上、一人は護衛を付けておかなくてはならないという判断なのか、エルシーという魔術師の実力から判断されたものなのか。


 結婚式の開かれるオルガ国の王都まで、馬車は走り続ける。

 休憩と宿泊以外に寄るところがなく、ファブリツィオはマリアンジェラとの結婚式についての話をしたりと、普段はゆっくり話せないこともたくさん話した。旅とは、旅先だけでなく道中も楽しいのだと、ファブリツィオは初めて知った。

ありがとうございます!

次話はまた近いうちにアップできる予定です!


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