せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
「イヴ、考え直してくれないか。僕たちは、もう一度やり直せると思うんだ」
夫であるエリックに切り出されたイヴは、頬を赤く染め感極まったように目を潤ませた。
「まあ、本当ですか。私、その言葉を待ち望んでおりましたの」
社交界では冷血女とまで言われたイヴがまるで少女のようにドレスの裾を翻し、腕を大きく広げたエリックに向かって駆け出した。
***
その日イヴは、朝から柔らかな笑みをたたえていた。穏やかな彼女の表情に驚いたのは、使用人たちばかりではない。三年の間共に暮らしてきたはずの夫エリックが一番動揺していた。
日が昇る前、使用人よりも早く起き、しかめっ面で忙しなく屋敷内を動き回っているのが普段の彼女だ。エリックは、それが嫌でたまらなかった。朝早く起きられないのは、惰眠をむさぼる自堕落な人間だと責められているような気がしていたからだ。
寝不足だと目を擦りあくびを噛み殺すのなら、最初からもっと寝ておけばいい。空腹でいらいらするのならば、自分よりも先に食事を済ませておけばいい。ゆっくり椅子に座るひまもないとばかりに当て擦らずともよいではないか。繰り返し、「もっとゆっくりすればいい」と言い続けてきたはずなのに、いつも言い訳ばかりでエリックのアドバイスに従うことなどなかったイヴ。
それなのに今日はどうしたというのだろう。休みということで随分寝坊したエリックが朝食を取り始めてから、彼女は悠々と席に着いた。たっぷり睡眠をとることができたためか、丸みを帯びた頬が桜色に色づいている。
「一体どういう風の吹き回しだ?」
怪訝に思ったエリックがイヴに問えば、彼女はころころと笑うばかり。不思議なことに普段は古めかしい服を着ているイヴが、今日は若い娘らしい華やかな服を身につけている。それだけで、随分と雰囲気が和らいでみえた。
「まあ、怖いお顔。別に大したことじゃありませんわ。一年の終わりですもの。楽しく過ごそうと思っただけです。最後の一日を、喧嘩して終わるなんてもったいないではありませんか。せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう」
イヴの言葉に、エリックは片眉を上げた。そう、「最後の一日」なのだ。一年の終わりという意味だけではない。今日、離婚届を教会に提出することで、エリックとイヴは結婚生活を終わりにする予定だった。
***
二人は政略結婚である。名門と呼ばれる貴族の一門だが困窮して爵位返上も止むなしという状況にあったエリックの家と、急速に力をつけているが平民の商家であり成金呼ばわりされているイヴの家。それぞれが金と歴史を手に入れるために必要とされた婚姻だった。もちろんふたりの間に愛などない。
『本来、君は僕に釣り合うような身分ではないのだ。両親の言うことをよく聞き、この家にふさわしい人間としてよく仕えるように』
『承知いたしました』
エリックの知っているイヴは、実に鼻持ちならない女だった。今は落ちぶれかけているとはいえ、生まれた時から貴族として生きてきたエリック以上に、高位貴族のマナーや言葉遣いを身に付けていたイヴ。夫である自分に対しても、信じられないほど他人行儀に振る舞う姿に苛立ちを覚えたものだ。せめて些事に戸惑い、エリックに頼るそぶりでも見せれば可愛げがあったものを。
新妻を冷遇するエリックの態度により、屋敷内のイヴの立ち位置は最底辺のものとなった。もともと平民であるイヴとは異なり、屋敷内の使用人ですら、貴族に連なる人間ばかりである。平民に頭を下げることは、彼らの誇りが許さなかったのだ。
言葉遣いがわざとらしい。
笑顔が嘘臭い。
貴族の機微や慣習が理解できない。
イヴの一挙手一投足すべてをあげつらった。
とはいえエリックの家が再起を図ることができたのは、イヴの実家の援助があってこそ。そのため、いびつな関係とはいえ結婚生活は滞りなく続いていくと思われていた。エリックの父が亡くなるまでは。
父親の葬儀を取り仕切ったのは、嫁であるはずのイヴだった。葬儀の段取りから親戚の対応、父親に縁の深かった友人・知人のもてなしまで、イヴは一手に引き受けていた。だが、それすらもエリックは許せなかった。
普段は節約だの倹約だの細かいことをぐちぐちと言い募るくせに、イヴの実家の紹介だという葬儀屋にはたんまりと礼金を弾む。さらに父親の死に関して長年治療を担当した医師の責任を問おうと息巻くエリックに対して、医師を擁護する始末。やはり彼女は、血も涙もない商人の娘。他人の命であれば喜んで金に換算する女なのだとエリックは理解したのだ。
嘆き悲しむ母親を支え、自身も涙を流しながら耐え忍ぶエリックの隣で、さも当然のように場を取り仕切るイヴのことが憎らしくてたまらない。
『こんな時まで、普段と変わらない様子で仕事に励むとは。さすが成金商人の娘は違うな。君は大切な人間を亡くしたことがないから、悲しみに暮れる人間の気持ちがわからないのだろう』
『申し訳ありません』
イヴは唇を引き結び、自分は悪くないとでもいいたげな表情をして頭を下げたのだ。そこからふたりの仲は急速に悪くなっていき、三年の月日が過ぎていた。
この国では結婚して三年の間に子どもが生まれなければ、離婚が認められている。女にとってはひどい瑕疵になるが、これ以上エリックはイヴと夫婦を続けていくつもりはなかった。
『離婚しよう。異論はないな』
『はい』
『まったく。君は最後まで、本当に嫌味な女だった』
出戻り女ともなれば、今後はまともな生活は望めない。それなのに、どうして彼女はほがらかに笑っていられるのか。思わずエリックは、イヴに詰め寄った。
***
「そんなに離婚することが嬉しいか。君にはわからないだろうが、僕にとってこの結婚は耐え難いほど苦痛なものだった。それについて詫びるどころか、恥ずかしげもなく持参金を取り返して出て行くとは」
「……申し訳ありません。けれど、持参金を返していただけなければ、路頭に迷ってしまいますわ」
頬に手を当てて、困ったと言わんばかりにイヴはそっとうつむいた。その儚げな様子にエリックは戸惑いを覚える。いつものイヴであれば、法的に保証された妻の権利についてとうとうと語ったに違いない。あるいは証文やら証人やらをずらりと並べ立てて、正論で声高にエリックを締め上げただろう。
それが今回のように悲しげな淡い微笑みとともに穏やかに返答されれば、これ以上の嫌味を口から出すことははばかられた。そもそもエリックは、貴族の男子として貴婦人に礼を尽くすようにしっかりと教育を受けている。ひとりで立って歩けそうにない女性をいたぶる趣味などないのだ。
「……すまない。少し言葉が過ぎたようだ」
「いいえ、お気持ちはわかります。どうぞお気になさらず」
「そうか。それでは、これからどうするつもりか聞いてもいいだろうか。屋敷を出るのは夕方頃になると聞いたが」
「よろしければ、のんびりおしゃべりなどさせていただければ嬉しゅうございます」
「僕と、か?」
「ええ。結婚してから三年が経ちましたが、私たちはまともに会話をしたことがありませんでしょう?」
離婚に際して強引に話を進めてきた自覚のあるエリックは、イヴの提案にひどく驚いた。恨み言や自身の正当性をぶつけられるならまだしも、自分との対話を求められるとは想像もしていなかったのだ。
「だが、今さら何を話したいのだ」
「人生に今さらなんてありません。あの時ああ言えば良かった、こう言えば良かったなんて後悔するくらいなら、思いついたことは実行してしまおうと思いましたのよ」
「……そうか」
「ちなみに、今日の朝食で使った食品の仕入れは、私が嫁いで来る前のお店に戻しております。懐かしいお味になったのではありませんか」
「なるほど。確かに今日の料理は口にあうと思っていたところだ」
エリックとイヴがぶつかった数ある原因のひとつに、イヴが家に出入りする業者を変更したことがある。代々利用していた高位貴族御用達の店ではなく、平民用向けの業者を平気で出入りさせるイヴのことをエリックは軽蔑していた。しかし、彼女は自分の離婚と併せて業者を元に戻す常識は持っていたらしい。
節約だの倹約だの言い続けていた彼女だったが、もしかしたら彼女自身も成金の実家の被害者だったのかもしれない。ここで自分が離婚を選択することは、か弱い女性を見捨てることになるのではないのか。ふと湧いた疑念は、イヴと話を進めていく中でどんどん深まっていく。
***
その日の朝食で、エリックは信じられないほど饒舌になった。今までのイヴとのやりとりは実務上の確認が主で、エリックへの相談ではなく決定事項の伝達でしかなかった。そんなイヴに対してエリックも会話をするに値しない相手だと認識していたのだが、それは完全な誤りだったらしい。
「誰かにしかできない仕事というのはないんだよ。だから僕の場合は、委任状をいくつか用意していてね。たいていのことは、執事が代わりにできる体制を整えている」
「さすがです」
「先ごろうちとの契約を一方的に打ち切ったとある業者だが、どうも中枢にいたのが若い女性だそうで、一身上の都合で退職を決めたらしい。まったく責任感のないことだ」
「知りませんでしたわ。そのような話になっていたのですね」
「ひとの死を食い物にする葬儀というのは、おかしいだろう。大体、花や棺はそれほど高くないというのに、一体どれだけぼったくれば気が済むんだ」
「まあ、すごいですわ」
「誕生日に話題になった例の布地だが、贈り物としたところあまり喜ばれなくてな。一体どうすればよかったのか」
「誠実さは伝わっているはずですわ。あんなにセンスの良いものを贈られて嬉しくない方はいらっしゃらないでしょう」
「つまり僕が言いたかったのは、医師はもっと患者の容体について責任を取るべきだということだ。父上の病気についても、あの医師は自分の都合を優先していた。一日中泊まり込みの看病を続けていれば、もっと父上は長生きできただろう」
「そうですね、おっしゃる通りだと思います」
社交界でもここまで話が弾んだことはないと感じてしまうくらい、ふたりの会話は盛り上がった。話すことに熱中してしまって、せっかくの朝食がすっかり冷めてしまったほどである。
結局ふたりは、この日一日で三年分のおしゃべりをして過ごしたとも言える。エリックは火照った喉をワインで潤しながら、出ていく妻にかける言葉を探していた。
一年の終わりということもあり、使用人たちの中にも実家へ帰るものがちらほらと出てきている。
大切なひとへの贈り物を大量に抱えて歩く幸せそうな使用人を見かけるたびに、エリックの心にはさらなる迷いが生じてきた。本当に自分はイヴと離婚してもいいのだろうか。身分違いの家に嫁いできた彼女は、今まで随分と肩肘をはって生活をしてきたようだ。
今日垣間見えた彼女こそ、本来の彼女ではないのか。そう考えたエリックは、イヴに対して離婚届の提出を思い留まるように提案することを決めたのだった。
***
「イヴ、考え直してくれないか。僕たちは、もう一度やり直せると思うんだ」
夫であるエリックに切り出されたイヴは、頬を赤く染め感極まったように目を潤ませた。
「まあ、本当ですか。私、その言葉を待ち望んでおりましたの」
腕を大きく広げたエリックに向かって、駆け出すイヴ。彼女はエリックの隣を通り過ぎると、くるくると踊りながら玄関ホールまで駆け抜けた。
「イヴ、一体何を?」
「ありがとうございます。これで心置きなくこの家を出ていくことができますわ」
にこやかに微笑むイヴを前に、エリックは体を強張らせた。イヴは一体何を言っているんだ? 頭の中を疑問符だらけにしながら、イヴに質問を投げかける。
「なぜだ。今日一日ゆっくり過ごしてみて、僕たちはこんなにウマが合うとわかったところなのに?」
「本気でおっしゃっているの? 私は今日一日過ごしてみて、離婚して良かったと噛み締めましたわ。そもそも考え直すだなんて、離婚を言い出したのは閣下じゃありませんか」
イヴの言葉にエリックは首を捻る。妻は何を言っているのだろう?
「離婚して良かっただって? 離婚届を出しに行くのは今日だろう? まだ夫婦としてやり直せるはずだ」
「本当に何も覚えていらっしゃらないのね。まあ、それほどまでに私に興味がなかったのでしょう。離婚届を出しに行ったのは先日のことでしてよ。この年の瀬に離婚手続きなんてやってくれるわけないでしょう。ああ、あなたはあの方の元に行くのでお忙しかったから、一緒に書類の提出に行く代わりに委任状を利用したのですよね」
にこにこと告げられた台詞に、エリックは冷や汗が止まらない。彼女は一体何を言っている? どこまで知っているんだ?
「別に焦らなくても大丈夫ですよ。私、最初から知っておりましたもの。お義母さまから結婚前に言われておりましたし」
「母上から?」
「ええ、私に妻の役目は荷が重いだろうから、女性として夫を癒す役目はあの方に譲ってさしあげなさいと。私にはお金の援助と女主人として屋敷を取り仕切る役目しか期待していないとおっしゃっていましたよ」
予想外の人物の登場に、エリックは悲鳴を上げたくなった。妻以外の女性にうつつをぬかすことは、まれによくあることだが、その関係性を嫁どころか実母に知られているなんて話は聞いたことがない。あまつさえ母から、妻としての心得として結婚前から浮気を容認するように言い含められたなんて。他人の話として聞けば、エリックだって胸糞悪いクズ男だと嗤っただろう。
エリックは親密な関係の女性がいることをイヴに伝えようとは思っていなかった。もちろん、イヴに悪いと思っているわけではない。ただ正妻であるイヴがどのような行動に出るか予想できなかったからだ。万が一にでも相手を傷つけられたらたまらない。そう思って、口をつぐんでいたのだが……。
***
「君は、僕が別の女性とそういう関係であったとしても気にならないというのか?」
「そもそも新婚初夜以来私と寝所が別なのですから、他に女性がいると思うのが普通ですよ」
「……そんなに冷静だなんて。君は僕以外に誰か男がいるのではないか?」
「閣下ではあるまいし、不誠実なことなどいたしません」
やれやれと肩をすくめるイヴに、震える手で手を伸ばす。しかしその手がイヴの体に届くよりも先に、彼女は一歩後ろに下がった。
「だが、君が離婚届を出してから今日まで屋敷に留まっていたということは、僕に気持ちを残していたのでは?」
「貴族の妻となったものは、妊娠していないかの確認がとれなければ正式な離縁が認められないのです。疲れで月のものが乱れるひとも多いそうですから、無事に証が来てほっといたしましたわ。新年は身綺麗な状態で迎えたいですもの」
情報の洪水に立ち尽くすエリック。憎たらしいと思っていたはずの妻を大切に感じ始めたら、相手からは蛇蠍のごとく厭われていたとは。震える声で言葉を絞り出す。
「じゃあどうして、『最後の一日を、喧嘩して終わるなんてもったいない』なんて言ったんだ。『特別な一日を過ごしましょう』と言ったのは君だろう……」
「不用品として捨てられるのは我慢ならないですもの。どうですか、急に離婚するのが惜しくなったのではなくって?」
「何を言っているのか、僕には理解できない……」
「それならば別に構いません。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?」
「閣下だなんて、他人行儀な」
「だって、他人ですもの。もう二度とお目にかかることもないでしょうから、言いたいことを言えてすっきりいたしました」
これが最後だと、イヴは美しいお辞儀をする。
「それでは、どうぞ良いお年を」
立ち去る間際、エリックを振り返ったイヴの表情は出会ってから今までの中で一番美しく、艶やかなものだった。
***
ただの一度も愛されることのない結婚だった。
それでもイヴは、夫を愛そうと努力したのだ。たとえ政略結婚だとしても、お互いを尊重しあえる夫婦になれたら。絵本の王子さまのように美しい男に抱いた淡い想いは、あっさりと踏みにじられることになったのだが。
イヴをこきつかっていた義母は、新しい侍女を雇うたびにヒステリーを起こすことだろう。痒いところに手が届き、年中無休のタダ働きで世話をしてくれる人間などこの世にいないのだから。
エリックは、これからイヴが立て直したこの家の財政を食い潰すだろう。貴族としての矜持を捨てられず、勝手な理想ばかり語っていればひとは瞬く間に離れていくに違いない。
愛人へのお手当ては、やりくり上手のイヴがいなくなれば捻出できなくなるだろう。弱々しく見えて案外したたかな女性だったから、さっさとエリックに見切りをつけてより良い物件探しにいそしむと思われた。
確かにエリックは美しい。けれどふわふわと流されるだけの男だ。イヴと結婚した意味などすっかり忘れてしまったらしい。あるいは最初から理解していなかったのか。エリックが背負うべきものをイヴが肩代わりしていただけだというのに、可愛げのない、冷たい血の通っていない女と罵るなんて。
彼は平民を見下すが、彼らがいなければ生活は回らない。そして生きていくために、誰しも金が必要なのだ。
それがわからないエリックに、妻のすべてが憎たらしいと医療や葬儀にまでケチをつけられ、イヴもまたほとほと嫌になってしまった。イヴが抜ければ、この家はあっという間に瓦解するだろう。だが実家が必要としていた貴族との縁はもう十分に結べたはずだ。当主の代わりとして立ち回った甲斐があったというもの。
だから決めたのだ。夫とともに過ごす最後の一日くらいは、夫が望む理想の女を演じてやろうと。
夫の望む姿を演じることは容易かった。ただし、楽しいかどうかで聞かれたら話は別だ。一生、好きでもない男をおだてて生きていくなんてまっぴらごめんである。ここに来て初めてイヴは、夫の浮気相手の忍耐強さに感心したのだった。
エリックは自分のことしか考えていない。それは性悪と言う意味ではなく、子どもがそのまま大人になったようなものではあったが、会話すらまともにできず、相手に全肯定を求める姿勢にはさすがにうんざりしてしまった。
あれで会話が盛り上がったと思っているのだ、今後の社交は絶望的だろう。もちろんそれを理解しているからこそ、義母は嫁としてイヴを選んだのだろうが。だが、今日限りで屋敷を出ていくイヴにはもはや関係のないこと。学ぶ機会は今までどれだけだってあったのだから。
***
「あら、奥さま。こんな時間におひとりでお出かけですか? なんだかしばらく見ない間にお綺麗になって、もしかしておめでたかしら?」
「ありがとうございます。先日、離婚して独り身になりましたの。久しぶりに気楽になったおかげかしらね」
すれ違う人々ににこやかにあいさつを返せば、いつの間にかあちこちで噂になった。イヴは嫁入り先で虐げられていたのだと。あの美しく穏やかな笑顔を見れば、結婚していた頃と出戻りした今とどちらが幸せか一目瞭然ではないかと。おかげで婚家はずいぶんと評判を落としたあげくあっという間に没落することになってしまった。エリックたちはイヴの実家を訪ねたものの追い返され、その後の行方はようとして知れない。
年明け早々、イヴはたくさんの男性から釣書を送られることになる。今まで苦労した分しばらくは独身生活を楽しみたいと釣書を放置していたが、ずっと昔からイヴのことを思っていた高位貴族の男性に熱心に口説き落とされ、そう遠からぬうちに再婚することになることをイヴはまだ知らない。
そしてエリックたちがどうなったかなんて、その後の人生で気にする暇がないほど幸福な人生を送ることになるということもまだ知らないのだった。
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