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竜皇女と婚約者  作者: 凍雅
12/22

竜皇女と婚約者 12

(残酷描写があります)

「この奥には、もう一部屋、おんなじように女を囲ってる部屋がある。ただ、そっちにい

るのは人間だけど」

 身の振り方を決めた女は、あっさりと口を割り出す。

「人間?」

 眷属を産ませるのが目的ならば、眷属の女だけで十分なはずだが。しかも、なぜ、眷属よりも奥に?

 いや、これはもしかすると。

「世話係になってるのは、アタシみたいにクスリが効かない奴と、出産が終わっても比較的まともな女。何日か前までは、男は、狂った学者二人とたまに妓楼の使いやなんかが来る程度だったんだけどね」

「今は?」

「変な男が何人か来てる。人間じゃないらしい上に、ヤク中さ」

 顔を見合わせる。

「その男達の所に、案内していただけますかしら」

「そいつらのトコに連れてけ」

 空気の変わったヒスイとターコイズに一瞬驚きながらも、女は頷く。

「わかった。こっちだよ」

 歩き出そうとする女を見て、コハクがアルスに問いかける。

「此処はいかが致しましょうか」

 アルスは軽く目を伏せて周囲の気配を探ると、空中に文字を連ねていく。紙に暗号として魔力で文字を記した物はよく見るが、更に上級の魔法術らしい。

「コクヨウはもう特一と合流してる。私たちの魔力の痕跡を追えるし、ユーマもいるから迷わずに来れるでしょう。伝言だけ残せば、このままで問題ないわ」

 私にはわからないが、三人には伝言の内容がわかるのか、それぞれに頷いた。


「奴ら、こっちが無力な女だと思って、ムチャクチャしやがるんだよ」

 吐き捨てるように言う女に、コハクが問いかける。

「その、人外の男性は何人程いるのでしょうか」

「何か緑っぽい髪の男を頭にして……十二、三人くらいだね」

「……間違いないようですわね」

 ヒスイが呟く。

「青い髪で肌が浅黒い男はいるか?」

「ああ、いるよ」

「……やっぱり」

 あっさりと返ってきた問いの答えに、ターコイズが呻く。

「では、妾とターコイズはそちらへ参ろうと思います」

 ヒスイの言葉にターコイズが同意を示す。

 遺跡はこの先いくつかに分かれている。

「私の目的は、あくまでエセルとエデルの処分だ」

 道案内をさせるに効率を上げるためにもそう言うと、コハクもおずおずと口を開いた。

「私は、できれば子供の保護に当たりたいのですが」

 アルスは腕を組んで考えると、女に尋ねた。

「それぞれの道筋を教えてもらえないかしら」

「ああ、かまわないさ。途中までは同じ道だからね」

 歩き出した女に付いていく。

「この通路から分かれる道は三つ。一つは化け物の溜まり場。もう一つは、厨房や洗濯なんかの場所。その二つは行き止まり。残りが、人間の女達の部屋。その奥に、変な奴らが居座ってる。で、そこから奥は研究に使ってる部屋がある。かなり奥まで続いているよ。赤ん坊が生まれたら奥に連れて行かれるし、気違い学者達は表か奥からしか来ないからね、今いるんなら奥だろ」




「ここが、人間の女たちの部屋さ」

 部屋自体は先程の眷属達の部屋とさほど変わらない。

 違うのは、どうしても肉体的な強度で劣る為、少し上質の上掛けがあることと、焚かれているのが媚薬だけということ。

「……どう?」

 手近な一人の様子を見ていると、アルスが不安げに覗き込んできた。

「媚薬については、ここで使っているくらいなら、時間はかかるが取り除ける」

 しかし……。

「……せめて皆、子供が人間だとよろしいですね」

 コハクがぽつりと呟く。

「どういうことだ?」

 ターコイズの問いに、コハクは口を閉ざしたまま答えない。

「……母が人間でも、父が眷属ならば、確率は低いが、眷属の子が産まれることがある。そして、産まれる確率こそ低いが、母だけが眷属の場合と比較して、力の強い者が生まれることがある」

 コハクを見ると、女達へ同情や哀れみを持ちながら、それでいて何処か冷淡な瞳を向けていた。

「しかし、それ故に胎児の魔力は母体を破壊する。身体的にも、精神的にも。故に、元から受胎率が低い上に、出産まで生育できる確率が更に低い。それでも産まれた大半は、母の命と引き替えになるそうだ」

 セトン研究録にあった内容なので、読んだと言っていたコハクも知っているはずだ。この文面の続きも。

 女たちを見るその視線の冷たさに、この事件に関わってからの、確かに、眷属ならばあまり語りたくはない事ばかりだが、僅かに何か言いかけては口を噤む、コハクの態度の奇妙な違和感の正体が見えた気がした。

 そして、その希有な能力の根拠も。


「……ちょっと、感知できないわね。一人一人視たら、誰かわかるんだけど」

 不意に、今まで黙っていたアルスが言った。

 『誰かわかる』つまり、確実に一人は眷属を身籠もっているということか。

「先に、奥を片づけた方がよさそうよ。身構えてるのになかなか来ないから焦れてるみたいだし」

「さようでございますわね。ターコイズ」

「おぅ」

 アルスの言葉に、先に部屋の奥の扉に進んでいた二人が答える。

「ちょ、ちょっとアンタ達!?」

 戦闘体制に入った面々の気迫の差に驚く女を、アルスは入り口へと追いやった。

「案内ご苦労様。危ないからもういいわよ」

「もう少し行くさ。あの気違い学者どもには、モノ申したいことが山ほどあるんだ!」

「この先は、戦場なの。相手が人間じゃないことを知っているなら、そこに無力な人間がいても足手まといにしかならないことはわかるでしょう?」

 厳しい口調で言って、女を部屋の外へと追い出す。

「さっきの部屋に、特務部が来ているはずだから、合流して協力してくれると嬉しいわ」

 扉の前から一歩も退かないアルスに、これ以上は無理だと悟ったのだろう。

「じゃ、あの腐れどもに、伝えといてくれるかい?」

「ええ」

 女は、半分泣いた様な、薄く笑った顔で言った。

「拾って貰った事には、感謝してる。生き延びさせてくれたことには、恩を感じてる。でも」

 きっ、と目が怒りに歪む。

「アンタたちに育てられたことは、されてきたことは、一生、死ぬまで恨んでやる! 忘れてなんかやるものか!」

 決して大声ではないが、重さのある声でそう言うと、力を抜いて、ふ、と笑った。

「以上、腐れた義父どもへ、裏切った養い子からの伝言、頼んだよ」

 なんだと?

「……あの二人の養い子だったのか?」

「ああ。まだ、リュドラスにいた頃に拾われた。詳しくは無いけど、この五年間、いやそれよりも前から、ヤツらがやってきたことは知ってるよ。特務部に全部話す。アタシのことは……好きに処分すればいいさ」

 アルスが、女の服に何か魔力で伝言を書いているらしいので、もう少し時間を稼ごうとして、ふと思い至る。

「名は?」

「……いまさら聞くかい。シルバ。名なしだよ」

 伝言を書き終わったらしい。もういいと、視線で促される。

「じゃ、よろしく」

 立ち去る後ろ姿を見送って、扉を閉め、戻って来ても開けられない様に軽く魔法で鍵を掛けた。




 アルスは扉の前に立つヒスイ達に振り向く。

 二人が頷き、ターコイズが扉を押し開くと、四人の男が襲いかかってきた。

 が、その拳を振り上げた姿勢のまま、魔法術を用意した状態のまま、何故か固まる。

 魔薬の為か、目の焦点は合わず、口もだらしがなく開いているがそれでも。本能的な部分が察するのだろう。主である竜を前にしていることを。

 緊迫した空気の中、衣擦れの微かな音だけが響く。

 ヒスイが自ら男達の中に進み出た。

 そして、敢えて、なのだろう。四人の攻撃すべての射程に入る場所で立ち止まった。

「竜帝アルスティア陛下、この者達に裁きを」

「制裁は各部族に委ねた。この者達も同様。同族については、代行者として制裁を下す事を認める」

「御意」

 ヒスイの両腕が宙を凪ぐ。

 赤い霧が扉の向こうに満ちた。

 

 いくら意識が朦朧としているとはいえ、妊婦に見せてよいものでは無いだろう。

 先に進んで早く扉を閉める。

 止めて来ないので、唯一人間である私でも危険は少ないと判断していいのだろう。

 ……私が只の人間であることを、忘れられている可能性もあるが。

 私が扉にたどり着く頃には赤い霧は収まっていたが、戸口の両側には、四人の半獣半人の男が、それぞれに傷を負って倒れていた。

「戦闘能力は奪ってありますが、息は残してございます。危険はないと思いますが、ご注意くださいませ」

 通路と呼んだ方が良さそうな部屋は、奥に扉がある以外何もない。

「……構えては、ないな」

 奥の扉を睨んで、ターコイズが呟く。

「人間がいるようですが、いかが致しましょうか」

「危険なら、私とコハクで保護しましょう。他はヒスイとターコイズに任せるわ。クラウスは巻き込まれないようにしてて」

「わかった」

 確かに、この場では私は足手まといでしかない。頷く。

 それを確認し、アルスが命じる。

「開けなさい」

 そして、扉が開かれた。

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