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滅ぼしシリーズ

英雄召喚で滅ぼされた話

作者: 七地潮


女王の護衛視点で進みます

「英雄を召喚しましょうと思います」


女王のお言葉に、室内がざわつきました。


「成功するかも分からないものにかけるより、英雄の系譜の者にやらせれば良いではないですか」

大臣の一人の言葉に、女王の表情が曇ります。


「彼女はまだ幼く、剣を扱う事を恐れています」

「幼くとも鍛えれば良いのでは?

国の事情に他の世界の者を炊き込むのはどうなのでしょう」

食い下がる大臣に、女王は首を振ります。


「直接指導する者もなく、過去の書物だけを頼りに、国の未来を幼なき少女に背負わすのは…」

「しかし、召喚の秘術も過去の書物頼りです。

秘術は女王に負担が掛かりますし、失敗すれば命に関わると聞いています。

それより少女を鍛える方が…」

「彼女は私の娘達…第三王女より幼いのですよ。

そんな子供に無理矢理剣を持たせるなんて……。

それに我らに時間があると思いますか?」

「うぬ………」


女王の言葉に食い下がっていた大臣も口を閉じました。

確か大臣の孫は第三王女と同じ年頃だったと記憶します。

孫と同じ年の少女に、国の未来を背負わせるのは酷な事だと、女王の方針を受け入れたのでしょう。




我が国は歴史の浅い国です。

二百年ほど前、我々の先祖は大きな大陸の小さな国の者だったそうです。

他国に攻め入られ敗れた我々の先祖は、国を追われ、追手を逃れ海を渡りました。

その逃亡の途中で嵐に会い、命からがらたどり着いたのが、今暮らしているこの島です。


たどり着いたこの島は、雲に覆われ瘴気が吹き溜まっており、とても人の暮らせる島ではありませんでした。


嵐で船は壊れ、これ以上航海を渡る事が出来なかった王は、自分だけならともかく、ここまでついて来てくれた国民だけでも助けてくれと、神に祈りました。

その祈りが届いたのか、王の夢に神が現れ、異世界から英雄を召喚する秘術を与えられたそうです。


その術で召喚されたのは、黒髪黒眼の、見た事のない剣を携えた、小柄な若い男性です。


その男性は【レイトウ アマサキ】と呼ばれる剣で雲を割き、瘴気を吹き飛ばし、この島を人の住める場所にしたそうです。


英雄となったその男性は、30歳と言う若さで孫までいたと伝えられていますけど、どんな世界からやって来たのでしょうね。

しかも、あんな細い剣で雷や岩、ドラゴンまでも斬る【タツジン】と呼ばれる方々も居た世界とは、恐ろしいですね。


そんな英雄の子孫の方々で【レイトウ】が使えるのは、英雄と同じ、黒髪黒眼の方だけで、何故か他の色を持つ方は、剣を抜く事もできません。

10〜20年置きに生まれてくる黒髪黒眼の方が、英雄と同じ様に雲を割き、瘴気を祓う事で、この瘴気の溜まりやすい島で生活を送る事が出来ているのです。


しかしながら、血が薄まったのか、黒髪黒眼の子供が産まれて来る事が少なくなり、40年ぶりに生まれたのは女児でした。

今現在瘴気はかなり溜まっています。

農作物も年々収穫が減り、森の獣は凶暴化し、川の生き物もどんどん姿を消しています。


黒髪黒眼の少女は今年12歳、前回瘴気を払ってから52年…そう、かなり限界なのです。


今までは、瘴気を祓った方が、次代の黒髪黒眼の方に指導していたのに、今回は引き継ぎもないまま、過去の書物だけで瘴気を祓わなければならないのです。


12歳の少女が。


大臣の言う事もわかりますけど、女王の言う通り時間がないのです。

失敗すれば女王の命に関わると聞いていますけど、一介の護衛である私に口を出す事は許されておりません。

成功を祈るだけです。



最終的に召喚の秘術を使う事が決定され、会議は終了しました。





「なんじゃここは!」


眩い光が消えた召喚の魔法陣の真ん中に、一人の御老人の姿が有ります。


「失礼ですが、  様でいらっしゃいますか?」

「ああ、如何にもワシは  だが、お前は誰だ?」

「私はこの国を治めている者です。

貴方様は【ドウジョウ】と言う施設をされている家系の方でしょうか?」

「そうだが何故知っておる?

それに治めておるとは、どう言う事だ?

天皇陛下に不敬であろう!

大体何故外人が日本語を喋っておる、それにここは一体どこじゃ?

ワシは今からスロットに行くとこじゃったのに、誘拐か?

警察に通報するぞ!」


大声で怒鳴りながら薄い板を突いている老人に、思わず剣を抜きそうになりました。

……いや、抜きませんが。


「なんじゃ、スマホが使えんぞ!

何が目的だ、この誘拐犯め!」


室内に居る大臣方も表情が険しいです。

口を開こうとした方を手で制し、女王が頭を下げます。


「突然連れて来てしまい、失礼致しました。

説明をしますので、まずは場所を移しましょう」

「ふむ、よく見れば姉ちゃん別嬪さんだな、まあ話くらいは聞いてやろう」

「恐れ入ります」


………私だけでなく、他の護衛や警備の者も手が剣に行くのを抑えている様です。




別室で女王が、御老人がこの国の英雄の子孫である事、この国の現状、【レイトウ】を使い、瘴気を祓って欲しいと言う願いを伝えました。


室内に居るのは女王と大臣、我ら護衛と警備兵、それと英雄家系の黒髪黒眼の少女です。

同じ先祖を持つ者として、女王がこの場に招いているのですけど……招かない方が良かったのでは?


女王が説明をしている間、御老人はお酒を所望し、ソファーに踏ん反り……リラックスして腰掛け、お酒を召しています。


「雲を斬る、ね………。

あー、いきなりこんなとこに連れてこられて長話を聞かされたから、腹が減ったな」

「只今晩餐の準備をしております。

間もなく準備が整いますので、しばらくお待ちください」

「肩も凝ったし、汗でも流したいな」

「それでは晩餐の前に湯を使われますか?」

「いやー、最近体が硬くなっての、背中を洗うのに一苦労なんだがなぁ」

「女官に背中を流させましょう」

「かっかっかっ!

良いなここは!

何かといえばやれセクハラだ、パワハラだなど、ハラハラ言う奴等がおらんとは、晴れ晴れするのお」


御老人は愉快に笑いながら浴場へ向かいました。

室内には重い空気が漂っています。


「………女王、召喚は成功したのでしょうか?」

「………………【ドウジョウ】と言う施設で働いている  様が何人も居ないでしょう」

きっと、多分、と言う小さな呟きは、背後に控えている私の耳には届きました。


重い空気の中、バタバタと廊下を走る足音が近付いて来たのに気付き、入り口に移動します。

いつでも剣を抜けるように手をかけ、入り口で待ち構えていると、扉を開けて入って来たのは御老人に付けた女官でした。


「どうした?何かあったのか?」

大臣の一人が声をかけましたら、女官は顔を覆って泣き出しました。




「なんじゃい、服の上から乳を揉んだくらいで大袈裟な。

減るもんでもあるまいし」


風呂から上がった御老人は、フォーク一本で食事をしています。

食べ物を刺して口に運び、歯で噛み切る……平民でもこんなマナーのない事はしませんよ………。


「逆に増えるってもんだろ」

ひひひひひと下品に笑いながら、酒を飲み、食事をしています。

同じテーブルに着いている方々の食欲がなくなる気持ちはよくわかります。


「それで……瘴気はいつ祓っていただけるのでしょうか?」


カトラリーをテーブルに戻し、女王が問いかけます。


「あー、そうさなぁ……まあ今日は酒も入ってるし、こんな世界に呼び出されたから疲れておるからのぉ。

今日は無理じゃろ」


酒が入ってるって、ご自分で望んだのでは?

そう心の中で突っ込んだのは私だけでは無いと思います。


「まあ、今日のところはゆっくりさせて貰おうか。

……で、勿論夜中の【接待】もして貰えるんだろうなあ」


なんという………。

室内の空気が固まります。


「…………そうですね、ひとまず瘴気祓いをいつやっていただけるか、予定だけでも教えていただけませんか?」

色々と準備もありますので、と言う女王の表情は有りません。


「瘴気祓いのぉ………そんなもん出来るわけなかろう」


「「「「「はぁ〜⁈」」」」」


「大体雲を斬るとか御伽噺かい。

そんなもん出来る奴がおったら会ってみたいわ。

いい大人が雁首揃えて『瘴気を祓え』とか『雲を斬ろ』とか、漫画かなんかかい。

そんな茶番に付き合わされるのも飽きて来た、明日になったら家に戻せよ」


はー、食った食ったと席を立つ御老……ジジイ。

ジジイは壁際に控えていたメイドの腕を取り、

「姉ちゃんが一番乳デカいな、姉ちゃんに決めたわい」

と、部屋から連れ出そうとしています。


「……………………………」

「(コクリ)」


私の視線に女王が頷きます。

そのまま視線を入り口に立っている二人の警備に向け、三人でジジイを取り囲み……………………。




「女王様、私瘴気を祓います!

剣を持つのは怖いけど……でも、私がこの国を救います!

資料を読むのはお兄様が手伝って下さいますし、お父様に体を鍛えて貰います!

だから……一年、一年だけ待ってもらえませんか?」

「幼いそなたに任せなければならないのは心苦しいのですが、お願いできますか?」

女王の言葉に体の横で両手を握り締め、黒髪黒眼の少女は力強く頷きました。


「はい!!」


あの場に同席した事により、少女は覚悟を決めました。

現状かなりギリギリなのですけど、女王を中心に国を守る為、力を合わせて持ち堪えようと言う意思は、あの場にいた全ての者の中にあります。

女王、大臣、護衛、警備兵、従僕、女官、そして少女も。


幼い少女が一年で瘴気を祓える様になるかは分かりません。

それでも決意した少女は、いつか必ずやり遂げる事でしょう。

少女の努力に報いるためにも、大人である我々が、時間を稼ぐことをしましょう。

国の為、国民の為、それは即ち自分の為でもあるのですから。


きっとこの国はこれからも続いていく事でしょう。






え?ジジイはどうしたかって?

そんなもの言わなくてもわかるでしょう。




【冷凍 甘裂き】と言う裂きイカとかではなく【霊刀 天割き】です。

剣ではなく刀です。


いや…もうね、老害に迷惑掛けられているのは私だけではないはず。

未だに昭和引きずってんじゃねえよ!って言うのは他にもいるはず。

そう言う思いで書きました。



このシリーズのテーマ(そこまで重くないけど)は、

【安易に異世界から誘拐して使い捨てようとせず、自分たちの世界のことは自分達でしろよ】

ですかねぇ。

作者が荒んでて色々滅したい、が本音かもしれないですけど(*≧∀≦*)


(顔文字が合ってない!と言うセルフツッコミで終わります)

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