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水深ゼロメートル ~圧倒的不運な少年による史上最大の下剋上物語~   作者: 向来すだち
A 人は、運命を避けようとしてとった道で、しばしば運命にであう。
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A-06話 帰還

 *** 神の間  ***


 


「おかえり。鶴喰君……」


 


 真っ白な机に頬杖を付きながら椅子に怠惰に座る神の視線が、あの神の視線が、鶴喰の目に入った。


 相変わらず神の声は、元が少年の声のようだというのに、一度(ひとたび)低く発声されれば、その目に劣らず威を感じる。


 鶴喰は転移(テレポート)により"神の間"に飛ばされていた。


 


「第一選抜は俺の勝利だったな。『地球人なんて絶対勝てない』なんて言ったのはどこの誰だったのか……」


 


 皮肉が込められた鶴喰の言葉を、神はあざとく聞き流した。先ほどとは打って変わって少年らしい可愛げのある声が響く。


 


「つれないなぁ、君も。結果オーライじゃないか。でも、確かに興味深い戦いだった……


 どうだい?お茶なら出すから一つ座りなよ」


 


 神が指を動かすと、連動して白い床から新たな椅子と机、そして日本風の陶器に入った緑茶が現れた。ただただ真っ白なこの空間に、真緑の飲み物が置かれているのは、どこか違和感を感じさせる。


 


「冗談言うんじゃねぇ。俺がこの第一選抜で最も反省すべきだと思ったのは、てめぇの言葉を全部鵜呑みにし、暗唱できるぐらいまで思い出して頭の容量(メモリ)を無駄に使ったことだ。次の第二選抜が始まるまでは俺は体を休ませる予定だ」


「本当に?言っておくけど、第二選抜が始まるまで、最低でも六日はかかるよ?その間暇でしょ」


「六日?」


「うん。なんせ第一選抜のフィールドはサシで戦うには広かったでしょう?相手によっては、餓死する寸前まで、逃げては戦い……を繰り返すこともあるのさ。だから、どんなに早く選抜が終わっても、六日はかかるってわけ」


 


 その神の話を聞いた鶴喰は目を見開いてこう口を開いた。


 


「ほう?異世界の生物でも餓死するのか。魔法で食べ物も創り出せそうだが……それもできないと。そういえばエルフも魔法は万能じゃねぇって言ってたな。


 だが……あのエルフは水を生み出していた。地球に住む人間が食料なし、水だけで生活できるのは一週間と言われている。となると、異世界に住む生物といっても、極端に体の構造が違う、というわけではないのか?いいことを聞いた」


「それなら、僕ともっと語り合おうじゃないか。ひょっとするともっといい情報が聞き出せるかもよ?」


 


 神の挑発的な目が鶴喰に向いている。


 鶴喰はその目をじっと、息が詰まるほどに、一寸の動きも見逃さないように凝視し、そして、息をふっと吐くと、神が創り出した真っ白な椅子に腰を下ろしてから、声をあげた。


 


「それで?何が聞きたいってんだ?」


「話をする気になってくれたんだね」


「五日もあるなら、今お前が乗り気な間に話したほうが、良い情報を教えてくれるかもしれねぇからな。今ここで話すことにメリットがあると感じただけだ」


「そっか。……じゃあ先ほどの興味深い戦いの作戦でも聞こうかなと思うのだけれど」


「……作戦か。俺の計画はこうだった。


 まず、俺が持っている武器(カード)は三つあった。


 一つ目は、異能(ヴァルナ)


 二つ目は、情報。


 三つ目は、"超幸運"の可能性」


 


「超幸運?あぁ、君が危惧していた運の話か。今までの不運を補う、確定した幸運といった認識であってるかな?」


 


「そうだ。さすがに神は話が早いな。


 素直にやられるつもりはもちろんなかったが、この中でこの『"超幸運"の可能性』があるかないかで、戦法も、勝敗も、180度変化することは明白だった。


 そこで、俺は一つ目と二つ目のカードで『"超幸運(三つ目)"の可能性(カード)』の存在を確認することを最優先にし、こう考えた。


 


 エルフを最初に見つけたとき、


 相手は地球人じゃなかったが、彼の右足はどう見ても違和感があった。


 どんな異世界に住む生物だろうが、右足だけ細いってのは、進化上有り得ないだろう。


 俺は死んだ時、確かに痛みを感じた。


 トラックにぶつかったんだから当然体はグチャグチャなはずだ。


 けど、俺が(てめぇ)と会った時は体はすでに回復されてた……


 なら当然、()()()()()()()()()()()()が回復されててもおかしくねぇ。


 だがな、長年植物状態だった患者が目が覚めてもリハビリが必要なように、子供のころに失なった右足が戻ってきても、その足は異物に等しい。自由自在に動かせるはずがない。


 もちろん、魔法が強すぎて足が退化しただけの可能性も十分あるし、確実にそうだ、とは言えねぇが……


 その場合、おそらく俺じゃ太刀打ちできねぇだろうからな。


 賭けるしかなかったわけだ。


 


 そして、あの足じゃ必ず魔法中心の戦い方になる。まず接近戦はしねぇだろ。


 となると、魔法をよく知らねぇ俺には分が悪い。


 だが、室内!


 室内ならっ、自身を巻き込むような大規模な魔法が使えない……!


 俺の異能(ヴァルナ)の相性を考えても、俺の方が確実に有利!


 


 ……思っていた。


 


 俺に約束された"超幸運"があれば相手は同じ地球人だと。


 


 だが、考えてみろよ。


 


 俺が一番強くなれるのは同じ地球人相手か?


 


 ちげぇだろ?


 


 この戦いで魔術師(格上)をぶっ倒す!


 


 魔法を知れ。


 魔法に慣れろ。


 魔法を見極めろ。


 魔法を盗め。


 


 それができる環境が、本当の幸運だ。


 この第一選抜の運は、俺に味方している…!


 そう思った。


 


 だが、それでも保険はかけたかった。


 いくら運がよかろうが、あまりにも魔法と生身()との実力差があれば、“せいぜい楽に死ねる“ぐらいで幸運が終わっちまうかもしれねぇ。


 


 だから、俺は再び賭けに出た。


 それは、言語が通じるか、否か。


 先手を失うという賭け金を使って、それを確認した。


 


 この選抜が第一選抜というなら、確実に第二、第三……と続いていくはず。


 じゃあ、その中にチーム戦が入っていたら……?


 相手の言語も分からねぇのにチームも連携もねぇ。


 神々(てめぇら)が、他言語を分かるようにしてくれている可能性もねぇわけじゃねぇ。


 そう考える理由は、その方が、おもしろいから。


 (てめぇ)が試合直前に喋った内容は、『我々を楽しませてくれるような試合、期待してるよ――』だ。


 どこからか神々(てめぇら)が俺たちを観戦しているなら、おもしろくなるよう調整が入っても、おかしくはねぇ。


 魔法を解るのに、言語が通じれば相手から情報を引き出せる。


 かなり厳しめの線引きだが、だからこそこれで言語が通じたら"超幸運"は存在すると断言できるようなもの」


 


 鶴喰の話に食い入るように耳を傾けていた神が、口を開いた。


 


「なるほどね……確かにその通りだ。第三選抜は五人一組のチーム戦を予定しているんだよね。


 言語が通じる理由も、君が言った通りだ。


 生き返させるのは、手続き上、難しいからあんまり多くできないけど、逆に、死んだ魂の世界の中では神々(ぼくたち)が好き勝手できるのさ。いいでしょう?


 実は君たちに最初に与えた異能(ヴァルナ)は二つあって、一つが各々ランダムに渡されるものなんだけど、もう一つが、『異なる言語を用いる他者と会話すると、その言語を習得できる』っていうやつなんだよね。


 ……ところで、鶴喰君、(きみ)、この空間を『指定』しようとしたでしょ」


 


 机に置いていた鶴喰の手が、とても熱いものを触った時みたいにびくりと動いた。彼は、神の"少年らしい"声の中に潜む悪辣さを確かに感じ取っていた。


 


「……」


 


 沈黙し、再び神を凝視する鶴喰に対し、神はそれとなく指を動かし、さながらゲームのウィンドウのようなものを目の前に表示した。


 そこには、


異能(ヴァルナ)名:編集者(エディター)


 概要:指定した物質を自由に動かせる力』


 と、日本語で書かれてあった。


 そしてその下に、楔形文字のような知らない言語が書かれている。だが、その文の意味は理解ができた。日本語で書かれていることと意味は全く同じであると、脳が解っている。


 これがおそらく先ほど神が言った異能(ヴァルナ)の効果だというのだろうか。


 頭が熱くなって思考を始めたとき、神が鶴喰にこう告げた。


 


「どうやら君がいう"超幸運"は実在すると見て良いようだね。この異能(ヴァルナ)、条件が揃えば魔法に劣らずだ。でもさ、ここは"神の間"だよ。異能(ヴァルナ)程度で覆せるような空間じゃ、ないんだよ」


 


『ないんだよ』


 最後のこの部分。


 この部分にだけ、神は嵐のような低音で言った。


 そして、台風が去った後の快晴みたいな陽気さでこう続けた。


 


「それでさ、鶴喰君はこの能力についてどこまで分かってるの?」


 


 鶴喰は机から手を離し、顎を触って言った。


 


「……妙なとこで怒るもんだな?まぁ良い。俺が実験し得た結果は、




 ・手を『指定』したい対象に触れ、心もしくは口で『指定』と唱えることで『指定』できる。


 ・生物や空気に対しては『指定』ができない。


 ・液体、電気などの完全に不定形なものは『指定』できるが、土などの集合体をまとめて『指定』することはできない。(砂を『指定』しようとすると、一つの小さな砂粒が『指定』される対象になるため)


 ・『指定』した対象をストックできるのは三つまで。四つ目以降は古いものに上書きされる形で『指定』される。


 ・対象を動かすには明確な想像力イメージが必要で、体積の大きいものほどより大きな集中力を必要とする。


 


 といったところだ。


 まぁ簡単な話、使用に重要なのは最初と最後に言ったやつだけで、コンクリートを剣の形に変形したいなら、手をコンクリートに触れ、心の中で『指定』と唱える。そしてコンクリートが剣となる様子を思い描く。そうすりゃいいだけだ」


「なるほどね~。都市なんかだと戦いやすそうだけど、森みたいなところだととても戦いにくそうだね」


「あぁ。都市ならコンクリートやアスファルトなんかがどこにでもあるから『指定』できる対象物も多いが……自然の中だとせいぜい川の水ぐらいしかねぇからな。だが、この第一選抜で得た『錬金術師(アルケミスト)』があれば話は別だ」


「……『錬金術師(アルケミスト)』。能力は、血液から金属を生み出せる、か」


「あぁ。それがあれば血液から生み出した金属を『指定』して操れるからな。いつどんなタイミングで敵に遭遇しても、強力な武器を持てる」


 


 そう言って鶴喰は笑みを浮かべた。神はそんな鶴喰をちらりと見ると、再び元の話へと話題を戻した。


 


「……少し話がそれてしまったね。僕が聞きたいのは、第一選抜での試合のことだった」


「後は簡単だった。


 


 事前に最上階以外の床を俺の異能(ヴァルナ)編集者(エディター)』でくり抜き、


 相手の言語が通じなかったら、床のコンクリートを『指定』し、即相手の足場を落として対処する。


 相手の言語が通じたら、言葉で俺の異能(ヴァルナ)を『会話した相手の思考を読む』と思わせることにした。


 


 相手の攻撃は、予想通り容易に避けられた。


 “超幸運“のおかげだな。


 自分が右に避ければ敵の攻撃は左にそれる。


 自分が死なないよう、攻撃の軌道が“奇跡的“にずれ続けるわけだ。


 電気の魔法が俺を追尾してきたときは少々驚いたが、小回りが苦手だというのはすぐに分かった。一度コツをつかんでしまえば、むしろ他の魔法より避けやすいぐらいだった。


 それに、生前は、不運で何をしても報われなかった、が、そのために周りに少しでも遅れないように運動をしていたのが、意外なところで役に立ったな。


 


 そして、ある程度魔法を見学した後に、エルフの自爆を誘って床を落とした。


 俺の異能(ヴァルナ)が『会話した相手の思考を読む』と“運良く“勘違いしてくれたところで、本当の俺の異能(ヴァルナ)でケリをつけた。


『会話した相手の思考を読む』のが俺の異能(ヴァルナ)だと思わせたのは、相手の魔法をある程度縛れると考えたからだ。


 自爆覚悟で大規模魔法なんか使われたらひとたまりもねぇからな。相手に考えがばれてたら自爆しようにもそのことを知られて事前に相手は逃げるだろ?だから無茶は承知で『会話した相手の思考を読める』と思わせて、そもそも自爆させないようにしたわけだ。


 


 敵のカードは、


 異能(ヴァルナ)


 情報、


 そして魔法、


 の三つだ。


 相手との会話で俺のペースに持ち込むことで、相手に誤情報を与え、『情報』というカードを一つ無効化させた。


 そして一番の脅威である魔法も、敵に思考を読まれていたら下手に使えないってもんだ。そうして相手が攻撃してきた瞬間にカウンターをぶち込むことで、攻撃も上手くいった。


 俺の異能(ヴァルナ)、『編集者(エディター)』で最初から戦うとすれば、コンクリートを『指定』して、それを動かして相手を固める、もしくは押し潰す、とかになる。剣を創るのもありだが、どちらにせよ一度パターンがばれると対策される可能性が高い。一番不安要素が強かったが、相手の魔法をうまいこと使うことに成功した。


 


 俺は『指定』を相手の魔法に使ったんだよ。その魔法は、電気でできた、追尾式のあの魔法だ。


 俺が上にジャンプし、あの魔法が俺を追っかけてきた時にそれを『指定』して、一度その電気を拡散させ、相手の視界を奪った。そしてそのまま床を落とすのに使ったってわけだ。同様に、巨大な電気の剣の正体もこれだ。電気を『指定』した状態だった俺は、エレベーターに繋がっていたケーブルからも電気を『指定』し、エルフとの会話中に集めていた。それを剣の形にした。


 敵が電気を纏って近接戦闘をしに来た時も、相手の電気を異能ヴァルナで奪い、コンクリートの壁を鎧のように纏って攻撃を阻止した。


 


 ただ、『会話した相手の思考を読む』ことができると思わせても、これは嘘がすぐばれる可能性も高い。気づかないなら気づかないで良い、ぐらいで演技し、都合よく勘違いしてくれたらもうけもんと思っていたが、まさかここまで上手く引っかかってくれるとは思っていなかった。


 だが、勝ちは勝ちだ。


 運も実力のうちだ。


 俺はこのまま選抜を勝ち残りに行くぜ?」


 


 この選抜を生き残る唯一にして最大の鍵を知っている。


 そう言わんばかりの顔が鶴喰にはあった。


 どんな難しい公式でさえも、バケツをひっくり返すぐらい簡単に証明してしまいそうな勢いだった。


 そんな自信に満ちた表情を見て、神は、ニュートンの前に林檎が落ちてきたみたいな顔をして言った。


 


「僕は面白ければなんでもありだと思ってる口でね。よく他世界の神たちからも注意を受けるのさ。でも、これは良い拾い物をした。


 君の言う"超幸運"。


 凄まじいね。


 多少根拠が薄いような仮説でも、100%真実の事象しかそこにはない。


 いや、言うなれば……


 


 ()()()()()()()()()


 


 君が立てた仮説に、事実の方が引き寄せられている。結果的にはそう言って過言ない。


 でも、君としてはいいのかい?」


「あ?何がだ?」


「君は、現世での幸運を楽しみにしていただろう?


 "超幸運"ってのも無限じゃない。君が前世で蓄積した不運の塊。その絶対値分しか幸運も続かない。


 だからこのまま仮説を真実にする、なんていう強力な力を使い続けたら、選抜に合格して生き返っても、現世での幸運はなくなってるかもよ?」


「……てめぇは少し勘違いしてるな。


 俺はもう現世に己の幸運など望んでいない。


 俺は"理不尽"を嫌うだけだ。


 どうしようもないほどに現世にはこの菌が蔓延っている。


 俺に現世の幸運がきたところで、世界の"理不尽"は絶たれない。


 きっとそいつは俺の影にしつこく絡みついてるし、なんなら、他者にとっては俺自身が"理不尽"そのものに見えるはずだ。


 運は、『どけ』と言って、『はい、どきます』なんて言ってくれるもんじゃねぇ。どんなに頑張っても、どれだけ苦渋を舐めても、どれほど痛みを知っても、運には同情も糞もねぇからな…!


 


 "超幸運"は敵からしたら理不尽の塊。


 そういう意味ではあのエルフも、この世界どもの犠牲者の一人だったと言えるな。


 


 ずっと、ずっと、俺が物心着く頃から思っていた。


 


 人は平等じゃねぇ。


 


 そう思って、でも、見ないふりをしていた。


 そのうち俺にも良い事が訪れるなら、十分だと、何てめぇ如きが他者の心配してんだと、それは人生をつまらなくさせるぞ、と」


 


 鶴喰は目を閉じて思い浮かべた。そこには昔の記憶――


 ある一人の女の子が浮かび上がった。だがすぐに鶴喰は神に目を向けた。


 


「……だが、(てめぇ)を見て話が変わった。


 なぜ神という存在が実在するのに、(それ)は人を救わないのか。


 その真相が、てめぇだ。


 無責任に人を簡単に殺し、挙句の果てには再び死ねと言う。


 神そのものが"理不尽"だった…!


 


 だから、このクソみてぇな世界どもを、理不尽で有り余るこの世界どもを、(てめぇ)を倒して俺が覆す!


 そのためには、なんでもやってやる!


 そのつもりだ」


 


「なんと……僕を超えるかい?」


 


「あぁ……これは絶対に世界にとって必要だ。


 そして、俺がやらなくてはならない。


 最も理不尽に遭遇したであろう俺が、この世界を変えなければならない。


 そのために俺は、この先へ行く!」


 鶴喰は、自戒するように言葉をそう紡いだ。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 3ヶ月後――


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 第二選抜終了―― 


 獲得異能ヴァルナ数:38


 第三選抜終了―― 


 獲得異能ヴァルナ数:181


 第四選抜終了―― 


 獲得異能ヴァルナ数:1004


 第五選抜終了―― 


 獲得異能ヴァルナ数:3964


 


 総異能ヴァルナ数:5190


 


 第五選抜が終わった時点での生存人数:1()0() ()


 


 


 


『第五選抜終了――目標達成により、鶴喰様の現世での復活が決まりました』


 


 アナウンスが響いた。


 


 転移(テレポート)により、鶴喰が"神の間"へと移動する。


 そこには、片手を失った鶴喰の姿があった。


 だが、5000以上の異能(ヴァルナ)を持つ鶴喰にとって、一本の手の復元など、容易であった。


 


 即時再生系異能(ヴァルナ)×311


 自然治癒力強化系異能(ヴァルナ)×239


 免疫増強系異能(ヴァルナ)×79


 体力増幅系異能(ヴァルナ)×48


 広範囲医療系異能(ヴァルナ)×6


 超蘇生系異能(ヴァルナ)×2


 


 計685個の回復系異能(ヴァルナ)、発動――


 


 これによって、失われた手はみるみるうちに生え、わずか一秒の間に、傷跡一つそこに残さずに復元された。


 


 


 


 五万分の十。


 平均にして約5000個の異能(ヴァルナ)を持つ者が、10人。


 そして、一世界につき一人いる神が、12人。


 計22人の、生物の領域を超えた猛者達が、縦長の机に向かい合って二列に座っている。


 


 圧巻であった。


 


「諸君!よくここまで勝ち残ってきた!


 諸君らには、晴れて現世への復活が認められる!」


 


 大柄な男の神が声を張り上げて言った。


 


「そこで!神々(我々)は諸君らに対し、二つ問う!


 一つは、どの世界に復活したいのか!


 もう一つは、異能(ヴァルナ)を留保するか!である!


 詳細については、諸君ら一人一人の出生地の神を尋ねてくれ!」


 


 その後も事務的なやり取りが右往左往した。そんな中、ある古いメガネをかけた中性的な男性の神が、ぼそっと呟いた。


 


「それにしても……


 この行事(イベント)に全く出番がないと有名なあの地球(アース)が、なぜ()()()復活者を出しているのか。実に興味深いが……おかげでこっちは大損だ」


 


 そう呟いた神の、隣に座っていた女性の神も、不満そうな顔をしてこう囁いた。


 


「まじでなー。お前こいつらどこで見つけてきたんや?バックス」


「たまたまだよ。まっ、結果僕が儲かったし良いんだけどさ。


 ……それで、鶴喰君と狼谷(かみや)君。


 まずは、どの世界に復活したいのか……だけど、どうする?」


 


 バックスと呼ばれたその地球(アース)の神は適当にはぐらかすと、前に座っていた鶴喰たちにそう声をかけた。先ほどバックスに囁いた女性の神が、はぐらかすなー、おいシカトするなー、むむむむ…聞けー!、などとバックスをぽんぽんと叩きながら喚いているのを気にも止めず、まず鶴喰が返事をした。


 


「俺は地球(アース)での復活を希望する」


「いいの?せっかくの機会なのに」


 


 地球(アース)の神が、スーパーボールを打って返したみたいに言った。


 


「あぁ。()()()地球(アース)が一番好適だ」


「ふ~ん。そういうことならいいけど、狼谷君は?どうする?」


「僕もそうしよう。異世界というのも魅力的だが……少し、現世の地球(アース)で気になることがあってな」


 


「そっか。じゃ、次は異能(ヴァルナ)の留保について……


 復活させたばかりの体に5000個も一気に入れると体が持たないんだよね。


 というか、二個ですら持たないんだけど。


 だから持ってくなら異能(ヴァルナ)は一個だけ。


 残りはレベルアップに応じて、今持ってる種類の中から一つずつ選択して異能(ヴァルナ)を獲得する形になる。


 現世に異能(ヴァルナ)を持ってかないなら、代わりに魔力の最大値を増やせるけど……


 そもそも地球人だし魔法使えないでしょ?


 異能(ヴァルナ)を持ってくってことでいいよね?」


 


 バックスの問いかけに対し、問題ないと、二人は同意の頷きを示した。


 


「よ~し。じゃこれで事務連絡は終わりだよ。


 さっそく君たちを現世に復活させよう。


 もう君たちとも、お別れだ」


 


 バックスは立ち上がると、先ほどの事務連絡の内容を書いた紙を、燃やすように消滅させ、呪文を唱え始めた。


 


 


「天秤に掛けるは太陽の眼。


 


 鏡に映るは蟷螂の刃の影。


 


 形あるものは故に止まらぬ衝撃となって魂を焼く。


 


 ――…夢幻。


 


 ル・ヌ・ペレト・エム・ヘル・リバイブ!」


 


 


 鶴喰と狼谷。二人の影が薄くなっていく。


 


 


 


 


 


 20xx年 10/19 19:31――


 


 高層ビルの屋上。


 顔を下に向けると、冷たくなった風に髪を遊ばれながら、鬱陶しいほどの光の点々が彼を迎えていた。


 道が人で溢れかえっている。


 誰もが思い思いに思想を耕し、荒らしている。


 つまらなさそうな顔。


 バカみたいに笑う顔。


 報われない熱心な顔。


 日本の首都・東京に、変わらない日常が流れている――


 


 


 


 


 はずだった。


 


 


 


 


 水たまりに、二滴のインクが落ちる。


 水たまりは決して透明ではない。


 赤。青。黄。緑。茶。白。


 いろんな色が、我が物顔で水たまりを占領しようとする。


 けれど、それは混ざることなく、無意味に弾きあっている。


 そこに投下されるは黒いインク。それは薄く広がり、だが、新たに現れたこの黒いインクは、他を蝕んで離さない。


 


 この日、この時。


 


 鶴喰は、


 


 再び、


 


 地球(アース)へと降り立った。


 

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