A-04話 Editors
「雷魔法 雷神ノ後光・纏式!」
守護神のように。
エルフは幻覚の雷神をまとい、大地も震撼する、神々しい電気を、皮膚に宿す。
時折空気中に分散する電気の青白い筋が、その神々しさを増長させていた。
灰ノ茨による蔦を風魔法で手繰り寄せ――
電撃的に。
瞬く間にエルフは鶴喰のいる最上階まで駆け上る。
雷神ノ後光が、彗星のごとく尾を引きながら距離を詰める。
途端――
エルフは自身の足を切りつけた。
血が溢れる。
その血をすくって鶴喰めがけ投げかける。
『錬金術師』による血の金属化――
それは単なる液体が弾丸へ変化させる力を擁しているのだ。
金属と化した血のほとんどを鶴喰はよけて見せるが、だがそれでも――
そこにスキが生まれる。
「雷神ノ後光・拳式!」
電気をまとった拳が拳銃のように鶴喰を襲う。
「蹴式!」
電気をまとった足が散弾銃のように鶴喰を襲う。
細い足は『錬金術師』で床に固定され、力強い蹴りが鶴喰に迫る。
「ダァラァァァァ!!」
低い叫び声と共に、鶴喰向かって、何度も、いくつもの、攻撃が、ガトリングガンのような火力で、襲いかかる。
土煙が立っていた。
瓦礫が落ちていた。
壊れた換気扇の表面が、ひどく。
錆びていた。
(これだけの攻撃!
頭で考えずとも、視認せずとも!
必ず致命傷になるはず!
その証拠に、手応えは十分にあった!
……だが、なぜだ?
なぜ……手はこんなにも綺麗なのだ……?
なぜ……一切の血や汚れ一つ……ついていないのだ?)
ドクン
心臓が――
ドクン
ドクン
ドクン
ドクッ
ドク
ドク
ドク
ドク
ドク
心臓が――
鼓動が――
速い。
手足を見つめたエルフの顔に――
汗が。滴って、いる。
そして、
視線は手足から砂煙の方へ――
「それだけか?」
そこには無傷の鶴喰が堂々と立っていた。
「なぜ!?生きている!?」
エルフは吠える。
「この試合はチュートリアル。
最初からお前に勝ち目はなかった」
鶴喰は芝居の幕が下りたみたいに胸の奥が冷えていた。
そんな鶴喰の顔を見て、エルフは顔に怒りを灯す。
「なんだと!?
私が今までどれだけ苦労してここまで来たと思ってる!?
正義が絶対なのだ!
妹のため!!
我が命を文字通り削って!
ここまで来てるんだ!
ふざけやがって!
この野郎!!」
「俺がふざけているように見えるか?」
そこには、深い深い眼差しが満ちていた。もうそこには笑顔などなかった。
だがそれは、余裕がないから、などではない。
眉間にシワを寄せた鶴喰が示していたのは、
ただただ、
広大で冷たい海のように純粋な、
真剣さと冷酷さだった。
その冷ややかな視線を見たエルフが、再び、特攻する。
「糞がっ!!雷神ノ後光・剣式!!!」
エルフの手に雷で創られた剣が握られる。
それが起きたのは、その剣が鶴喰に振り下ろされた瞬間であった。
「妹の為?
悪いがてめぇの正義で平等を侵されてたまるか!
アメリカ大統領の命令だろうが、ピカソの名作だろうが、神からの信託だろうが、
それを否定する権利が万人にある!
壊せ、造れ――」
鶴喰はあの時の神の言葉を思い出していた。
『君の異能は、指定した物質を自由に動かせる力だ』
「俺の力は、腐った世界を直す『編集者』だ…!」
それが、エルフの手に握られていた剣が、文字通りに、消えた瞬間であった。