A-00話 始まりの始まりと終わりの終わり。始まりの終わりと終わりの始まり。
厨二全開で描きます。
ガラガラガラ
無表情な教室の白い扉が大げさに音を立てる。
罠にかかった野兎をいたぶって笑う、狩人のようなクラスメイトの目が僕に刺さる。
ケラケラケラ
僕を嘲笑う声。僕を鼻で笑う音。僕の存在を無視する匂い。
侮辱と嫌悪感の全ての感情が爆発するように僕を襲う。
扉の前に枯木みたいに突っ立った僕。
下を向けば、教室と廊下の境を示す、扉の溝が床に刻まれていた。
いつだって僕と他人の間には線が引いてあった。白い白い線が。
いつだって他人の顔にはお面が被ってあった。黒い黒い仮面が。
僕はあまりにも、彼らと違った。
「あっ、人生終了だ」
誰かがゲームの画面を見て言った。
僕はあまりにも、運がなかった。
僕にだけ雨が降る。僕にだけ鳥の糞が降る。僕にだけ。僕にだけ。
今クラスメートで流行っているあのゲームも、ガチャを引けば全てはずれ。
確定でレアが出る?
そんなのいつもバグでバグでバグで、僕だけ、出なかった。
人生もガチャだ。
親を決めるガチャ。生まれる場所のガチャ。友達のガチャ。
全ての乱数が僕にとって最悪なものになった。
バシャ
教室で水槽を運んでいたクラスメートが、体の中心を失ってこけた。水が追尾ミサイルみたく僕にだけかかる。僕にだけ。
「あっ!ごめん……って鶴喰かよ」
腐ったゴミを見る目が僕に向く。びしょびしょになった僕は湿ったハンカチで顔を拭きながら、どうしようもなく俯いた。
運がない人は好かれない。誰からも。
一般人はどうやってクラスメートと友達になる?
席が近い人。趣味が合う人。
70億人の人間の中からたまたま知り合った呼吸の合う人だけが友達になれる。
そう、たまたまだ。
僕と席が近い人は必ず趣味が合わない。趣味が合う人を見つけても運がない僕じゃ相手に迷惑がかかる。
こんな田舎じゃ小学校の友達が蜘蛛の糸みたくずっと中学、高校と続いていくわけで、自然と僕の立場は背景と化していた。
けど、そんな僕でも唯一話しかけてくれる存在がいる。
「ねぇ?大丈夫、鶴喰君?良かったら私のタオル貸そっか?」
木枯らしみたく横を振り向くと――
ピアノみたいに艶のある黒髪。河合さんだ。
片手を耳にあてて、もう片方の手でタオルを差し出す河合さんの姿がそこにはあった。
部活の朝練の後なのか、汗で湿った髪や体が、妙に、色っぽく見える。
河合さんが上目遣いで――…ラムネのビー玉みたいに輝きのある瞳でこちらを見ていて、思わず声が上ずる。
「か、河合さん…!いや……大丈夫だよ。自分の持ってるから……」
手を振って断ると、そう?と声が返ってきた。けれど、それと同時に周囲を囲うように真っ黒な視線が僕に向く。
河合さんは容姿端麗、文武両道の優等生。
高校二年生に上がるタイミングで引っ越してきた河合は、この田舎じゃありえないくらいには優れた生徒だった。
なぜ鶴喰なんかに優しくするの?
皆の視線が河合に――
いや僕に、
なんで河合さんと話してんの?
と、そう告げていた。
「あのね」
皆の視線に気づかないふりをして席に座ると、河合さんがひょこひょこと跡をつけていたらしく、僕が席に座るなりそうそう、少し俯いた顔を赤らめながらその小さな口を開いた。
「その……今日の放課後さ、良かったら校舎裏に来てくれない…かな?」
*** 放課後 ***
突然の呼び出し。
男のクラスメートからは金目当てに呼び出されることは幾度もあったが、女子から呼び出されるのは初めて。
自分と河合さんは釣り合わないと知っていながらも、もしかしたらと考えてしまう。
もしかしたら、あれが始まるのではないかと。
「おっ。ほんとに来たぜあいつ」
けれど僕の願いは鉄砲玉に打たれたみたいにかき消された。
風が強く吹いている。願いは、硝煙と共にどこまでも遠くへと運ばれる。
僕はこわばった顔で彼らに尋ねた。
「渡邉君……どうしてここに?」
「どうしてぇ?いつも通りのかつあげに決まってんだろ」
分かっていた。そんなことは。渡邉たちが目に入った瞬間に。
「僕、河合さんに呼ばれたんだけど……彼女はどこ?」
「あ?」
そう口を開けたまま、渡邉たちはげらげらと笑い始めた。
「お前、河合に呼ばれて何されると思ってたんだよ」
「え?」
「分かってんだろ?校舎裏は教師も生徒も滅多に立ち入らねぇとこだ。隠し事がねぇと、こんなとこ誰も来ねぇんだよ。タバコを吸うとか、かつあげするとか、殴り合うとか……『愛の告白』とかなっ!」
渡邉とそれを取り巻く二人が『愛の告白』という言葉でギャハハと笑った。
笑いどころが分からない、
理解できない、
不気味。
「どうやら彼は夢を見るのが好きなようです。さぁ我々が現実を教える対価に……金。よこせよ?」
「ははっ。なんだその理屈は。どうせこいつは教師からも見限られてんだ。こいつから金を巻き上げて喚くやつは誰もいねぇよ」
「それもそうだな。この雑菌がっ。オメェがまともに生きたって誰も得しねぇ。それなら俺たちの下僕として精々金をよこせや!」
渡邉たちの影が大きく映る。それは僕を取り囲み、鋭い目だけが、理不尽だけが、僕に色を落とす。
勝手に正当化しやがって……
僕がバイトで汗水流して手に入れたお金が……一瞬で……
僕の財布にあった万札が、僕の手から渡辺の手に移った。
弱々しく握った僕の手から、彼が、がさつに奪い取ったお金。それを見ていると、無性に腹が立ってくる。
でも、僕は何の抵抗もできやしない。
誰だって平穏に生きるには、金が要る。
不運な人は他の人よりも少し多く金が要る。
それだけだ。
だから、これでいいんだ。
こうしてお金をあげつづければ、まだ、僕は生きていける。
「お金はもうあげた……だから聞いていいでしょ?河合さんはどこにいったの?」
「あ?お前、まだわかってねぇんかよ?さすが雑菌だな。かつあげっつってんだろ。騙されたんだよ、おめぇはな。あの河合からさえな」
そうか、きっと河合さんは利用されて……
「なら河合さんは無事なんだね……てっきり河合さんにまで手を出したのかと……」
そう言うと、渡邉たちはいっそう笑い始めた。とても下品な、笑いだった。
「だからまだわかんねぇのか。そうじゃねぇんだよ」
……?
「そうだな……言葉より直接見たほうがこいつの反応も良さそうだ……河合。出てきな」
「……そうね」
建物の裏から現る黒い影。そこには、服装の乱れた河合さんの姿があった。彼女はタバコの息をふぅーと吐いて、こう続けた。
「もうあんたたちのいじめもどき見るのにも退屈だったし、いいわ。教えてあげる。彼らが私に頼んだんじゃなくて、私が頼んだのよ。渡邉たちにね」
急に、重力が重くなったような気がした。
タバコの煙が真っ白い糸みたいに上をわたっていって、逃れるように僕はその煙を下から眺めていった。
「あ……ああ……」
思わず変な声が出た。
「ははっ。ずいぶんひでぇつらだなぁ」
渡邉が言った。
「そりゃそうでしょうよ。だって今まで唯一まともに話せた存在が、まさか渡邉みたいな不良とつるんでるなんてねぇ」
タバコの煙はある地点を境に空気と同化した。糸が、ぽつんとちぎれたようだった。
頭は真っ白。目の前真っ黒。
あぁ。なんで?もしかしたら。もしかしたら。河合さんの存在があれの始まる予兆じゃないかと思っていたのに――
「なんで私が今まであんたみたいなグズと話してたか分かる?」
グズ。
普段からは考えられない言葉が河合さんの口から飛び出した。その言葉が僕の心をかき乱して響き回る。
「実は私ね……去年、前の学校辞めさせられたんだよ。
なんでか分かる?
あんたみたいなグズたちから金とってたら、そいつらが学校に訴えやがったんだよ!
そしたらなんだ!
一緒につるんでた奴らはみんな私のせいにしやがって!
……おかげで私は学校を退学。
こんな糞田舎にまで通う羽目になった!」
勢いをつけて喋って、勢いを減らして冷たく喋って……そんな夕立の雨みたいな抑揚で河合さんは喋った。
タバコの煙は風に巻かれて右往左往していて、それを見た河合さんがタバコを地面に投げ捨てて足で踏み潰した。
「だからさぁ……私、決めたんだよね。
この学校に来たとき。
この学校では絶対に学校に訴えさせねぇように金とってやろうってな!
訴えさせねぇ。
訴えても信じさせねぇ。
私が今までやってきたこと、やられてきたこと、全部やってやろぉ!
……だから私はあんたみたいなグズにも話しかけなきゃいけなかった。
教師の信用を得るため。
クラスメートの信用を得るため。
一般人じゃぁ喋りかけてくれないようなあんたに話しかけることで、私は皆の信用を確実に得た。
もう機は来たんだよ。
だからさぁ。
これから、イッパイアソボウナッ」
笑顔。
河合さんの顔に幼稚園児が貼り付けたみたいな粗悪な笑顔があった。
河合さんは僕の肩に手を置いた。
その手の重みが、
重くて、
怖くて、
重くて、
怖くて、
一瞬。
頭が思考を停止した。
今までは諭吉さんに手を出せば、渡邉たちはそれ以上長居することはなかった。
けど。
こいつは違う。
今目の前で笑っている奴はそうじゃない。
本能レベルで警戒信号が聞こえた。心臓の鳴る音が聞こえた。
ただの八つ当たりだ。
金じゃない。
ただ純粋な思いで、僕をいじめようとしている!
「おい、お前らそこで何してるんだ?」
唐突だった。通りすがりの先生の声が、歪に割り込んだ。僕はその希望に思わず手を伸ばした。
「先生!助け――」
「助けてください先生!!」
僕は最初、何が起きたか分からなかった。
助けを求めようとした言の葉が、河合に奪われていた。
「どうした、河合?」
「鶴喰君が…!私に乱暴を…!」
「え…?何言って」
顔を両手で覆い隠して河合はむせび泣くフリをした。手の中に見える仮面はまだ笑っていた。
「鶴喰!!お前、自分が何したのか分かっているのか?」
「ちょっとまっ――」
焦った。
「分かっているのかと聞いているんだ!!」
もう僕には居場所がないのだと知った。
「……僕は、僕はやってない!」
「嘘をつくな!!河合が嘘をついたとでも言うのか!!」
先生の仮面はひどく怒っていた。
駄目だ!
何を言っても無駄だ!
逃げなきゃ…!
動かない足を引きずって学校の柵を飛び越えた。
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
逃げ――
あ。
横を見ると、そこにはトラックの姿があった。
大きい。大きい?いや、近い。僕の方を向いて、走っている。
後ろから先生が追いかけていた。けれども、僕は思ったより速かったのか、意外にもその差は開いていた。
なんで?
こんな田舎で、こんなタイミングで……大型トラック?
おかしいだろ。めったにこんな道で大型トラックなんて走らないだろ。
その瞬間まで、思考が急速に回転していた。
なんで?
あぁ。そうだ。
「僕は運がないんだった」
体の弾ける音がする。血が吹き出る音がする。鉄みたいな血の味がする。血の生臭い匂いがする。
お腹からにじみ出た赤い色素が絵の具のように周りに溶けていき、近くにあったセミの死体を濡らした。故障したのか、トラックのライトが点滅して、赤っぽい光が僕を無慈悲に照らしていた。
*** ??? ***
次に目が覚めたのは、何もない無機質な四角い部屋だった。
「ここは……病…院?」
あれほど派手に轢かれたはずだというのに、驚く程体は軽かった。
「ようこそっ!死後の世界へ!鶴喰君っ」
そこにいたのは、鮮やかとでも形容すべきか、目に彩度が焼きつくような白髪の男の子だった。
「え?死後……?何言ってるんだ?君?ここは病院じゃないのか?」
「ここが病院に見える?」
飲んだ唾がゴクリと音を鳴らす。
目に入るのは、本当に何もない部屋……いや、空間だった。扉も窓もない、ただの空間――
「まさか本当にここは死後の世界!?」
「だからそうだと言ってんでしょ?」
その男の子はもう既につまんなさそうに呟いた。
「ちょっと待ってくれ!じゃ、じゃあ、あれは!?あれはどうなったんだ!?」
僕は柄にもなくその男の子の肩を掴んで揺すった。その肩は、思っていたよりもずいぶんしっかりしていた。
「あれ?あれって何?何言ってんの君?」
「……いや、ごめん。君に聞いても仕方ないよね……ところで君は誰?」
その男の子は急に顔を明るくして弾む声で言った。
「僕は神だよ」
神?
……神?
神。
いや……こいつじゃない。
「何?もしかして君。僕のこと疑ってるね?」
彼が口をわざとらしいぐらいきゅっと閉じた。
そして、再び、その口を、開ける。
「神属性魔法 絶対権限」
その途端、空間の壁がぐにゃぐにゃ溶けた金属みたいに動き出した。
自称「神」の男の子が手を上げると、動き出したそれが形状記憶合金を熱で戻した時みたいに急に元の空間に戻り、その後ルービックキューブみたいに勢いよく空間の形を変えた。
「正方形だった空間が……変わった」
僕は思わず腰をついていた。
未知の力に恐怖を感じたから?
いや、違う。
こいつが本当に神だと言うのなら……
「き、君が……あなたが神であるということは信じます。けれど、ひとつだけ質問良い…ですか?」
「ん?いいよ」
「神って、この世界に……何人もいるんですか?」
「神はいっぱいいるよ。でも正確には、この世界にいる神は僕一人だけだよ。僕は五年ぐらい前に神になったばかりだけどさー」
五年…?ごく最近じゃないか!?
まて……ということは、あれはどうなるんだ?
「そうなんですね……じゃあ、もう二つだけ質問いいですか?」
「ん~言うなら早くしてくれない?僕、他の子も待たせてるからさぁ」
「はい……。単刀直入に言いますけど、総合的な人生の運に良い悪いってありますか?」
僕の人生を左右する質問――
自然と僕の体は震えていた。
「運?そうだねぇ。総合的と言うなら、それはないよ」
ッ!
よし……やっぱりあれは幻聴なんかじゃなかった!
実は7年前。僕は、自殺しようとしていた。
数えられない不運に耐えられなくなっていたのだ。
もうそこに、生きる価値を見出すことが……困難になっていたのだ。
自殺決行日のその日、僕は自分をこんなにも不運に創った神を憎み、神社へと足を踏み入れた。
どうして僕だけがこんな目に遭わなければならないのか、と。
そのときはもちろん本当に神がいるとは信じていなかった。けれど、僕はその時、確かに聞こえたのだ。いや、正確には感じたのだ。脳に直接語りかけるという、漫画さながらの形で。
『お主の場合なら……いつか、段違いな幸運が長期的に続く時が来るじゃろう。"超幸運"とでも言うのかの……』
それは、神の言葉だった。
その神が言うには、運とは本来波のように上下するものらしい。運が良い時もあれば運が悪い時もある。そのタイミングは人それぞれで違えど、必ずその平均値はプラスマイナスゼロになるという。
つまり、どういうことか。
僕が今まで不運だ。最低だ。と嘆いていたことは実は乱数でありながらも、必然だったのである。僕が今まで悪かった運気の分、今後必ず良い運の時が来る。約束された幸運がそこにはある。
それを知った。だから、僕はさっきまで生きていけていたのだ。いつか来る幸運のために。
ただ、僕の場合その運の上下のタイミングが著しく極端だった。人生の前半で悪運が長く続き、その後にようやく幸運が現れる、そういう人生に巡り合ってしまった。だから神様が、あまりにも悲しい死を遂げないようにと、僕にその事実を告げてくれたのだった。
けれど気がかりなのは、その声が老婆の声だったということ。
いかにも「神様」の声のようで、今、目の前にいる男の子の声ではなかった。おそらく、七年前の神が今の神に代替わりしたのだろう。
だが、そんなことはちっぽけな気がかりだ。
もっとも気がかりなのは、僕が、もう死んだということ。
僕はてっきり人生が"超幸運"に切り替わるタイミングがあるものだと思っていた。生きている間に。
けれど、僕は死んだ。
ということはどういうことか。
それは、今この瞬間が"超幸運"になる境目のタイミングそのもので、生き返してもらった後に"超幸運"へと突入する……かもしれないということ。神様から直々に声がかかったというなら、生き返してもらうことがあっても不思議ではない。
とにかく確かめなければ……
「じゃあ、もう一つの質問なんですけど……僕はどうしてここに来たんですか?」
「ん?それはねぇ。君を、生き返らすためだよ」
来た!予想通りだった!これで僕の人生がむくわれ――
「あっ。でも君はたぶんできないよ」
「え?」
何もない空間なのに、空っ風が吹いたような気がした。
「え?聞き間違い……ですよね」
「いや、たぶん聞き間違えじゃない。君は、きっと、生き返れない」
温度という概念がないような空間なのに、ひどく汗をかいている。
「え?じゃあ生き返るとかじゃなくても……記憶を持ったまま転生させるとかは……」
「それもできない。てか一度死んだことになってる人間を、そう簡単に元の世界に生き返らせれるわけないし、どうして記憶を持ったまま転生なんてめんどくさいことしなくちゃいけないの?」
「そ、そんな……あっ、でも『きっと』復活できないっていうのは……?できっ、できるかもしれないってことですよね!?」
その時にはもう僕は焦っていた。文字通りに、焦っていた。
「あのねぇ。転生とか生き返らすってのは君たちが思うほど簡単じゃないんですぅ。主に手続きとかだけど。転生したい!生き返りたい!っていう魂はいくらでもいて、需要はあるけど供給はめちゃくちゃ難しいの!だから、10人」
「じゅ、10人?」
「そ、約5万の魂、世界の狭間を動く際の反動に耐えられる魂、いわゆる死者の住人ってのが今、約5万人いるの。その中から定員10名の復活権利の争奪戦をやってもらうんだよ」
「争……奪戦?そんなのどうやって……?」
「決まってるじゃん。殺し合いだよ」
背中がぞくっとした。河合の時よりも、もっと、もっと、もっと強力な重力がかかったみたいで、僕は思わず膝から崩れ落ちた。
「そ…そんなの……僕みたいなのじゃ……」
「あっ、でも一応武器はあるよ。いや、正確には武器じゃなくて異能って言うんだけど。例えば、『右手から炎が出せる』とかね。ランダムに皆にプレゼントされる」
神はそう言いながら自らの手に炎を纏った。
その手が熱くて、少し、眩しかった。
「炎!?もしそんなことができるならまだ僕にも勝ち目が……」
だが、その光は一瞬で消え去ったのだ。
「あーでもそれはない。だって、戦う相手は異能をもらう前から魔法を使ってるんだもん。地球生まれの君に勝ち目はないよ」
ま、魔法……?そんなのありかよ…?そんなのができる相手と戦えと?おとぎ話の相手に勝てと?無理だろ、そんなん。
「まっ、頑張れよ。ちなみに殺した相手の異能は奪うことが出来るっていうのと、一度死んでるといっても痛覚とかはあるからね。死んだらまた痛いよ」
死?
またあの痛みを…?
嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。
嫌だ!
またあの痛みを味わうなんて!
というか運は?
"超幸運"は!?
約束された幸運は!?
どうなってるんだ!?
仮に運が良くても定員は10だぞ!?
無理だ。
そんなの運だけで生き残れるレベルじゃない!
なんでこんなことになったんだ!?
「なんで!なんでだ?僕はちゃんと不運を生きてきただろ!幸運は約束されたんじゃなかったのか!?なぁ!運はみんな平等なんだろ!?」
「あぁーそういうことね。それ、僕が強制的に君を殺したからこれは普通の運の概念じゃないよ」
は?
え?
え?
君が……神が強制的に僕を殺した?だからもう約束された幸運なんてないってか?
「最低でも一世界につき数人はこの争奪戦に参加しないと他の世界の神様に借りができるとかで色々めんどくさいんだよ。魔法の使えない地球人なんて絶対勝てるわけないのにな。まじ醜態さらすようで嫌だわ~」
理不尽だ。
「地球人て魂が弱いせいで死者の住人が皆無でさ。わざわざ現世に居たやつを殺して争奪戦に参加させてんの。てなわけで、それに選ばれたのが君だったわけ。おめでと~。正直君は特殊すぎて君のこれからの運がどうなるかなんて知らないよ」
なんだそりゃあ?
神に諭されてここまで生きてきて、それで神に殺されたら『また死ね』だって?
おかしいだろ。
僕にだけ…!
僕にだけ…!
僕にだけ…!
僕にだけ…!
結局ずっと僕にだけだ…!
なんで僕の人生はこんなに腐ってるんだ!?
いや、違うだろ。
腐ってるのは……僕じゃないだろ。
世界の方だろ。
……憎い!
憎い!
憎い!
憎い!
憎い!
憎い!
憎い!
憎い!
憎い!
憎い!
憎い!
憎い!
全てが…!
この世界は、いや、この世界どもは狂っている。
もう、いい。
もうここまできたんだ。
どうせない希望なら俺が切り開いてやる……!
自分の手で!
自分の足で!
自分の頭で!
自分の力で!
やってやる!
「じゃあ君の異能、確認してみよっか」
もう今までの不運が今後の幸運に繋がる確証なんてない。
けど!
俺は、今までの不運も!これからの幸運も!この未来のために賭けて闘ってやる!
そのためにはまず、異能がいる!
今まで俺の目に見えていた白い線や黒い仮面が剥がれていくのが解った。
「おっ。君の異能分かったよ」
さぁ!天使か悪魔か……どっちだ?
「君の異能は――」
他人の仮面が剥がれたのは――自分の仮面が剥がれた時。