近すぎて、遠くて、愛おしすぎて、手に入らないもの。
「兄さん、起きて。」
僕の毎日の日課・・・兄を起こすこと。
何をされてもなかなか起きない兄を起こすのは至難の業。でも、それが僕にとってはチャンスの時間。気づかれないように優しく、兄のおでこに口付けをする。そう。僕は、兄のことが好きだ。この世界の誰よりも。
きっかけは、まだ、僕がまだ小学校に上がったばかりの時。2つ上の兄とその友達とで、かくれんぼをする事になった。家の中でのかくれんぼ。隠れる場所は限られていた。まだ、幼いということで、僕は常に兄の手を握ってはなれなかった。兄も嫌な顔一つせずにずっと僕の手を握ってくれた。カッコつけたい年頃、弟のことなんて邪魔でしかないだろうに、常に後ろについてくる僕を兄は受け入れてくれた。
当然、そのかくれんぼも、兄と同じところに隠れる。兄が僕を連れてきたのは暗いクローゼットの中だった。おばけや目に見えないものに恐怖を感じる年だったので、正直隠れるのは嫌だった。でも、兄と一緒なら。そう思い、兄の手を強く握りしめて一緒のクローゼットの中に。案の定、恐怖が勝つ。暗く何も見えない。頬には常に衣類の袖が不用意にかすめる。常に目に見えない何かに頬を触られているみたいで怖かった。手がかりは握っている兄の手だけ。
「大丈夫。兄ちゃんがいるからな。」
不意に兄は僕のことを抱き寄せてきた。多分、震える自分の手を感じていたのだろう。もしくは、隠れるためには小さくまとまるほうがいいと思ったのかもしれない。この時、僕の胸は思わず高鳴る。兄の匂い、手の感じ、痩せていたため少し感じる肋骨の感じ。今でも覚えてる。多分この時だろう。兄に想いを寄せる事になるのは。
「みーつけた。」
かくれんぼでは結局見つかってしまった。
「お前ら兄弟。本当に仲良いよな。」
「当たり前だろ?兄弟なんだから。」
兄の口から出る言葉に幼いながらズキっと心が痛む。すると、自然に目から涙が溢れてきた。怖かったのか、もしくは・・・
「ごめんな。怖い思いさせちゃった。」
涙の意味を僕はまだ知らなかったから、兄の言葉にうなずく。すると、兄は僕のおでこに口付けをした。
「これ、母さんがやってたおまじない。どうだ?」
僕の顔は赤く熱くなる。この感情が恋なのかもしれないと子供ながら思った。
「うん。ありがとう、お兄ちゃん。」
おでこの口付けはあくまでおまじない。僕は今、毎日兄におまじないをかける。
『どうか、兄が幸せになってくれますように。』
自然に頬を伝う涙を拭き、「好きだよ。お兄ちゃん。」と小さく呟く。起きないでくれと願いながら。
「ほら、起きろ兄貴。」
今度は大きな声で強く、兄のことを呼ぶ。流石に、これで起きた兄は、僕の顔を見て言う。
「どうした?目が赤いぞ?」
「昨日徹夜したからかな?そんなことより、遅れるよ?」
「マジか。やばい。」
兄は急いで洗面所に向かい顔を洗いに行った。
スカートも履かない、メイクもしない。女性っぽいことを全くしない僕の気持ちは絶対に、気づかれることはない。好きと伝えることも、毎日のおまじないも。これが、僕の初恋。
洗面台から戻ってきた兄は、
「毎日、おまじないありがとうな。」
『近すぎて、遠くて、愛おしすぎて、手に入らないもの。』




