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窓の中のWILL―勇士様は高校生! 凸凹トリオが世界を救う―  作者: 担倉 刻
―Fourth World―  老舗の寿司屋は冷戦中につき休業中?
99/197

Chapter:99 「書けるわけないじゃないの!」

 翌日、博希が目覚めるのは遅かった。

 冷蔵庫の業者はとっくに来ていて、どうやら修理のみでカタがつきそうだということだった。

「悪いな、茜。業者の相手してくれたんだろ」

「ううん、気にしないで。それよりお父さんとお母さんのことなんだけど」

「ああ……」

 冷蔵庫は直るという話だったが、父親も母親も部屋から出てはこなかった。

 意地の張り合いが続いている。博希は茶の間に行くと、茜が入れてくれた茶をぐいっとあけた。

「…………」

 無意識にカレンダーを見る。

 ある日に、二重丸がつけられていた。

「……?」

 この日が何の日だったか、博希にはすぐに見当がつかなかった。

 ただ覚えているのは、この日は、自分たちが旅をして、リテアルフィに喧嘩を売られ、猛暑があって、……冷蔵庫が壊れたため両親が喧嘩したと茜が……

 博希は茜に、この日は何の日だ、と聞いてみた。

「お母さんの誕生日で、お父さんとお母さんの結婚記念日」

「え? あっ、そっか……」

 そうして去年までのことに思いをはせる。

 確か毎年、豪華な寿司と刺身が食卓に並び、みんな大喜びで、……

「そうかっ!」

 博希は湯呑をだんっ! とテーブルに叩きつけると、茜にざっと事情を説明し、ふたりで母親の部屋に走った。

「母ちゃん」

「何か用?」

「ロクにメシ食わねぇからそんなツラになっちまって。どこまで意地はりゃ気がすむんだよ?」

「放っといて。どうせこの家、明日には出て行くんだから」

「お母さんっ!」

「そこまで言うならそれだけの覚悟はできてんだろうな? もう離婚届け書いたのかよ!?」

「…………」

 母親はふいに黙った。

「お母さん?」

 茜は母親の顔をのぞきこんだ。

「書けるわけないじゃないの! わたしには書けないわよっ!」

「……やっぱりな」

 博希はため息をついた。


 ここんとこ自分的に精神がふらついてて、

 ちゃんとモノ考えられなかったけど、冷静に考えりゃ、

 父ちゃんや、まして母ちゃんが、離婚届けなんか書けるワケないんだ。

 ダテに十六年もこの夫婦の息子として生きてきたわけじゃない。

 母ちゃんなんか実家に帰った日にゃ、

 じっちゃんから追ん出しくらうに決まってる。


 博希が茜にそっとそうささやくと、茜は「そういえばそうだよね」と苦笑した。そういう夫婦なのである。母親は黙ったまま、うつむいた。

「ホントは父ちゃんと仲直りしたいんじゃねェのか。このままだと、家ン中バラバラなんだよ。店だって開けねぇし」

「あのねえ、お母さん。頭にきちゃったお父さんも悪いけど、お母さんが勘違いしたのも、原因なのよ?」

「勘違い……?」

「父ちゃんが落ち込んだままなの、理由も考えないで腹立てたろ。ちゃんと父ちゃんは父ちゃんなりの理由があったんだ」

「理由……」

「ケンカした日、お母さんの誕生日だったよね。お父さんとお母さんの結婚記念日でもあったよね」

「……あ……」

「……まさか忘れてた?」

 母親は恥ずかしそうに頭を垂れる。

「ホントに忘れてたらしい」

 博希が言うと、茜はちょっと首をすくめて、言った。

「毎年、この日には、お魚を余計に仕入れて、店で出す分とうちで食べる分と分けてたでしょ」

「だけど今年は暑さで冷蔵庫がぶっ壊れて、魚が全部ダメになった。もちろん市場はもうガラ空き」

「多分ね、お店休みにしてでも、お祝いのお魚だけは手に入れようと思ったはずなの。でもそれさえ手に入らなかった……」

「だから父ちゃんはホントに落ち込んだ。これ以上ないくらいに落ち込んだ」

「それで、お母さんが励ましても、ダメだったの。お母さんにお魚、食べさせてあげられないって」

 母親は少し目を潤ませて、うつむいた。

「これで解ったろ。仲直りしろよ、いい加減」

「…………」

「あとはお父さんとお母さんの問題だよね?」

「そうだな。俺たちは出てくか。……ちゃんと仲直り、しろよ」

 博希と茜はふすまを閉めた。

「俺、もっぺん寝るわ、明日のために」

 博希は部屋に戻って、もう一度、布団にもぐった。

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