Chapter:97 「……もう、隠せないから」
「……ん」
博希は感じなれた空気の中で目を覚ました。気が遠くなったのは覚えにある。
ぐるりを見渡して、寝ているのが自分の布団の中であることに気がついた。
「…………!?」
自分が家まで帰り着いた記憶がない。覚えているのは茜と出流と五月が自分を呼ぶ声と、鎧装着が解けたところまで……
博希は身体を起こした。
「いてっ」
背中が痛んだ。リオールの起こした【風】のスパークが、茜を守った時にまともに当たったせいだろう。
博希はもう一度布団に入ると、ぼんやりと天井を見つめた。
その時、部屋の障子がからりと開いた。
「……あ、目、覚ましたんだ?」
「茜、……」
「出流兄ちゃん、五月兄ちゃん! お兄ちゃん、目、覚ましたよ!」
茜の足音が遠くなる。
すぐに、出流と五月が顔を出した。
「おじゃましてます、博希サン」
「ヒロくん、よかったあ」
いまにも泣き出しそうな五月の頭をよしよしと撫でてやって、博希はまた天井を見つめた。
「ありがとな」
「いえ。……それよりも、茜サンが」
出流のつぶやきを聞いて、博希は気が遠くなりそうな気がした。
考えれば、もはや隠しようのないほどのバレっぷり。一体どこから話すべきか……三人は悶々と考えた。
とたとたと足音。
「桃だよ。お兄ちゃん、黄桃好きだったよね。はい、五月兄ちゃんも、出流兄ちゃんも」
ガラスの器の中に、切った黄桃が二つ、入っていた。
「カンヅメで悪いんだけど」
「いや。……ありがとう」
「僕らまで、どうもすみません」
「いただきまあす」
博希たちは器を受け取って、パクリと黄桃を頬張った。甘い。
「うまい」
「そう? よかった。味覚が戻ってるっていうのは元気になってる証拠だよ」
「……茜……」
博希はフォークを置いて、茜を見た。
「お兄ちゃん?」
「お前はなんとも、なかったか」
「……!」
茜はそれで、目の前の兄が何を言おうとしているのかを何割方か察した。
出流と五月はほんの少し、息をのんだ。
「私は……私は、なんとも、なかったよ」
「そうか。……もう少し、俺が、なんとかできてればよかったんだけど……危ない目に遭わせて、悪かったと思ってる」
「そんな、」
「……もう、隠せないから、お前にだけは言っとく。俺、【伝説の勇士】なんだ」
「……【伝説の勇士】……?」
そうして、博希たちは、もどかしげながらも、温室に忍び込んだこと、観葉植物に襲われたこと、そうして異世界コスポルーダに行ってしまったこと、そこでなぜか【伝説の勇士】になってしまったことなど、ここ数日の間で三人の身に起こったことを、包み隠さず、話した。
すべてを話し終わるまでに、たっぷり、二時間、かかった。




