Chapter:94 「この世界は俺たちのナワバリだ!」
走る博希の鼻に、つんと風がしみた。
「先に行くぞ、出流、五月!」
全速力で走る博希に、ふたりは追いつけないまま、彼の背中を見送って走るのだった。
「!」
左手にエンブレムが浮かぶ。
痛みはないが、ただただ熱い。
「レジェンドプロテクター・チェンジ!」
あたりに誰もいないのを確認したあと、叫びながら、博希は地を蹴った。
いまこれが出たということは、この爆発は【アイルッシュの犯罪人】が引き起こしたことではないということだ。
では誰が――――
そのとき、博希の背中に、明らかに自然のものではない風が当たった。
彼が振り返ると――――
「リオール……!」
こんなにも、偽者とか、それ系の間違いであって欲しいと思ったことはなかった。
彼の足元では、攻撃によるものだろう、大きな看板が地を舐めていた。
「……来たか。【伝説の勇士】。……」
「リオール、お前、……ホントにリオールか!」
「いまさら何を言う? ――正真正銘、紅の騎士、リオールだ」
「お前、なんのために、アイルッシュを!?」
「それを私に答えろというのか……」
「当たり前だ! お前がここを襲ったって、何の得にもならねぇだろっ!」
しばし、短い時が流れる。
「……なる」
「何……!?」
うしろでひとつに結った髪の毛が、風になびいた。
「アイルッシュ攻撃は、私の意思ではない」
「どういう意味だよ……!」
聞かなくても、博希には、その言葉の意味がわかるような気がした。だが、考えたくはなかった。
「――スタンバイ・マイウェポン」
静かに唱えて、博希はその手に剣を召喚する。
「……この攻撃は……レドルアビデ様のご命令だ」
唇はほとんど動かなかった。博希は全身がぶるり――と震えるのを覚えた。
わからないわけではなかった。ならばなぜあの時、小屋で二人きりになった時にそう言ってくれなかったのか、と責める気持ちもなかった。
その憂いを帯びた瞳を前にすると、何でも許せそうな気がした。
「……お前はじゃあ、この世界をぶち壊しに来たんだな? ……なら……許されない。お前がこれ以上ここにいるつもりなら、……」
「わかっている。私もお前が私の邪魔をするなら、……」
ふたりは各々の武器を、すちゃっ、と構えた。
異質な空気が、ゆるやかに交わって、はじける!
二人は互いにかち合った後、離れた。
「さすがは【伝説の勇士】。私の攻撃をかわすとは」
「これくらいかわせねぇで何が【伝説の勇士】だよ」
博希の片頬がぴっ、と切れた。
「……! ……」
「ほう。……、……!」
リオールの腕もぴっ、と、切れる。
「おあいこか」
「そのようだな。……これ以上邪魔を続ける気なら本気でいかせてもらうが」
すっ……と、大剣が構えられた。
「お前が本気でくるなら俺も本気でかからせてもらう。――この世界は俺たちのナワバリだ!」
「そうか……」
フ、と、リオールの唇から微笑がもれた。瞬間、博希は、固まった。
知っている。
俺はこの笑顔を知っている。
リオールじゃない。この笑顔は――
誰だった!?
この笑顔、俺は、――
「スキありだ、【伝説の勇士】!」
「うわっ……!」
風がはじけて、博希の周りでスパークする。稲妻のような刺激が、博希を包んだ。
「っ! あっ、ぐう……」
そのとき博希は、バタバタという音を聞いた。ヘリ。警察のものかマスコミのものかは解らないが、博希はいつかと同様の結果を一瞬、懸念した。
「……うるさいな……邪魔だ」
リオールが大剣を振ろうとした瞬間、
「やめろ、リオール!」
攻撃を受けてボロボロだった博希が立ち上がって、リオールの剣を止めた。
「……ここじゃ邪魔が入るっ。お前、コスポルーダに帰れ! 向こうでなら相手してやる!」
「そういう訳にはいかない。レドルアビデ様に言わせれば、まだまだ足りぬはず」
「……じゃあ……場所を変えよう、俺についてこい!」
たんっ、と博希は地面を蹴り、高みから飛び下りた。
「ふん……」
リオールも飛び下りる。多分、ここで博希をなんとかしておかなければ、きっとこの先も邪魔されると思ってのことだったろう。二人は周りから見えないくらいの速さで走った。




