Chapter:92 「ごめんな、心配かけてさ」
博希が目を覚ましたのは、翌日の昼ごろだった。
「……俺、何やったんだ?」
目を覚ましての第一声がそれだった。出流と五月は一晩中博希とディルとを往復して、看病を続けた。
「ディルは?」
博希は目を覚ましてからそうも聞いた。彼の最後の記憶はディルが光球の中で倒れた映像だったという。ディルの命に別状はないが、身体じゅうから水分が抜けているだけあって、治療は必要である――出流は時間をかけて、ディルが倒れてからのことを、五月と交替で博希に詳しく話した。
「それで、」
レドルアビデが現れました。彼はリテアルフィを抱えて消えました――そこまで話すと、博希は、多少、絶望的な表情で、言った。
「じゃあ……リテアルフィは倒せなかった……?」
「まあ、そういうことにはなります。ですが、」
「なんだよ?」
「博希サンのパワーは、リテアルフィの魔力をほとんどゼロにしました」
「ゼロ……だけど、砂にはなってないんだろ。じゃあ!」
「いえ――これはレドルアビデが言っていたのですが――」
出流はあの時レドルアビデが言った、『この都市は以後リテアルフィの支配下には置かない』という言葉を伝えた。
「なぜだ……?」
「僕にもわかりません。今までからいうと彼は自分の部下でさえも切り捨て見捨てる敵でした。それがなぜリテアルフィに限って助けにきたのか――」
「わからないよね。でも、あの目は、怖かったよ」
五月がそう言いながら、皿を持って部屋に入ってきた。
「くだもの、つぶしてもらってきたの」
「ああ、ありがとな」
「それとね、ディル、さっき、目、覚ましたよ」
「ああ、それはよかった。どうでした?」
「まだちょっとふらふらしてるけど、テンションは高めだった」
五月はそう言ってにっこり笑った。
「じゃあ、僕はディルのほうを見てくることにしましょう」
出流は博希の部屋を出て行った。五月はさっきまで出流が座っていたイスにちょこんと座ると、皿の中身を口に運ぶ博希を見ながら、聞いた。
「ヒロくん、どお?」
「ああ、俺は別にそこまでひどい目に遭ったワケじゃないしな?」
「そっか。ううん、ならいいんだけどね」
あの時のヒロくんがあんまり……ね、いつもと違ったもんだから。五月はそう言った。
「ごめんな、心配かけてさ」
博希は苦笑しながら言うと、五月の頭をくしゃっとやった。
まだ、だるい。博希はもう一度、眠ることにした。
翌日、博希は出流から、ディルの調子がほとんどよくなったということを聞いた。
「そうかあ、そりゃよかった」
「ところで――今こんなこと聞くのはどうかとも思いましたが。これから、どうします?」
「……そうだなあ……いったん、帰っても、いいか?」
「ぜひどうぞ。むしろ旅を続けたいとか言ったら、殴ってでも無理やり帰していたかもしれません」
「だったら聞くなよ」
苦笑。それでも博希は、出流の心遣いがありがたかった。
「博希サンのお家のことばかりを言っているのではなくね。僕は博希サンの身体も案じているのですよ」
「ホント悪いな」
「いいえ」
もう起き上がっても何の支障もないくらいに、博希の体は回復していた。




