Chapter:90 「テメーはっ、父親失格だ――――ッ!!!!」
「くす……さあ! ディル、キミもボクを楽しませてくれないかな?」
手から大きな光球が生まれる。あれは……!
「なんだっ!?」
その様子を横目に見た出流は、叫んだ。
「逃げてくださいっ、ディル! その光球に取り込まれたら――」
だが、ほぼ同時くらいに、ディルの身体は光球の中に入っていってしまった――
「うっわああああっ!」
「叫ぶと早くミイラになっちゃうよ? ふふ。楽しいね……!」
「デ、ィ、ル、…………」
博希は渇いた口で、ようやくその言葉だけを紡いだ。だが苦しさは変わらない。しゅるしゅると、自分の肌と炎がこすれる音だけが不気味に響いている。それにリテアルフィの笑いが、かぶる。
「ほうら、ディルがひからびていくよ。あはははははっ!」
「リテアルフィ様、こちらの勇士は自分がとどめを!」
「うん、そうして。ディルはボクがとどめを刺そうね」
あははははははは、高笑いが響く。
光球の中のディルは声にならない声をあげ、苦しそうに転がっていた。
「しぶといねー……」
博希はリテアルフィのその言葉を聞いた時、自分の中の何かがスイッチを入れたのを、はっきり認知した。何のスイッチだかは解らないが、何かのスイッチ。かすんでいた瞳が一瞬だけ、開く。
その瞳の中に飛び込んできたのは、光球の中の、ディル……さっきまで転がっていたはずの彼は、博希と目が合った瞬間、少し――本当にわずかに、笑った。
恐らくそれが彼の意識の続く範囲でのことだったはずである。その一瞬のみ、ディルは自分の意識を確立させ、そのあとは、深く、沈み込んだ。
――光球の中、ディルは、動かなくなった。
「あれえ? ……死んだかな?」
くすり、その笑いが耳に届いた瞬間、博希も動かなくなった。だが――
どくん。
どくん。
どくん。
彼は感じていた。身体中が心臓になっていた。頭の上から指先、足の先、神経の一本一本に至るまでが、脈動する。
「これで終わりだ、【伝説の勇士】! ディルもろとも、ここで死ね!!」
物騒な発言とともに、執政官が大刀を振るう。
どくん。
リテアルフィはもとより、出流にも、五月にも、聞こえた。博希の命の高まりが――――
どくん。
「……ヒロくん……!」
「博希サン、……まさか……」
ゆらゆらと、リテアルフィの炎が、何かに包み込まれて消えていく。
「これは……!? ボクの炎が!?」
博希の身体から少しずつもれているブルーの光が、リテアルフィの炎をかき消していく。
「まさか!? ボクの【鎖】が消えるなんて……!」
「……テメーは……」
ぼそり、つぶやく。
「なに……?」
「テメーはっ、父親失格だ――――ッ!!!!」
「う……ぐああっ!?」
光が満ちる! だがその光は、いつも博希の剣から発せられる光ではなかった。ブルーの、鮮やかな光――執政官は光に弾き飛ばされ、倒れる。
立ち上がった博希の身体中から、ブルーの光があふれ、彼の武器を――剣を、形作った。
やはり?
出流は思った。これで、まったく、同じになった。この前の五月サンと。
【声】を出していないのに、武器が、出た。光から。
これはなんだろう。五月サンの時に博希サンが言ったように、覚醒?
「くっ……」
リテアルフィはそうつぶやき、もう一度、手をかざした。恐らく光球を生んで、博希を封じ込めようという考えなのだろう、だけど、たぶん、無駄ですね。――出流はそう、思った。
なぜそう思ったのかは解らない。なぜか、絶対にうまくいかないのが、解っていた。光球が博希に迫る。五月は、出流にしがみついた。
「イーくんっ」
「……大丈夫です。今の博希サンなら、あれは、壊れます!」
「え……」
「いつかの五月サンと同じです。僕たちはどこかで、本当に【伝説の勇士】として目醒めようとしているのかもしれない」
まだ仮定の域を出ませんが。出流はそう言って、五月の頭をなでた。
そして、二人は、じっと博希とリテアルフィを見た。




