Chapter:89 「なにを守るの。誰を守るの!?」
「出流っ、五月! ……てめェ……!!」
「死にはしないさ。ただ――戦いが長引いたら、保証はしないけどね?」
「!」
「さあ! ボクを楽しませておくれ、もっともっと!!」
「リテアルフィ!」
「ディル。もっと憎みなよ、キミのお父さんを? 殺したいんだろう? 君が頂点に立ちたいんだ。殺しちゃいな? 今しか、ないよ……?」
笑顔ではない。否、笑顔ではあるが、凶悪な色が浮き沈みしている。リテアルフィのそんな表情を見て、五月はぶるりと――震え、身体を動かしかけたディルを、必死に抑える。
「ディル、だめえ! 殺しちゃだめ! ディルは自分のお父さんを殺して、なにを守るの。誰を守るの!?」
「……俺の村を……みんなを……!」
「ほうら。守るものはあるじゃないか。だったら殺しても、いいよね?」
「だめ! だめだよ、絶対にだめ!」
五月はディルを押さえながら、首をふるふると振っていた。出流はリテアルフィをにらみつけたまま、動かない。
博希は執政官と戦いながら、ディルに叫んだ。
「お前が父ちゃんを憎むのは勝手だよっ、だからって、殺すなんてこと、絶対するな!」
「ふん……ならば俺がディルを殺すわ」
「オメーもだよっ、自分の息子、殺してなんか得でもあんのか!」
「ヒロキ……、俺は……」
ディルが五月を押し退けて、立ち上がりかける。
「どうしても殺すのか。だったらディル、お前、お前の父ちゃんと同じになっちまうぞ!」
「え…………」
ディルの動きが、一瞬、止まった。
「人殺して、自分が頂点に立つ? 人殺して、支配する? 父ちゃんと同じことじゃないか! お前、父ちゃんが嫌いなのに、その父ちゃんと同じになるのか。そんなんじゃきっと、お前、いつか父ちゃんと同じように、誰かに憎まれて、恨まれて――……!」
博希の声がだんだんと小さくなる。ぷるぷると手が――震えている。
「それもよかろう? 所詮ディルは俺と同じ道を歩まなければ生きてはいけないのだ」
「……ディルだって一人の人間だ……お前の人形じゃない……っ!」
博希はそれだけ言ってうつむく。余計なことばかり考えてしまう。
俺はどうなんだよ。
俺だって、跡継ぎじゃないか……
父ちゃんと同じ道、歩もうとしてるじゃないか……
その瞬間だった。
「趣向を増やしてあげようね……!」
リテアルフィの右手から、先日博希を苦しめた【炎の鎖】が生まれる。
博希はその身をよじることで、向かってきた鎖が首に巻きつくのをなんとか防いだが、瞬間、彼はバランスを大きく崩した。
「うわああっ!?」
そして、気がついた。足。手。まるで蔓のように、【炎の鎖】は、博希の身体にまとわりついていた――!
「一本じゃないんだよ、【炎の鎖】は。甘くみたね」
くいっ、リテアルフィが手首を返すと、
「うあああああっ!」
「博希サンッ!!」
炎が一回り、大きくなって、博希の身体を炎に包む。
ぎっ、と唇を噛んだ出流と五月は武器を出し、博希のサポートに回ろうとディルから離れた。
リテアルフィはその瞬間を逃さなかった。
にやあ、と笑って、今度は左手をディルの前にかざすリテアルフィ。
もちろん右手は博希への【炎の鎖】攻撃を続けている。
「……、……っ、……」
博希は口をぱくぱくさせた。声が出ない、口の中も喉も、カラカラに渇いている……!
武器も手から取り落ちてしまい、絶体絶命であった。




