Chapter:88 「ちょいと歪んじゃいねェかい!?」
「……まさかヒロキ……お前たちが……【伝説の勇士】だったなんて……」
「悪かったな、黙ってて。できるだけ正体は隠すのがお約束だからよ」
笑う博希に、出流がやんわりと釘を刺す。
「そういった会話なら後にした方がよさそうですよ、博希サン」
「……わかってらな。久し振りだな?」
久し振り、と言われた相手は、くすり、と、笑った。
「そうだね? 回復が早いんだね、さすが【伝説の勇士】。楽しみだよ、今度はどんな風にボクを倒そうとしてくれるのか……!」
相手――リテアルフィの口角が上がる。
「リテアルフィ様、ここは自分が!」
執政官が胸を張ってリテアルフィに進言した。
そのすきに、出流と五月はディルを抱え起こす。
「そう。……失望はさせないでおくれよ?」
「はっ!」
執政官が大刀を出した。
博希は剣を構え、じり……と対峙する。
「……待ってくれ」
ディルが絞りだすような声で、言った。
「ディル」
「俺が……俺がやらなきゃ……」
「バカ! お前、そのケガで! それに――」
執政官をチラと見やり、博希はディルの瞳をのぞきこんだ。
「お前に任せてしまえば、明日にゃどっちかの葬式が出る! そんなことさせられるか!」
「……ヒロキ……」
なんで、お前は。
あんな、あんなヤツでも、殺さない?
ディルの瞳はそう語っていた。博希はその言葉を――読んだ。
「……言ったろ、いつかは許せるはずだから。ましてお前のたった一人の父ちゃんじゃないか、あんなんでも」
「ヒロキ、」
「話は後だ。ここは俺たちに任しとけ。いくぞおおおおッ! アース・ファイアー!」
【声】の発動とともに、博希の剣から光が生まれる。
「ぬうっ」
執政官は自らの大刀でそれを止めた。
「ちいっ! ……あんた、ディルがどんなに苦しんだかわかるかっ!?」
「知らんな! 俺の跡継ぎたる者、なにに苦しむことがある!?」
「あんたの村民支配ぶりに苦しんでたんだ! それもディルへの【跡継ぎへの期待】込みでの愛情だとしたら――ちょいと歪んじゃいねェかい!?」
博希の攻撃を受け止めつつ、執政官は笑った。
「ちゃんちゃらおかしい! ゆくゆくはディルも支配する側にまわるのだ、俺のように、リテアルフィ様の配下、ひいてはレドルアビデ様の配下として!」
「俺は……俺はてめェみたいな支配はしない! 絶対……に!」
ディルが叫ぶ。
「それはどうかな……? 支配の快感を覚えれば、お前も必ず、俺と同じことをする! なにせ同じ血が流れているのだからな!」
「!」
ディルは一瞬、泣きそうな表情になるが――すぐ、その瞳を再び、憎しみの満ちた瞳に変えた。
「黙れ……っ! てめェと同じ血が流れてると考えただけで体中に鳥肌が立つ!」
「おやめなさい、ディル!」
「やめなくっていいよ……?」
リテアルフィがにやあ、と笑いながら、つい、と手を操る。
その場はあっという間に、炎の壁に囲まれた。
まるでそれはひとつの大きなリングのようだった。
「うっ」
背中を炎の壁に預ける格好になってしまった出流と五月は、ディルを支えたまま、逃げ場所をなくしていた。




