Chapter:84 「そんなに気安いものじゃないと思う……」
出流はディルのそのセリフを聞き逃さなかった。今彼はなんと言った。
『俺もできれば手伝いたい』
今までにそんな言葉、聞いたことがない。コスポルーダ人の誰からも!
「手伝いたいって、【伝説の勇士】が来たら、そう言うつもりか?」
「まぁな。俺の決意は固いぜ」
「執政官を倒すことになるんだぜ?」
「わかってるさ。いまさら何を言う」
三人は戸惑った。コスポルーダ人が【戦わない】人種だということを、スカフィードの言から知っていただけに、なぜこんな発言をする者がいるのか、測りかねた。
「みんな、助けを待ってるだけじゃねぇか。わかんねーよなぁ」
「それがこの世界の常識じゃなかったのか……?」
博希はつぶやいた。
だがディルにはその言葉の意味自体がよくわかっていなかったらしい。
「俺の常識は俺の常識さ。みんなの常識はみんなの常識」
「それは……そうでしょうけれども……」
「早く来ねぇかな、【伝説の勇士】。俺も仲間に加えてもらいたいんだけどなぁ」
五月はそれを聞いた時、なぜか――下げていた首をくん、と上げて、困ったような表情でディルを見た。
「あのね、そんなに、軽いものじゃないと思うの。ん、あの、なんとなくなんだけど、でも、そんなに気安いものじゃないと思う……」
これは五月なりの、精一杯の伝え方だ。
そう察した出流と博希は言葉をつないだ。
「確かにな。あんまりいいもんでもないと思うぜ、ディル?」
「そう――勇士とはいえ、人を傷つけることに変わりはないわけですからね」
「なんだ、ノリが悪いなぁ。お前たちはあんまり好きじゃないんだ、【伝説の勇士】のこと?」
「そういうわけじゃないんだけどさ……、なんて言ったらいいんだろ、カッコいいことばっかりじゃないってことだよ」
「ケガだってする。ヘタをすれば瀕死です。辛いことだってあるし」
「いくら相手が悪いっていっても、誰かを倒したらいい気分はしないもの。大変だと思うの、【伝説の勇士】として戦うのって」
「ふうーん…………」
ディルはなんだか、納得いったのやらいってないのやら測りかねる表情で、ため息ともつぶやきともつかない言葉を漏らした。
それで、その話は終わりになった。
小柄で細身の影と、大柄でゴツい影が、並んで長く伸びていた。
「リテアルフィ様」
「……ああ、どうだい、キミの屋敷の方は?」
「日毎に労働力が減っていっていますな」
「だろうねぇ。……反乱の気配は見えない?」
「……一人……いますがね……青年です。名前は……ディル」
「ディル? それは確か」
「ええ」
面白くなってきたねぇ……そんなつぶやきが、暗闇の中から聞こえた。
「どうするつもり?」
「……手をお貸し願いたいですな……」
「そう。じゃあ、そのうち、行くね。……いいの?」
「よくなければ頼みなど致しません」
「殺しちゃう、かもよ?」
「……、……構いません」
影はくぐもった笑い声を重ねるのだった。




