Chapter:83 「通じるんだからいいんじゃねぇのか」
その夜、新入りの博希たちは仕事がなく、ディルも口実つきで仕事をサボった。
「いいのかよ」
「いいさ。お前たちともっと話がしたいと思ったんだよ」
「話? ……」
「聞きたいことがある。お前たち、どこから来た?」
「あー、ぼくたちはね、ア……」
「五月サンッ」
慌てて出流は五月の口を押さえた。
「あ?」
「その、あ、あ、あんまり決まってないんです、ずっと旅をしてきたもので」
「な、何でそんなこと聞くんだよ?」
「言葉がな」
ディルは首をひねった。
「ずいぶん、聞いたことのない言葉だと思って――」
「ああ、そういえば、なんでぼくらの言葉が通じるのかな」
「さあ、僕も実はずいぶん謎に思ってたんですが、なぜでしょうね」
もちろんこの五月と出流の会話はぼそぼそと交わされたものである。
「通じるんだからいいんじゃねぇのか」
博希の一言で、その話題は終わりを告げた。
のちに三人はスカフィードから『コスポルーダ人にはどんな辺境の地に住む人間の言葉でも翻訳して話せるし、相手の言ったことを理解できる能力がある』ということを聞いて、この世界で普通に自分たちが言葉を話せる理由をやっと理解することになる。
「ま、通じるんだしな。すまん、くだらんことを聞いた」
「いえ。……ははは」
出流は笑いにならない笑いを発した。が、背中には冷や汗が流れっ放しだった。いつになくツッコミの厳しい人物にぶつかったかもしれませんね――出流は楽しそうに語らう博希とディル、そして五月を見ながら、ちょっと苦笑するのであった。
「それにしてもよお、ここ、ちょっとおかしかねぇか。滞在税が払えないっつったら即強制労働なんてさ。――お前はどうしてここへ来たんだ、ディル」
「ああ……特別村民税を無視したんだ。――そしたらここにぶち込まれたよ」
「もしかして、他の人たちも、同じこと?」
「そうさ。こじつけてでも、執政官のヤツ、村民全員を強制労働させたいのさ」
「造っているのは執政官様のお屋敷だと聞きましたが……」
「あんなヤツに様づけする必要なんかない。……あんなヤツに」
ディルはどこか思い詰めた表情をした。
「みんな信じてる、いつかは救われるってさ。だからあれだけ病人が出ても働き続けていられるんだ」
「救われる……」
「聞いたこと、ないか。【伝説の勇士】っての」
一瞬、空気が凍る。
「……【伝説の勇士】?」
五月が上目づかいで聞き直す。
「うん。どうやらこれまでにいろんな都市を平定して回ってるらしいんだよな」
「……あ、あーああ、……聞いたことはありますねえ……」
出流はかなり怪しく目を四方八方に泳がせて、やっとその言葉を紡ぎだした。
「俺ね、憧れなんだよ、【伝説の勇士】。カッコいいじゃないか、コスポルーダを助けてくれてるわけだしさ」
「まあな、……」
「だからさ。俺もできれば手伝いたいなぁなんて、そんなこと考えたりなんかしてなー!! はははははは」
「え、……!?」




