Chapter:82 「兄貴と思ってくれればいいんだからさ」
「貴様らが新入りか」
「不本意な新入りさ」
博希は目の前のゴツい人物に向かってそう毒づいた。
「ふん。まあいい。――建築の経験は」
「三人ともねェよ」
「では地上労働だな、早速今から働いてもらおう。二人は作業に入れ! もう一人は――俺の部屋に来い」
もう一人、とは五月を指して言ったものである。
ちょっと待て!
出流と博希の背中にさっと悪寒が走った。
ヴォルシガの再来かはたまたスイフルセントの再来か。どっちにしろこれはまずかろう。というかなにしろ目が危ない。
ふたりは五月の前にバッ、と躍り出た。
「何か勘違いをなさってはいませんか。五月サンは男ですよ!!」
「五月はなぁ、お前みてェなマッチョお呼びじゃねぇんだよ! シッシッ」
人物はそこまでの発言は一応許した。が、やはり博希の発言はやや失礼に当たるものだったらしい。
「貴様には多少言葉遣いの教育もしなければなるまいな……だがこいつは本当に男か?」
「そうですよ。聞こえませんでしたか? 僕らはもう何年も一緒にいるんです、いまさらなにの間違いようもありません」
「なら俺がこの手で確かめる! とにかく来い!」
「いやだあ、ヒロくーん、イーくん、助けてええ」
腕を引っ張られかける五月。もし本当に男だったらどうするつもりなんです、というツッコミをかます前に、出流はなんだか自分でも説明のつかない怒りにふいに襲われた。
「博希サン、」
「ああ!」
二人は精神的に限界を迎えた。鎧装着決定! 手の甲に手をやったその時、
ガイン。
後ろから迫ったツルハシの角が、五月を引きずる男の脳天にヒットした。
「あれ? 当たっちまったか? ……すいませんね、このツルハシ重くって」
どうっ、と倒れた男の後ろから、白い歯を見せてニッと笑う青年が出てくる。
「……貴様あ……ディル!」
「こいつらは俺が連れて行く。どうせいろいろ教えてやらなきゃいけないんだしな」
「ぬう…………」
「いいですねー、はい、そんじゃ」
ディルと呼ばれた青年は、博希たちをぐいぐいと引っ張っていく。
「えっ、おい、あんた、……」
「しっ。いいから俺についてこいよ、悪いようにはしねェから」
「あ、ありがとうございます……」
ディルも含めた四人は、狭い小屋へ入っていった。
「……ディル……め……いまに見ておれよ……!」
小屋の中、膝を突き合わせて、青年はにっこり笑った。
「俺の名前はディルっつーんだ。呼び捨ててくれていーぜ。お前たちは?」
「ありがとな、俺は博希。こいつらは友達の出流と五月」
「よろしくな。――さて」
「どっか行くのか?」
「夜間の仕事だよ。お前らはここにいろ、俺がごまかしとく」
「夜間……何時まで?」
「さあなア。ここじゃあろくに寝る時間もくれやしねェ」
そう言って出て行くディルの瞳に、一瞬だけ、鋭い――攻撃的な光がよぎったのを、博希は見逃さなかった。
「…………」
翌朝、まだ明るくならないうちに、博希たちは叩き起こされた。
「さっさと起きろ! 持ち場につけぇ!!」
「うおわ」
「んん~~~~」
寝起きのよい出流を手伝って、ディルも博希と五月を揺する。
「そういえば、ディル。僕たち、どこで働けばいいんでしょう?」
「とりあえずは三人とも俺と同じとこでちょいちょいやってりゃいいさ。何かあったら俺がサポートするから」
「何から何まで申し訳ないな、ありがとな」
「ナニ頭下げてんだよ! 兄貴と思ってくれればいいんだからさ」
そういえば三人とも兄と呼べる立場の人間はいない。心のどこかでここに入ったことをちょっと喜びつつ、三人は作業に入った。
地上労働は主に造園作業。やたら広い土地を耕しながら、土くれを運んだり、湖を掘ったり。しかも休憩はなし、それにましてこの暑さである。ディルの話だと、一日に必ず一人は病気で倒れているらしい。
「……腹減った……」
「我慢しろよ。食事は一日二食、それもショボいスープとパンだからな……大事に食わないとすぐなくなる」
「げえっ! じゃ朝食った後は夜までナシかよ!?」
「そう」
博希はへなへなと膝を折った。
「サボるなそこっ!」
見張りの声が飛ぶ。
「ヒロキ、これ食え、見張りが来る前に」
「ご、ごめん、ありがとう……」
博希は急いでディルからもらったパンの端切れをかっこんだ。
「これから、飯は少しずつ残して、こっそり食ったほうがいい。でないともたねぇからな」
昼の仕事はそうして終わった。




