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窓の中のWILL―勇士様は高校生! 凸凹トリオが世界を救う―  作者: 担倉 刻
―Fourth World―  老舗の寿司屋は冷戦中につき休業中?
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Chapter:77 「私には記憶がない」

 がさ、と音のする中、「ぐう」とうめいて、博希は重い頭を起こした。

「気がついたか」

 ぱちり、と、炎のはぜる音がした。

 火がたかれている、と気がつくと同時に、博希は人影を認める。

 長い髪を後ろでひとつに結った女性が、少し、はにかんで、言った。

「お前……リオール……」

「覚えていてくれたのか。そう、紅の騎士、リオール……」

 リオールのほうに向こうとして、身体を動かす。

 その時のがさりという音で、博希は、自分がわらの上に寝ていたことを知った。

「なんで、お前が。……リテアルフィの野郎は!?」

 身体を起こす。あちこちがつきつきと痛んで、彼は顔をしかめた。

「リテアルフィは……多分自分の都市に戻った……お前は眠っていたのよ、三日間」

「三日……」

「そんな身体で、リテアルフィを追うことだけを考えていたのね。“ほころび”をくぐってきたときにはもう、意識をなくしていた」

 博希は自分のTシャツをめくって腹を見た。腕も見た。包帯が巻いてある。

「これは……お前が?」

「そう。……あまり、上手くないが」

「いや……」

 博希はそう言って黙った。リオールは薪を継ぎ足した。

 ぱちり。また、はぜた。

「リオール……なぜ、俺を助けた? 今だけじゃない、これまでもずいぶん、お前、俺たちを助けてくれてる。なぜだ。お前、本当は【伝説の勇士】なんじゃないのか。俺たちにそっくりなんだから――」

 言いかけた博希を、リオールは手で制した。

「多分、違う」

「違う……? 多分……?」

 リオールは博希のほうを見ないで言った。

「私には記憶がない」

「記憶が?」

「なぜリオールと名乗っているのか、なぜこの世界にいるのか。わからない」

「……そんな……」

 博希はリオールがついでくれたスープを手にとって、じっと眺める。

「毒は入っていないぞ」

 リオールはくすりと笑った。

 博希はその笑みに、心のどこかがどきんと跳ねた気がした。

 この笑顔を、博希はどこかに、記憶している。しかしそれがどこなのか、わからない……。

「身体の調子はどうだ?」

「ん? ……ああ、もう、ずいぶんいい」

 博希はスープを飲み、器を返した。やっと、笑うだけの気力が戻ってきた。

 そうして、わらの上から降りようとした――が、その時、彼は、少しだけ足がもつれた。

「っと……」

 よろけて倒れかける博希。リオールは瞬間、多分自分でも信じられない行動に出た。

「危ない、松井くっ……!」

「え……!?」

 リオールは博希の下に入って、博希を受け止める形になった。無論博希はそんなことをされなくてもなんとか身体を支えるだけの体力は戻っていたから、大丈夫ではあったのだが、リオールの身体がクッションになって、ずいぶん、衝撃はさけられた。

 だが、今、博希が気になっていたのはなによりも、

「リオール」

 自分を支えた彼女が、

「お前……なんで俺の名前……」

 一瞬、自分の名を呼んだことだった。だがリオールは案外にけろりとしていた。

「さあ? 聞き違いではないのか」

「……そっか? ……」

 博希はまだ心の中に引っかかったものがあったが、とにかく、このままここに居残っているわけにもいかないし、スカフィードのところへ行くこともできないしで、いったんアイルッシュに帰ることにした。

「世話になったな」

「いや、そうでもない」

「……じゃあ、な?」

「また」

「…………」

「…………」

「…………」

「……さっさと“ほころび”を開いたらどうだ」

「……あ、ああ……」

 博希はなぜか、このままここにいなくてはいけないような気が、一瞬、した。


  ……なんかリオールから聞こうと思ったんだけど。

  ま、今度会えた時で、いっか……


「ホールディア!」

 博希が唱えると、すぐに“ほころび”は生まれた。

「じゃあ、帰るぜ」

「ああ。またな、【伝説の勇士】……」

 博希は“ほころび”の中に足をかけて、中に吸い込まれていった。リオールはそれだけ見送ると、すこしだけ、辛そうな顔をした。


  ……すまない。

  私は……お前に、ウソをついている。

  私が、レドルアビデ様のもとにいる者だということを……

  言わなかったことと……


  そして……

  本当はあの時名前を呼んだこと……


  マツイ、…………


  その名前を……

  私はなぜ、知っている…………。


 風が少し吹いた。リオールは一人、いつまでもそこに居続けた。

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