Chapter:76 「その少年――私が、預かる」
カラン……
博希の剣が“ほころび”から落ち、コンクリートを滑って、倒れていた出流の頭にこつん、と当たる。
たぶんそれが功を奏したのだろう、出流は少し、動いた。
「……っ」
どうやら気を失っていたらしい。
口の中が乾いて、気持ちが悪い。水が欲しい……よく見ると身体のあちこちも、まるで干物のように乾いている。
出流はしばらく、横になったまま、空を見ていた。
……少し涼しくなりましたか……?
風がふいと自分の頬をなでた。ということはリテアルフィが消えたのか。
そこまで考えて、出流は自分と一緒に戦っていたはずのもう一人の影が見当たらないことに気がついた。
「――博希サン?」
見回すと、そばには博希の剣。出流はがばっ、と起き上がった。
剣だけ残してどこに消えたというのだ。
「まさか……コスポルーダへ? ……」
目を覚ます前に、わずかに感じた“ほころび”の感覚が、ふうとよみがえる。
「リテアルフィを追ったんですかもしかして……? 一人で? 無茶だ!」
その時、剣が静かに消えた。
「!」
鎧装着が解けたのか、出流はそう思った。自分もあとを追うことを考えたが、今の体力では絶対に動くことさえままならないはずである。
心配ではあるが、共倒れになるよりは――と、出流は博希を信じることにした。
雲がわいて、ぱらぱらと雨が降り出す。
これで少しでも水がよみがえってくれればいいんですがね……出流はつぶやき、屋上のサクにもたれて目を閉じた。
どさっ。
博希は着地に失敗した。というのもその時すでに、彼は気を失っていたのである。
「たいしたもんだよ、その状態で追いかけてくるなんて」
くしゃっとなった裾をピン、と伸ばしながら、リテアルフィはつぶやき、倒れこんだ博希を見やった。
ホワイトキャッスルはすぐ近くにある。
――連れて行くか。
それも面白いかもしれないねえ、
レドルアビデ様がこの勇士をどういうふうに利用するか――
その時、りんと響く声が、彼の頭上で響いた。
「待ちなさい。その少年――私が、預かる」
木の上に人影。リテアルフィは少しだけ後ずさって、右手を光らせた。
「誰だい?」
「……リオール。紅の騎士、リオール」
「ふん……イヤだと言ったら? タダでモノを譲るのはキライな性分なんだよね」
「文句があるのならレドルアビデ様に申し出て。……これは命令ではないけれど」
形のよい唇が、少し、もちあがった。
「へえ。レドルアビデ様の【お知り合い】なわけだ。――本当だろうね?」
「私は嘘は言っていない」
「あっ、そ。まあ……もし嘘だったらボクの手でズタズタにするだけさ」
脅しめいた言葉を残してリテアルフィが消えたのち、リオールは気を失ったままの博希とともにその場を離れた。




