Chapter:75 「売った喧嘩の責任はとれ――――ッ!」
「……のヤロー……放せっ!」
「いやだね」
即答した後ににやあと笑うと、リテアルフィはくん、と喉を鳴らし、舌をだらあんと出した。
口の奥から――――鮮やかなオレンジ色の光球が吐き出される。
「うげええぇぇぇっ!!??」
微妙にぬるりとするその光球はどんどん大きくなって、博希の手や足をずぶりずぶりとうずめていく。
もがけばもがくほど、手足は光球の中に呑みこまれていく。
リテアルフィはいつの間にか博希から離れ、楽しそうにその様を観察していた。
「てめ、リテアル……フィ……」
埋もれたところが、異様な熱気に包まれて、乾いていくような感覚。
光球の中に浮かびながら、博希はほぼ全身でそれを感じていた。
「ああ、楽しかった。キミのこと――もう殺しちゃおうね……」
「!」
光球の中でそれだけ聞き取った博希は、苦痛にゆがめた顔をもっとゆがめる。
リテアルフィがその顔に最高の愉悦を感じたときだった。
彼は自分の脳内に、ピシリと響く何かを感じ取った。
「……?」
ばっ、と、振り返る。だがリテアルフィの目に映るのは、倒れた出流だけ。
ピシリ。まただ。
「誰、だい?」
リテアルフィはその正体を捜して、自分がいる場所から、視点を下へずらした。
≪解っているはずだ。殺、す、な≫
ぱちんっ、絶対に聞こえないはずの指のはじき音までが響いたすぐ後、博希の光球は、はじけた。
出流と同じく、その場に倒れ込むが、博希も起き上がってこない。
「――レドルアビデ様? まさか……」
誰も人の通らない大通りに、一つだけ、ぽつんとたたずむ人影を、リテアルフィは認めた。その人物は、高いところにいる自分をまっすぐに見つめている。
アイルッシュ人?
「アイルッシュ人が……なぜ、レドルアビデ様と同じ【もの】を!?」
≪そんなことはどうでもよいこと。それ以上手を出せば、破滅するのは【お前】だ≫
「こいつらに、そんな力があるとでも――」
≪見てみろ≫
「……え?」
よろり。
リテアルフィは自分の背後で動く影を見て息を呑んだ。
動けないはず、現に、もう一人――それは出流のことであった――はまだ、起き上がってこないのに。
博希は、体を小刻みに震わせながら、剣を支えに立ち上がろうとしていた。
「そんなバカな!?」
≪解ったか? “ほころび”を開いたほうが、利口だ≫
リテアルフィはきゅ、と、拳を握った。そして、やや自虐的ににやあと笑うと、言った。
「……勝負は預けたよ? ――でもキミを倒すのは、ボクだ。――ホールディア!」
その瞬間だった。
「行かせるかァ――――!!」
渾身の力を込めてそう叫んだ博希は、リテアルフィの服の、長く伸びた裾をつかんだ。熱いコンクリートの上で身体が引きずられるが、そんなことは気にしていられない。
「なっ……!?」
すでにその時、リテアルフィの半身は“ほころび”の中に入ってしまっていたので、彼は、必死になって博希を引きはがそうとしたが、博希の精神力のほうが、この場合は強かったらしい。
「放しなよ……!」
「放さねェェェ!! 売った喧嘩の責任はとれ――――ッ!」
二人はくんずほぐれつ、むちゃくちゃになりながら、“ほころび”の中に消えていった。




