Chapter:74 「あの三人、まだ殺すべきではないぞ……」
捜すまでもなく、博希と出流の目にリテアルフィはとても目立って映った。
高い空の上、自らの服を風にはためかせながら、おぞましい――と表現するしかない笑みを浮かべ、その少年は下界を見下ろしていた。
ぎっと、唇を噛んだ彼らは、素早く鎧装着を完了させる。
だが、飛び上がって同じフィールドに立ったふたりを待っていたのは――
「……っぐ!」
リテアルフィの手から放たれた、細く、しかし激烈に輝くオレンジ色の鎖が、博希の首をとらえた。
「博希サンっ!! ――以一簣障江河――武器招来! 必殺必中!!」
出流は瞬間的にリテアルフィめがけ、弓を引いていた。
炎が博希の首を焼く。一刻の猶予もならない!
「ボクには当たらないよ」
リテアルフィは出流の方をちらと見て冷たく言い放ち、にやあと笑った。
炎の鎖を操る片手を緩めることなく、もう片方の手からオレンジ色の巨大な光球を生まれさせる。
音がして、出流の矢は光球に飲み込まれてしまった。
「くっ……! 点滴穿石!」
続けて矢をいくつも放つが、すべて光球の中に埋もれてしまい、じゅっ、と溶けて見えなくなってしまう。
出流は次の矢をつがえようとしたが――光球はそれよりも早く、彼の腕を中にうずめた。
「――――!」
出流の声にならない叫びとともに、リテアルフィの「くすり」という笑い声が、静まり返ったあたりに響く。
「出流ぅっ!!」
叫ぶ博希の首を炎の鎖が絞めつけ、「ぐぼ」という息がもれた。
光球の中に完全に埋もれてしまった出流は、まるで酸素不足の金魚のように、乾き始めた口をぱくりぱくりと開閉している。
「あはははははははは」
両の手に力を込めながら、リテアルフィは本当に楽しそうに、笑った。
「てめェ――――!!」
博希の首にまとわりついていた炎の鎖が、はじけ飛んだ。
学校の屋上で、安土宮零一はネクタイを緩めてつぶやいた。
「やりすぎている、ようだな」
涼やかな顔で、彼は空を見上げる。
「さすがリテアルフィ、といったところか。――だがあの三人、まだ殺すべきではないぞ……」
屋上から下りた彼は、そのまま、やはり涼やかな顔で街のほうへと歩きだした。
一瞬だけ、その顔に、にやあという笑みが、浮かんだ。
鎖がはじけ飛んだ瞬間、博希は素早く剣を握った。
「――楽しいね。ボクの鎖を破った人なんて、初めてだよ」
「……伝説の勇士に、不可能なんてねェんだよ……!」
間髪入れずに、博希の剣が出流の入る光球をぶった切る。
青い光が光球を真っ二つにし、出流は鎧装着が解けた状態でどっとその場に倒れこんだ。
「出流!」
叫ぶが、出流は起き上がってこない。
「ボクの【魔法】で水を奪ってやったんだ。そう簡単に目覚めるもんか!」
博希はそれを聞くか聞かないかのうちに、まっすぐリテアルフィを狙って剣を振り下ろした。
「くらえっ!」
「そうは――いかないよ」
にやあと笑いながら、しかし、瞳は冷たかった。
リテアルフィは右手を広げると、オレンジ色の炎を生んだ。
瞬間!
彼の手から生まれた炎が、どんっ、と大きくなり、まるでエアバッグのように、博希の剣をはじいた。
「うあっ!?」
博希の身体は反動で吹っ飛び、ビルの屋上にたたきつけられる。
あお向けになった彼の腹の上に、リテアルフィがとん、と乗って、両腕を押さえつけた。
「これほど戦い応えのある人と戦えるなんて幸せだねえ。でも、ここまでだ」
ダメだ。
動けねぇ、なんて力だ……!




