Chapter:72 「あげないよ、ぼくたちの世界だもん!」
陽炎が揺らいだ。
少年の両手に炎が生まれ、丸く形を成す。
「レジェンドプロテクター・チェンジ!」
「勇猛邁進・鎧冑変化!」
「ヨロイヨデロー!」
三人はほとんど同時に叫んだ。
丸い炎は三人をめがけて複数個に散らばり、それぞれを狙う。
「必殺必中!」
出流の矢が炎を貫いた。破けた炎はぼとりぼとりと落ち、新たな陽炎となって暑さを生む。
「やるねぇ」
少年はにっこりと笑った。
「でも残念だけどここで戦うつもりはないんだ、ボクの都市を破壊するわけにはいかないからね」
「あなたの都市!? ではあなたはまさか――」
「総統か、お前! まだ子どもだろ!?」
剣を構えた博希の言葉に、少年は少しムッとした。
「子どもじゃないよ……ボクの名はオレンジファイ総統、リテアルフィ! アイルッシュはボクがもらうね、【伝説の勇士】。とても面白い世界だって聞いてるからさ……!」
「ええっ」
五月が汗で顔に髪を貼りつかせて叫んだ。
「もらうってなに! あげないよ、ぼくたちの世界だもん!」
「さあ、それはどうかな……じゃあね」
リテアルフィはそれこそ、まるで陽炎のようにかき消えてしまった。
「喧嘩を売りやがったな……!」
博希がぎりっと奥歯を噛む。
「出流! 五月! すぐ帰るぞ!」
「罠かもしれませんよ!」
「でもでも、あの子がホントにアイルッシュをもらうつもりなら、この前とおんなじことになっちゃうかも……!」
五月の言うとおりだった。自分の都市を破壊したくなくてここで戦うつもりはない、というのも理屈としては確かだし、罠かもしれないが、戻ってリテアルフィを止めるしかない。
「……五月サン、フォルシーを呼んでください!」
「うん!」
五月が素早く笛を吹く。
フォルシーはすぐにやってきて、三人を乗せて飛び立った。
「リテアルフィがアイルッシュに向かった!?」
三人から状況を聞いたスカフィードは、先程感じた“ほころび”の正体を知った。
「売られた喧嘩は買わねーとなァ! だからいったん帰るんだ!」
博希が鼻息荒く、机をバンバンと叩く。
「わかった、しかし、くれぐれも気をつけろよ」
「おうさ」
「いきますよ――『ホールディア』!」
三人を飲み込んで、“ほころび”は消えた。
「勇士たる三人を挑発するとは……余程自信があるのか、リテアルフィ……」
「到着っ」
今度はうまく着地して、三人は温室に戻ってきた。
きい、と静かに扉を開けて外に出る。
「今、ちょうど午前十時ですね……」
出ていく前とは明らかに違う熱気が、あたりを包んでいた。
「ね、ね、イーくん。こんなに暑くなるものかしら」
いくら夏で、出て行ったのが早朝だったとはいえ、この時間、博希たちの住む地域でこれだけ暑くなるのは異常なことだった。
肌の白い五月が汗をダラダラと流す。
「まさか、もうリテアルフィがなんかおっぱじめてんじゃねぇだろうな!」
博希が空を見て叫んだ。
「リテアルフィを捜しましょう、この気候が続けば危険です!」
駆けだす三人を、安土宮が陰から見つめていた――――。
「いい天気だな、今日は。リテアルフィが戦うにふさわしい」




